目抜き通りに伸びる一本のわき道。「東京」をぶらぶらと散歩すると、どんな出会いがあるのか。今回は日暮里駅で電車を降りた。(BRUDER編集部・合田拓斗)

日暮里「英国菓子・紅茶専門店 Cha Tea」

平日の朝は一杯のコーヒーと始まる。冴えた頭で午前のタスクを片付け、昼休憩にカフェで二杯目。夕方に深煎りの三杯目を飲んでスパートをかける。暗示もあるだろうが、仕事中はあの苦々しい豆のにおいが欠かせない。難題を前にしたときの一口は、試合前の格闘家が背中に食らう張り手のようなものだ。

その日は朝から集中を要する仕事が溜まっていた。休む間もなく作業し、日暮里に着くころには日が西に傾いていた。神経を使ったせいか、頭が三杯分のコーヒーに浸かるように重い。どこか一息つける場所を探す。

人の少なさに対して外国人が多い。路面に連なるのは大小さまざまな生地の店。通りからのぞくと、鮮やかな和物の布が並ぶのが見えた。日暮里が繊維の街とは知らなかった。

南公園を回って駅まで戻り、反対の西口に出る。霊園のある通りはひっそりとしていた。初夏の夕日が濃く長い影を伸ばす。小学生がわきを走り抜けると、乾いた靴音が後に残った。いつかの帰り道のような、心地いい気だるさだった。

経王寺の角に続く諏訪台通りは閑静な住宅街だ。ゆえに、唐突に現れた異国風の建物が意外に思われた。目地の見えないクリームの外壁に、スタイリッシュな英文字。円柱に挟まれた玄関には黒塗りの格子扉が構える。わきにはガス灯があった。ランプの灯るさまを想像すると、ロンドンの夕べに誘われる気がした。

店内はひょろっと細長い形をしている。売り場に並ぶのはさまざまな国の紅茶と、店で焼いた菓子。モノトーンの下地に、棚に重なる茶器が映える。「英国菓子・紅茶専門店 Cha Tea」は同名の紅茶教室が運営する専門店だ。

2002年から続く教室が店舗を始めたのは5年前。少人数で学び深めてきた世界観に、より気軽に触れられる場としてスタートした。講師の鈴木たまえさんは、「もともとレッスンで提供していたお菓子が好評で。うちは紅茶教室なので、お茶と、それに合った英国菓子を紹介したい思いがありました」と話す。

老舗の喫茶店などには代々続く味があるが、Cha Teaの場合は少し違う。シーズンごとに旬の茶葉をセレクト。「味や香りは時期で変わります。店に並ぶのも、いつも同じではないんです」と一期一会的な出会いを提供する。

一方、スイーツは主に定番のものを扱う。もともと、英国の菓子はスコーンやビスケット、ケーキなどシンプルな味付けのものが多い。「ライトな紅茶にはゼリー系、ミルクティーにはチョコレートケーキなど、それぞれに合うものがある。ティータイムを楽しむには食べ合わせはとても大切です」と互いを引き立てる相性がある。

実際におすすめの組み合わせをいただいた。出されたのはインドで収穫されるアッサムとキャロットケーキ。イングリッシュブレックファストティーのベースにもなるアッサムは、上質な香りとほどよい渋みが特徴。ケーキと合わせて飲むことで、口に残るニンジンの甘みをさわやかにしてくれる。最後まですいすい食べてしまった。

楽しみ方のバリエーションの豊富さは紅茶の魅力でもある。「気分や時間帯、合わせるお菓子や、誰と過ごすかでその日の紅茶を決める。いつも同じもいいですが、 “選ぶ”ことで習慣がちょっと特別になる」

鈴木さんが最も大切にしているのが毎日の最後の一杯。日に何杯も紅茶は飲むが、その時間だけは欠かさない。「きょうも頑張った、と。どんなに忙しくても、お気に入りのカップを用意して、お茶を淹れる。一日の終わりにそんな時間が取れれば、自分は大丈夫だって思えるんです」。特別な一杯が、そっと心を立ち止まらせる。

夜。家に帰って寝支度をし、キッチンで紅茶を選ぶ。きょうはダージリンにしよう。ソファに身を預け、温かいカップを両手で包む。ちびちび飲んでいると、底に見える夢が近づいた。カチッと音がして、照明が落ちた。

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Edit & Text & Photo : Hiroto Goda

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