ミラノを離れベネチアへ

取材最終日は早朝にミラノを発ちリムジンに揺られて水の都ベネチアへと向かった。目指すは、カステッロ地区の旧サン・ロレンツォ教会を改修したユニークな展示空間「オーシャン・スペース」である。

ここで開催されているのは国際的なアーティスト集団「リパトリエイツ・コレクティブ」による展覧会「TIDE OF RETURNS(帰還の潮)」である。アルカンターラは2011年以来、世界中の美術館やクリエイターとのコラボレーションを継続しているが、今回はボリビア系ドイツ人のアーティスト・研究者であるヴェレナ・メルガレホ・ヴァイナントによるサイトスペシフィック・インスタレーション「ウィービング・コネクションズ(織りなされる関係性)」の制作を支援している。本展は先住民の宇宙観と水の持つ創造・変容の力に焦点を当てた、極めてメッセージ性の強い内容である。

展示空間には、アルカンターラで編まれた巨大な黒い三つ編みが波打つように設置されており、その深く濃い色合いは流れる川や海の水を想起させると同時に、様々な先住民コミュニティとの断ち切れない絆を象徴していた。さらに、ベネチアの水とのつながりに着想を得たパフォーマンス映像も上映されており、そこではパフォーマーたちが淡い緑と青のアルカンターラで作られた美しい衣装を身にまとっていた。2009年よりカーボンニュートラルに取り組み、その活動が第三者機関により認証されているアルカンターラだからこそ、このサステナブルなアートの試みを支えることができたのだろう。

ミラノ全体がアートに
翌日はほかの国際プレスとは離れて、ひとりでミラノ郊外のロー・フィエラ会場で開催されている「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」の見学へと赴いた。今年のミラノサローネは環境や戦闘など厳しい課題に直面しながらも、それを物ともしない圧倒的な活気に満ちていた。最終的に167カ国から32万近い来場者数を記録。広大な会場を歩き回りながら感じたのは、前日までに見てきたアルカンターラの姿との地続きのつながりである。

自動車のコクピットで極限のパフォーマンスを支え、トップデザイナーのオフィスでアヴァンギャルドな家具に変貌し、ベネチアの厳かな教会で聖なる三つ編みとしてアートの一部になる。そして、このサローネの会場に並ぶ最先端のインテリアのなかにも、アルカンターラは至極当然のように、しかし圧倒的な質感を伴って組み込まれていた。

大げさな自己主張をせずとも、触れればすぐにそれと分かる素材感。あらゆる領域で「Made in Italy」の真のアンバサダーとして機能しているアルカンターラの凄みは、クリス・レフテリ氏の言う通り、地球上のあらゆるライフスタイルシーンを、文字通りすでに制覇しつつある点にある。

イタリアの職人技と弛まぬ研究開発がもたらす高度なテクノロジー。このふたつがバランスよく融合しているからこそ、アルカンターラは単なる「素材」の枠を超えて、世界のトップクリエイターたちのイマジネーションを刺激し続けるのだろう。

文:堀江史朗(オクタン日本版) 写真:堀江史朗、アルカンターラ
Words: Shiro HORIE (Octane Japan) Photography: Shiro HORIE, Alcantara

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