【写真】展覧会「スープはいのち」会場の様子

 展覧会の会場では、そうやって染めた糸で織りあげられた布が、天井からゆったりと垂れさがる。布は人の身体を包み、守る。スープは日々の糧、おだやかに体をつくり、調える。同じ食材から生まれた色が、人を外側から内側から包み込む。この作品でスープ作りを担当した長尾智子に話を聞いた。

展覧会のディレクター・遠山夏未さんから依頼をうけたあと、作品はどのように作られていったのでしょうか。

――まずスタッフの皆さんに来ていただき、スープを食べてもらいながら話すなかで、自然と方向が見えてきました。手の込んだことはせず、野菜から引き出されるものをシンプルに表現しよう、と。同じ野菜を用いて、染色の方は、皮など廃棄するところを用いて、どのくらい色が染まるのか実験されていました。私は、野菜の持ち味を引き出すことをいろいろと試みるうちに、結果として今回は動物性のものは不使用に。“これで十分”と思えたのです。“こういうスープもありだ”と。たとえば、じゃがいものでんぷん質でとろみが生まれ、クリームを入れる必要がない。もちろんそういう味が食べたいときは、加えていけばいいのです。

5色の食材はどのように選びましたか?
――きれいな色に染められる野菜から選びました。白はタマネギ、黄色はウコン(ターメリック)、赤はビーツ、緑は春菊、黒はごぼうと黒豆を。食材を色のグループで分けて作るのは興味深く、赤はビーツを用いたのですが、そこに同じ赤のグループにあるシナモンを加えてみると、味わいに発見がありました。とはいえ、料理全般についてもちろん色彩は重要なのですが、見た目の組み合わせよりも、味を優先して素直につくっていく感じでした。

布を染めることと協同することで、気づいたことはありますか?
――今回、すべてをポタージュにはせず、素材の形を残したスープも作りました。「玉ねぎブイヨンスープ」は、玉ねぎの皮も一緒に煮込んでいくうちに、白い身の部分がだんだん赤茶色から褐色に染まっていく。その過程は見ていてきれいだし、色の浸透が味の深まりにもつながるんです。「ターメリックと野菜のスープ」も同様で、ターメリックの色や香りがじゃがいもに浸透していく。料理も、“染める”ことをしているんですね。

この展覧会全体を見渡してみて、どんな発見がありましたか?
――「スープ」をさまざまな視点と手法で捉え、掘り下げた作品をめぐるなかで、衣食住のそれぞれの垣根はあるようでない、すべてつながっているのだということを実感しました。食べることだけが大事なのではなく、過ごす空間、身にまとうものすべてが、自分を外側と内側から包み込む。自分がここちよいと思うものをどう選んでいくのか、生きることについて、自分にとっての良いものを見つける機会になります。

会場を訪れる人に、おすすめしたいことはありますか?
――ぜひ、ご自身でもスープを作っていただきたいです。スープは材料を煮ていればできあがるもの。おむすびやパンを添えれば、それだけで一食が成立します。材料が全部そろわなくても大丈夫、ひとり分でも何人分でもスープなら縦横無尽、自由自在。自分のために作っても、人のためにもなる。スープは、分かち合うのに良いものなんです。

 会場にはレシピを記したカードが随所に配されている。封筒に、手紙のようにカードを入れていくのもお楽しみ。全て集めれば17枚に。家に持ち帰り、気になるものから作ってみよう。日々の暮らしのなかで、スープの物語は続いていく。

「スープはいのち」
会期:~2026年8月9日(日 )
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー 1&2
東京都港区赤様9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン
会館時間:10:00~19:00(入場は18:30まで)
休館日:火曜日(5月5日は開館)
入場料:一般¥1600、大学生¥800、高校生¥500、中学生以下無料

長尾智子
フードコーディネーター。書籍や雑誌の執筆、食品や器の企画やディレクションほか、食にまつわる提案を手がける。『料理の時間』(朝日新聞出版)、『ティーとアペロ お茶の時間とお酒の時間 140のレシピ』(柴田書店)ほか、著書多数。自らの目で選ぶオンラインストアSOUP(https://soup-s.shop/)も好評。

BY T JAPAN