オンラインゲームの世界をひっそりと支える存在として、2000年代半ばに「ゴールドファーマー」と呼ばれる人々が話題になった。ゴールドファーマーとは、中国農村部に並べられたPCに向かい、ひたすらゲームをプレーしてアイテムやゲーム内通貨を稼ぐプレーヤーたちのことだ。そのインパクトの大きさから、当時は大きな注目を集めた。
彼らはほかのゲーマーとコミュニケーションを取ることなく、ゲーム内通貨やアイテムをひたすら収集する。そして、まとめ役がそれらを現実世界の現金と交換することで生計を立ててきた。このビジネスを支えているのが、公式・非公式を問わずさまざまなマーケットで、ゲーム内通貨やアイテム、アカウントと現金との取引を行う「リアルマネートレード(RMT)」である。
しかし近年、中国国内における人件費の上昇や規制強化により、従来の「中国の農村にPCを並べる」モデルは採算が悪化している。そこで一部の事業者は、まず東南アジアや南アジアに拠点を移した。さらに最近では、より低コストな労働力とスマートフォンの普及が進むアフリカに新たな可能性を見いだし始めており、そうした情報が発信されつつある。つまり、中国人がアフリカでゲーム代理プレービジネスを始めたことで、言わば「アフリカンゴールドファーマー」と呼ぶべき存在が誕生しているというわけだ。
マダガスカルの「スマホネットカフェ」の裏側
島国マダガスカルの首都アンタナナリボには、外から一見すると普通の民家にしか見えない「スマホネットカフェ」が存在する。扉を開けると、簡易な木製の机が並び、その上には中国向けの中古Androidスマートフォンがずらりと置かれている。そこに10代後半から20代の若者たちが座って画面を見つめ、中国向けのFPSゲーム「三角洲行動(デルタフォース)」などをプレーし続けているのだ。
電力が不安定な現地において、中国人が「充電済みで十分な電力のあるスマートフォンを使えるネットカフェ」をオープンするという話も発信されているが、その場を活用したゲーム代理プレービジネスはさらにその先を行っている。
このビジネスのオーナーである呉氏は、30代半ばの山東省出身者だ。中国国内で不動産ビジネスなどに携わったのち、事業の行き詰まりをきっかけにマダガスカルへと渡った。現地で鉱山ビジネスや工芸品工場を経営していたが、やがて暇つぶしでプレーしていたオンラインゲームから、ゲーム代理プレービジネスを思いついたという。中国のゲーム代行市場は情報があふれるほど一般的だが、マダガスカルには「わずかな賃金のために長時間働く」若者が多い。呉氏はこのギャップにビジネスチャンスを見いだしたのである。
呉氏はまず、自身の工場のワーカー数人に声をかけ、自らのスマートフォンでゲームのやり方を教えるとともに、効率よくアイテムを取得する方法を紙に書いて壁に貼ることから始めた。数週間もすると、ゲーム内の通貨生産量を安定させられるようになった。そこで中古スマートフォンを数十台導入し、さらには200台程度の規模へと事業を拡大した。
さらにインフラも強化した。現地の電力事情が悪く、頻繁に停電が発生することから、太陽光発電と蓄電を組み合わせた自前の発電設備を整備した。通信環境についても現地キャリアと交渉して大容量データプランを契約し、固定の光回線と合わせて冗長構成にすることで、24時間稼働体制を構築した。
この施設は、表向きには1時間20円程度のスマホネットカフェとして一般利用者を受け入れつつ、裏ではゴールドファーマーを雇ってゲーム代理プレーを行っている。ゴールドファーマーはネット料金を払う必要がなく、逆に月1万円台前半の固定給に加えて、ゲーム内通貨の生産量に応じたボーナスを受け取る仕組みだ。
当初、マダガスカルにおいて「ゲームをプレーするだけで報酬がもらえる」という話は前例がなく、詐欺だと疑われた。しかし、日雇いの日給制を採用したことで、実際に現金を手にしたゴールドファーマーが友人を連れてくるようになり、徐々に働き手が増加。結果として、毎日100人以上がこのスマホネットカフェ内でゴールドファーマーとして働くようになったという。
やがて従業員一人ひとりに出勤カードを持たせ、ゲーム内のログに基づいて日次および月次の「生産量ランキング」を掲示するようになった。遅刻や無断欠勤にはペナルティを科し、トップ層にはボーナスや端末のアップグレードを提供してモチベーションを喚起する。まさに工場的なマネジメントが導入されていったのである。
アフリカ大陸に広がる「サイバー工場」の実態
また、ザンビアの首都ルサカでも、PCとスマートフォンを組み合わせたゴールドファーマーの施設が立ち上がっていることが報道されている。ルサカでも、不安定な電力というインフラ面の問題や、「ゲームで現金が稼げる」ことに対する詐欺の疑いといった信頼面の問題に直面したが、後者についてはやはり日給制を導入することで信頼を獲得した。
人が集まると、PCの操作に慣れた人はPCでのゲームプレーに、スマートフォンに慣れた人はスマートフォンでのゲームプレーに役割を割り当てた。月収は、ザンビアの平均賃金よりやや低い、月600元相当に設定されているという。
マダガスカルとザンビアのケースは氷山の一角に過ぎない。香港や台湾のメディアは、ケニア、コンゴ民主共和国、アンゴラなどでも中国人オーナーが施設を作り、ゴールドファーマーを育成していると報じている。
月給500〜1000元相当で現地の若者を雇い、ゲーム内通貨を生産する「工場」が、アフリカ大陸で続々と生まれているわけだ。賃金が中国よりも圧倒的に低く、スマートフォンとネットインフラが一定程度普及していながら、なおかつ失業率の高い国がターゲットにされる傾向にある。
RMTが作り出したゴールドファーマーという仕事は、アフリカの若者にとって、室内でゲームをするだけで月1万円余りの収入を得られるため、既存の肉体労働と比べて非常に魅力的に映る。一方で彼らの労働は、ゲーム会社・課金プレーヤー・中国側仲介業者を取り巻く利益構造のなかで最も低い報酬水準に置かれており、社会保障やキャリアパスも不透明である。
そのため、このビジネスモデルを「サイバー植民地」「サイバー奴隷」といった強い言葉で批判する声も上がっている。だが、そんな批判はどこ吹く風とばかりに、中国人はアフリカの地で、かつて母国で栄えたビジネスをたくましく展開し続けている。

