
2025年5月、シンガポールのビジネス街で撮影。REUTERS/Edgar Su
[シンガポール 26日 ロイター] – シンガポールが、AI(人工知能)セクターにおいて米国と中国の「中立地帯」と化しつつある。中国の新興企業は政府の支配が及ばない活動を求めて、かたや米国企業は厳格化されたビザ(査証)規制を避けて海外人材を確保するために、続々とシンガポールに拠点を置いている。
シンガポールは長年、ビジネスに親和的な姿勢と二カ国語を話せる国民が好まれて「東西の架け橋」となってきたが、今では米中双方から距離を保てる場所として注目度が上がっている。
カメット・キャピタルのケリー・ゴー最高経営責任者(CEO)は、新興企業がシンガポールに拠点を置けば、同社の知的財産は同国にあって米中どちらの規制も受けないという点で、国際的な顧客に「大きな安心感」を与えると説明した。
ゴー氏は、シンガポールでAI動画ビジネス「トップビュー」を始めるために投資を募っていた中国テック大手アリババ(9988.HK), opens new tabの元幹部2人に対し、助言業務を行った。シンガポールに拠点を置くのは、国際的な顧客が中国政府の監視を警戒することを予期しての動きだ。
ゴー氏はトップビューについて「顧客が中国人ではなく、製品が中国で提供されていない」以上、シンガポールに拠点を置いた方が米国への販売チャンスが高まると説明した。
テック分野での米中対立は、トランプ米大統領が1期目に安全保障リスクを強調したことで表面化した。2期目にはAIの普及で対立が激化し、テック企業は報復措置の応酬が繰り広げられる中で難しい舵取りを迫られている。
さらに、トランプ政権が高度な外国人技術者向け就労ビザ(査証)「H─1B」を見直したことが、常態的に海外から人材を募っていた企業を動揺させた。
シンガポールは現在、AIを世界一活用する経済国を目指し、AI人材向けビザや知的財産登録に対する税制優遇措置を導入している。米中企業の動向は、この取り組みに追い風を吹かせた。
業界幹部やアナリストによると、政治的先入観から距離を置くためにシンガポール企業を装いたい中国企業と、ビザの障壁に妨げられることなくエンジニアを確保したい米企業の双方を、シンガポールは引きつけている。
サーキュラー・テクノロジーの世界調査責任者、ブラッド・ガストワース氏は「シンガポールは米中両国のAI企業にとっての中立的な拠点としての性格がますます強まっている」と話した。
シンガポールには現在、自動化プラットフォームの「Workato」、資産管理ツール開発の「Addepar」、メモ作成機器の「Plaud AI」など、米中に関係や親会社を持つAI企業がひしめき合っている。
関係筋3人によると、米AI開発大手アンソロピックもシンガポール・オフィスの開設を計画している。米オープンAI、米メタ・プラットフォームズ(META.O), opens new tab傘下のスーパーインテリジェンス・ラボ、グーグル傘下のディープマインドなどの大手も既にシンガポール拠点を設立済みだ。
アンソロピックはコメントを控えた。
<米中が制限措置も>
シンガポールがAI人材の誘致を強化する一方で、米中は技術保護に取り組んでいる。米国は半導体大手エヌビディア(NVDA.O), opens new tabによる主力AIチップの中国向け販売を阻止した。
一方、英紙フィナンシャル・タイムズによると、中国はAI新興企業「Manus」の創業者に出国禁止措置を課した。同社が昨年、拠点を中国からシンガポールに移し、メタに買収されたのを受けた措置だ。
また米紙ワシントン・ポストの報道では、中国当局はシンガポールや日本、米国に拠点を移した中国企業「MiroMind」に対し、海外に人材を送らないよう命じた。
シンガポール国立大学の政治学者、チョン・ジャー・イアン氏は、米中双方の政府が技術の囲い込みを目指している今、「シンガポールは新興企業への人材移動を含む技術移転のグレーゾーンと見なされるリスクがある。米中いずれか、あるいは双方の政府が阻止に動きかねない」と指摘。「シンガポールに制限措置が課される結果になるかもしれない」と述べた。
<フレンドリーなビザ手続き>
テック企業にとって米中での事業運営は壁が非常に多い。例えば中国では、企業が当局の要請に応じてデータを提出する義務がある一方、米政権の動きは予測不可能で、投資家を警戒させる。
対照的に、法人向けサービス企業Link―daの創業者、フアン・リン氏によると、シンガポールの入国手続きは「非常にフレンドリー」で、就労パスがわずか3日で承認されることもある。
米国からシンガポールに移住したインドネシア人のAIエンジニア、ビンセント・タタン氏は、米国での永住権申請が二転三転したのに対し、シンガポールは「非常に歓迎的」だと評価。「(米国で永住権を求めて)闘うことは可能だが、闘って待つだけの価値があるだろうか」と疑問を投げかけた。
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Xinghui previously covered Asia for the South China Morning Post and has been in journalism for a decade.

