猪熊の原画を用いて、実寸大で再現された壁画「自由」(香川県丸亀市で)猪熊の原画を用いて、実寸大で再現された壁画「自由」(香川県丸亀市で)

 高松市出身の画家・猪熊弦一郎(1902~93年)が1951年、東京都のJR上野駅構内に描いた壁画「自由」を紹介する企画展が、香川県丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開かれている。戦後間もない日本を覆った暗い雰囲気を
払拭(ふっしょく)
しようと制作され、修復を重ねて駅のシンボルとなった作品の歴史を写真や資料で伝える。(浦西啓介)

■北の玄関口

 「自由」は上野駅中央改札の頭上にあり、屋根の山形に沿って五角形の壁に描かれている。幅約27メートル、高さは最大約5メートル。企画展では会場の壁に実寸大で再現し、本物と同じく明るい青で塗った背景に、猪熊の原画を投影している。

 上野駅はかつて、夜行列車に揺られて東北や北陸からやって来る人が多く、「北の玄関口」と呼ばれていた。壁画には牛や馬、犬とともに、リンゴやスキー板、サケを思わせる魚を持つ人、温泉などが描かれている。

 モチーフについて、猪熊が「上野駅に親しみのある東北や北陸の風物から選んでみました」と証言したと紹介。同美術館上席学芸員の古野華奈子さんは「上京してきた人たちの新生活の出発点であり、郷里に帰る時にも眺めることになる。上野駅と作品が密接につながっている」と語る。

■希望と喜び

設置前から現在までを紹介した写真(香川県丸亀市で)設置前から現在までを紹介した写真(香川県丸亀市で)

 壁画を発案したのは、広告会社員だった小林利雄(1921~2007年)。戦災孤児や戦地からの引き揚げ者らが集まり、上野駅に漂っていた暗い雰囲気を明るくし、荒廃した日本に光をともそうとの思いからだったという。

 3年がかりで国鉄を説得した小林の求めに応じ、猪熊は筆を握った。「上野駅の壁画について」と題する猪熊の文章を展示。その中で「毎日この駅を通る大勢の人達の生活に、希望と喜びを与えたいと考えながら着手した」と記している。

 古野さんは「『アートはバイタミン(ビタミン)』といい、日常の中で人を元気にするために画家は何ができるかを考えていた猪熊にとって、理想をかなえることができる思いだったのでは」と推し量る。

 上野駅の壁に設置される前の状態から、84年、2002年と2度の修復を経て現代に至るまでを写真でたどるコーナーも。「自由」は駅の象徴となり、映画「男はつらいよ」や漫画「3月のライオン」にも登場するとしている。

■次の世代へ

制作時の状況を伝える資料も並ぶ(香川県丸亀市で)制作時の状況を伝える資料も並ぶ(香川県丸亀市で)

 「自由」は3度目の修復作業が完了し、今月、披露された。作業中は白い布で覆われ、中の様子をうかがうことはできなかったが、企画展では写真で工程を詳しく伝える。

 「亀裂」「
剥落(はくらく)
」「穴・破損」といった状態を調査。下地のベニヤ板が波打っている箇所には、注射器で接着剤を注入するほか、接着剤と専用の加温装置を用いて、はがれ落ちそうな絵の具を圧着する作業が紹介されている。実際に作業に使用された道具も並ぶ。

3度目の修復作業で使われた道具(香川県丸亀市で)3度目の修復作業で使われた道具(香川県丸亀市で)

 古野さんは「『自由』は猪熊の代表作の一つなのに、香川でもあまり知られていない。作品に込められた思いとともに、この作品を次の時代へとつなげようとする人たちの熱意も感じてもらえたら」と話す。

 6月28日まで。5月4日を除く月曜と同7日は休館。観覧料は一般1500円、大学生1000円、高校生以下と18歳未満、丸亀市在住の65歳以上は無料。問い合わせは同美術館(0877・24・7755)。

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