5min2026.4.13

グローバルな競争力を磨くための挑戦

インドの有名アニメ制作会社グリーン・ゴールドで副社長を務めるトム・ヴァルチャクPhoto: Masataka Namazu

インドの有名アニメ制作会社グリーン・ゴールドで副社長を務めるトム・ヴァルチャク
Photo: Masataka Namazu

Text by Chihiro Masuho Photographs by Masataka Namazu 

インドではアニメが一大ブームになっており、現地企業の間で日本のコンテンツに対する関心が高まっている。クーリエ・ジャポン主催のスタディツアーで視察したインドの有名アニメ制作会社「グリーン・ゴールド・アニメーション」では、同社と参加者の間で協働の可能性について積極的な議論が交わされた。

この記事は3回目/全5回

大人向け作品で世界市場へ

インド最強のアニメコンテンツ「チョタビーム」も、中南部テランガナ州の州都ハイデラバードで生まれた。

同作品は架空の王国「ドラクプール」を舞台に、賢く勇敢な9歳の少年ビームが仲間と共にさまざまな困難に立ち向かう物語で、2008年の開始以来、29シーズンを放映している。2019年には、スピンオフ作品『マイティー・リトル・ビーム』がネットフリックスで配信され、世界的な人気コンテンツになった。

『マイティー・リトル・ビーム』は2026年にシーズン4が放送予定







同作を制作したのは、インド有数のアニメーションスタジオ「グリーン・ゴールド・アニメーション(GGA)」だ。2004年に設立された同社は、脚本からビジュアルデザイン、2D・3Dアニメ制作まで幅広い業務を担い、国内向けの作品を作るだけでなく、ディズニーなどのグローバル企業から受注もする。日本の制作会社と組んで、『ハットリくん』『おぼっちゃまくん』の現地版アニメーションも制作している。

チョタビームなどのキャラクター商品の販売も手がけており、クランチロールと協力して事業強化に努めている。今後はテーマパークの運営など知的財産(IP)ビジネスをさらに拡大する予定だ。

米市場調査コンサル企業グランド・ビュー・リサーチによれば、インドのアニメ関連グッズ市場は毎年14%拡大し、2033年には5億6200万ドル(約87兆円)に達する見込みだ。グリーン・ゴールドのバラト・ラクシュミパティCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)も、海賊版や物流の課題はあるものの、「インドのアニメ関連グッズ市場は、確実に成長する」と話す。

GGAのバラト・ラクシュミパティCMOPhoto: Masataka Namazu

GGAのバラト・ラクシュミパティCMO
Photo: Masataka Namazu

GGAはすでに国内外でその創造性や技術力を高く評価されているが、グローバルな競争力をさらに高めるため、今後は上の年代にも訴求するアニメ作品を増やし、新たなIPを創出しようとしている。ラクシュミパティは、その意気込みを次のように語る。

「これまでは子供向けのコンテンツに重点を置いていましたが、今後はビジュアルデザインやストーリーを作り込んだ大人向けの作品にも力を入れるつもりです。この市場は米国のマーベルやDCコミックスなどに占有されていますが、チョタビームで育った世代が見たいと思う作品を作りたいと考えています」



近年はインドの古典『ラーマーヤナ』を下敷きにした『カルナ』や、近未来を舞台に巨大企業の不正に立ち向かう主人公を描いた『アサシン』といった映画作品を手がけている。視聴者層の幅を広げようとしているGGAが、いま最も力を入れているのが日本市場だ。

『カルナ』の予告

ラクシュミパティも、「日本のアニメ作品をインドで制作できたらと考えています。日本企業が進出する際に支援することも可能ですし、グッズ販売など幅広い分野で協力できると思います」と連携への熱意を語る。プレゼンテーション後は、同社の幹部がツアー参加者と積極的に交流する場面が見られた。

スタディツアーの参加者で、東映アニメーションの関連会社である東映動画企業有限公司(香港)取締役社長を務める宇田川英昭は、これまでにも何度か出張でインドを訪問した。そうした経験から、「コロナ禍以降、インドの業界関係者の方々から積極的にお声がけいただく機会が増えた。クランチロールなどの配信サービスが浸透して以来、日本アニメへの関心が高まっている」と話す。

東映動画企業有限公司(香港)の取締役社長・宇田川英昭<br>Photo: Masataka Namazu

東映動画企業有限公司(香港)の取締役社長・宇田川英昭
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ツアーを企画したクーリエ・ジャポン編集長の南浩昭は、クランチロール、GGAの2社を訪問した印象を、「インド市場の可能性はもちろんだが、破壊的なイノベーションを目の当たりにしていると感じた。日本のコンテンツがインドで成功すれば、その影響は他のアジア地域やグローバルサウスにも及ぶだろう」と語る。


その一方で、ツアーに参加した大手出版社のマンガ編集者は、インドで海賊版が出回る状況やコンテンツの単価の安さに衝撃を受けたと話す。作家の才能に対する尊敬の念や労力に見合った対価は当然のものだと考えていたが、そうした感覚は一般的なものではなかったと気づかされた。

同編集者は、「インドでは、ものすごい速度と規模感でマンガやアニメのビジネスが拡大している。マンガ編集者は日印両国の間に入って、作家を守るための役割について再考しなければならないと感じた」と述べる。

インドで「地産地消」のアニメを作る

日本でアニメ制作の仕事をしたいと願う、インドの若者も増えている。

スタディツアーでは参加者からの要望を受け、現地のアニメファンとの交流の機会を設けた。インドのファンコミュニティ「デリーアニメクラブ」に所属するリティク・クマル・マンダイは、「日本アニメの手描きの絵の美しさに魅了された」と話す。日本でアニメ制作をするという夢を叶えるためにキャラクターデザインを学んでいるが、就職の機会を見つけることは難しいという。

将来は日本でアニメの仕事がしたいというリティク・クマル・マンダイ<br>Photo: Masataka Namazu

将来は日本でアニメの仕事がしたいというリティク・クマル・マンダイ
Photo: Masataka Namazu

現地では日本と連携してアニメ関連の人材を育成する動きもあり、2025年にはハイデラバードのマルチメディア専門教育機関「国際アカデミー・オブ・コンピューター・グラフィックス(IACG)」と京都精華大学が、インドの学生にアニメ制作技術を教えるカリキュラム開発などで協力するための覚書(MOU)を締結した。

東映動画企業有限公司の宇田川は今後、インドのアニメファンに向けた「地産地消の作品」を作りたいと考えている。

「これまでは日本向けに製作された作品を世界へ届けてきましたが、物語の幅を広げていくためにも、インドの生活や文化に根差した現地で喜ばれるアニメを作りたいですね。今回のツアーの訪問先でそんな提案をしたら、『すぐにやりましょう』という嬉しい反応が返ってきました。インドの方々と一緒にアニメ人気を高め、それをアジア全体の盛り上がりにつなげられたらと思います」

バンダイナムコピクチャーズの代表取締役社長・佐藤弘幸は今回のスタディツアーで、インド市場は「先行者利益が大きそうだ」と感じたという。

グリーン・ゴールド社でクリエイターが作業する様子を見学する佐藤Photo: Masataka Namazu

グリーン・ゴールド社でクリエイターが作業する様子を見学する佐藤
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「インドは呼ばれたときに行くチャンスが訪れると言われていると、古賀(義章、「クーリエ・ジャポン」の創刊編集長)さんがお話しされていましたが、今回来てみて『呼ばれたのかもしれない』と強く思いました。インドに興味があっても、現地での人脈もないし、ビジネスの作法もわからないと躊躇する日本企業は多いと聞いています。でもこちらに実際来てみると、インドの人たちは日本企業との協業に前向きで、私たち以上に興味を持って、真剣に向き合ってくれます。それがわかっただけでも、大きな収穫です」

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