1898年、ドイツの古都ケルンで生まれたリモワ。その品質の高さと革新的なものづくりで知られるラゲージブランドは、130年近くも世界中の人から旅のパートナーとして愛されてきた。伝統を守りながらも進化を続けるリモワが、ドイツの若いクリエイターを支援しようと2023年からスタートしたのが、「リモワ デザイン プライズ」だ。第4回目となる今年は、40以上の大学からの応募が集まり、注目を集めた。

より良い未来のための、クリエイティブなアイデア。

「リモワ デザイン プライズ」は、ドイツのデザインスクールに在籍する学生を対象に、「モビリティ」をテーマに掲げ、社会に存在するさまざまな問題に対する解決策としての革新的なデザインコンセプトを支援しようというものだ。すべてのデザインは有意義な目的のために生み出されるというリモワの精神に基づき、より良い未来を実現するためのデザインが生まれる機会を、積極的に作っていく。

ファイナリストに選ばれた7組には、それぞれドイツに拠点を置く著名なデザイナーやクリエイターなど豪華な面々がメンターとなり、アイデアをブラッシュアップする過程をサポート。完成度の高いプロジェクトが出来上がった。

今回1位を獲得し、2万ユーロの賞金を獲得したのは、エレガントなデザインが目を引いた「Nura」。南ドイツ、シュヴェービッシュ・グミュントデザイン大学で学ぶ、サミュエル・ナーゲルとパウル・ファイラーによるプロジェクトだ。

ブレスレッドやスマートウォッチのようにも見えるこの機械は、筋肉の動きを読み取るEMGセンサーとカメラを使って手話を音声に変換。また同時に、音声を聞き取ってテキストに変換し、表示することができる。つまり、手話ができない人も音声で言葉を聞き取ることが可能になり、逆に音声が聞き取れない人でも、言葉を文章として読むことができるー聴覚に障害を持つ人とそうでない人との間のコミュニケーションを円滑にするツールなのだ。

「ドイツだけでも聴覚に障害を持つ方達は何百万人といる。その方達のニーズにスポットを当てられれば嬉しい」と、ナーゲルとファイラーはこのプロジェクトへの思いを語った。

特別賞は、泥炭地の自然環境を壊すことなく、葦を収穫するシステムを考案したマグデブルク=シュテンダール大学のニクラス・ヘニングへ。環境保護と農地の有効活用という一見相反するものを結びつける革新的な産業デザインだった。

社会問題に取り組む、興味深いアプローチ。

ほかのファイナリストたちの作品にも、社会問題に取り組む多彩なアプローチを見ることができた。

自然災害や戦争など、危機的状況下で活躍する、電力を使わない冷却器を提案したのは、ザール芸術大学のトビアス・クレーマーとヤニック・スティルゲンバウワー。「A.R.C.(適応型耐環境クーラー)」は、避難所や仮設住宅でも、エネルギーに依存することなく、手軽に、医薬品や食料などの必需品を冷却できるように考えられている。

高齢者の孤独、孤立化という問題に取り組んだのは、シュヴェービッシュ・グミュントデザイン大学のヤコブ・シュレンカー。小鳥の形をした小さなオブジェ「ピープ」は、人々の出会いのきっかけを作ってくれる。これを持っている人同士が近づくと、さえずり声で知らせてくれるのだ。

常に強いストレスにさらされている救急隊員をサポートするための、「ヘルパーのためのヘルパー」を考えたのは、 ティム・キッパーとジョン・ローラーだ。やはりシュヴェービッシュ・グミュントデザイン大学で学ぶ2人は、救急隊員が危険を感じた際に、周囲にそれを伝え、助けてもらえるように、カメラやマイク、CO2センサーなどを備えたオブジェを開発した。

世界中で深刻な問題となっている、ミツバチの減少。農作物の大部分がミツバチによる受粉に頼っているため、その減少や絶滅は人間の食生活にも多大な影響を与えると考えられる。ミツバチが生息することができる緑地が減少し、多様性も失われているのが、その原因のひとつだ。ワイマールのバウハウス大学の学生、ニコラス・ニールセンは、ミツバチのための自律移動式巣箱「ハイブ」で、街中に点在する緑地や公園といった場所をつなごうと試みる。様々な植物の受粉を促進することで生物の多様性を回復させ、ミツバチの生息環境がより良くなるというアイデアだ。

ハンブルク芸術大学のヴァレリオ・サンポニャーロによる「エアロドメスティックスは、凧の原理に基づいて設計された超軽量家具だ。アルミニウム製のパイプの枠に帆布を張って作った家具は、素材の使用は最小厳に抑えながらも強度や耐久性を損なわず、空に飛ばすことができるくらいに軽い。折りたたんで、どこにでも持ち歩ける。モバイル化が進むライフタイルにも適応する、新しい家具の在り方だ。

どのプロジェクトも、自由やインクルージョンといった価値観と密接に結びつく「モビリティー可動性―」というテーマに深く取り組み、新鮮な切り口で形にしている。ベルリンの文化フォーラムで行われたプレゼンテーションには、300人近くのアートやデザイン関係者が集まり、ファイナリストの作品からインスピレーションを受けていた。

旅をする目的のためのスーツケースを丁寧に作り続けるリモワ。デザインとは社会のため、人々のために目的を持って生み出されるものだ、というブランドの真摯な思いが伝わる授賞式だった。

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