2026年F1第5戦カナダGPの週末、メルセデスF1チームのガレージに緊張が走った。ジョージ・ラッセルとアンドレア・キミ・アントネッリが、同士討ち寸前のホイール・トゥ・ホイールの直接対決を演じたのだ。
土曜のスプリントレースで両者は2度にわたって接触。芝生に押し出される格好となったアントネッリからは、憤りと不満に満ちた無線が相次いだ。
「今のは相当汚い」とラッセルへのペナルティを求めるアントネッリに対し、チーム代表のトト・ウォルフは「キミ、運転に集中してくれ。無線で愚痴をこぼすのはやめてくれ」とたしなめた。
クールダウンラップでもアントネッリの不満は収まらず、「こういうレースをする必要があるってことなら、良い勉強になったよ」と皮肉を放った。ウォルフはたまらず「キミ、この話をするのはこれで4回目だ。我々はこの件について内部で話し合う。無線で話すことではない。分かったか?」と制した。
「校長室」での非常に建設的な対話
この事態を受け、メルセデスは予選を前に、両ドライバーを呼び出して話し合いの場を設けた。チーム内交戦規定を明確にし、再発を防止するためだ。
メルセデスには、タイトル争いの最中で発生した悪夢の歴史がある。かつてのルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグは、激しい戦いの中で関係悪化の一途をたどった。
副チーム代表のブラッドリー・ロードは、メルセデスの公式ポッドキャスト番組の中で、当時の様子の一端をこう明かした。
「スプリントのあと、トトと2人のドライバーで腰を据えて話し合った。スプリントがどうだったかということと、今後互いにどのようにレースを戦っていきたいのかということについてだ」
「キミは、あの場を『校長室に呼び出されたような気分だった』と表現していたと思う。ただ実際には、非常に建設的で友好的な話し合いだった」
「そして何より、ドライバーたちからのメッセージは極めて明確だった。『僕らを信じて、レースをさせてほしい。そのために僕らを雇ったんだろう? 僕らにはそれができる』とね」
チーム側が一方的に線を引くのではなく、ドライバー側の意見と意向を重んじる対話だった。アントネッリ自身も、予選後にこの話し合いについてこう明かしている。
「もちろん、ジョージとトトと話したよ。今はもう全てクリアだ。レースについて明確にした。自分たちのミスも認めた。だからもちろん、僕らは今後も自由に戦える。ただし当然、お互いにリスペクトを持って戦う必要はあるけどね」
ラッセルも、わだかまりを解く必要があったと認めた。「話し合いが必要なのは明らかだった。もちろん、レース中は常に感情が渦巻くものだけど、コース上での出来事が個人的な問題になることはない。僕らにとってはもう終わったことだ」
直後の予選では、ラッセルがアントネッリをわずか0.068秒差で抑えてポールポジションを獲得。2人は再び最前列に並んだ。
チームが2人に課した「絶対条件」
チーム側も干渉しすぎることは望んでいない。トラックサイド・エンジニアリング・ディレクターのアンドリュー・ショブリンは、次のように状況を説明している。
「基本的には全く問題ないし、我々も常にドライバーにはレースをさせたいと思っている。チームが良い仕事をして、事前に適切な話し合いができていれば、コース上で介入する必要はない」
ただしショブリンは、カナダでのバトルの中に、許容限度を超えかねない危険な瞬間があったとも認めている。
「何度か肝を冷やす場面はあった。一歩間違えれば、どちらかが相手のマシンに追突して終わっていたかもしれない瞬間があった。我々としては、そのような事態は全力で避けなければならない」
「だが、2人は自由にレースを戦うことを望んでいる。その一方で、彼らは自分たちが果たすべき『約束』を理解している。それは、フェアに戦うこと、リタイアのリスクを冒さないこと、そして絶対にぶつからないことだ」
「校長室」での話し合いが功を奏したのか、2人は日曜の決勝で再び激しいバトルを繰り広げたが、チームが懸念するような事態には発展しなかった。
両者は序盤30周にわたって、トップの座を懸けてクリーンに順位を幾度も入れ替えた。最終的にこの一騎打ちは、ラッセルを襲ったパワーユニットのトラブルによって幕を閉じることとなった。
「週末を通して良い議論ができた。次のレースに向けても話し合う予定だが、また良い議論ができるはずだ」とショブリンは語った。
