日常から切り離され、深く深く、自身が存在するこの瞬間と位置を噛みしめるひとときは、誰にとっても必要なものだろう。

そんな時間を過ごすのにふさわしい場所がある。愛媛県の中ほど、山と水が寄り添う砥部町(とべちょう)。その中心に広がる「通谷池(とおりたにいけ)」を見下ろす高台に佇む、新しいオーベルジュ『時地人 – JIJIJIN Matsuyama』だ。

今回は、9月8日(月)にリブランドオープンしたこのリゾートを実際に訪れ、忙しない現代にこそ求められる“ローカルリトリート”を体感してきた。

愛媛・砥部という地の息づかいを感じる『時地人 – JIJIJIN Matsuyama』

道後温泉で知られる松山市の中心地から車で約20分。砥部町は、200年以上の歴史を持つ「砥部焼」の里として名高い。白磁の素地に藍の筆致が映える器たちは、瀬戸内の風と土が生んだ芸術だ。

ため池百選*にも選ばれた「通谷池」沿いを進むと、森と水の一部であるかのように、静寂を纏って『時地人 – JIJIJIN Matsuyama』があらわれる。驚いたのは、その“静けさ”だった。風に揺れる木々の音、水面のさざめき、澄んだ虫の声だけが響く。音がないのではなく、自然そのものが鳴っている。そんな静謐がここにはあった。

*「ため池百選」とは、農林水産省が2010年に、農業用水の確保という役割に加え、歴史的価値、景観の美しさ、生物多様性への貢献、地域との深いつながりなど、様々な面で秀でた全国100箇所のため池を選定した取り組み。

エントランスをくぐると、黒を基調としながらも開放的で落ち着きのある空間が広がる。まず目に留まったのは、森や蝶の写真、木でつくられたオブジェなどのアートピース。これらは自然豊かな砥部の風土に着想を得たもので、それぞれの作品が調和したインスタレーションが、この新たな空間の心地よさを生んでいるのだろう。

ブックディレクター・幅允孝(はば よしたか)氏が選書と空間ディレクションを手がけたライブラリーは、硬質な素材に木や水のゆらぎを添え、本とともに“遅効の時間”を楽しめるコンセプトとして登場した場所。

訪れる人たちにこの地の記憶を伝え、知的な旅へと誘う。ページをめくる指先が池を渡る風と呼応するように、本を読む行為さえも自然との対話になる。

静かに滞在は進み、時間の流れがゆるやかにほどけていくのを感じた。

風土に寄り添う建築、静かに佇む滞在の時間

水庭を望みながら森の道を進むと、そっとヴィラが現れる。建物は森の稜線に溶け込むように低く構えられ、通谷池を望む全10室のスイートで構成されている。

水辺に寄り添う「VILLA MIZUNIWA」、森に包まれる「MORI SUITE」、眺望を誇る「TOBE SUITE」。それぞれ異なる表情を持つ中、今回は「TOBE SUITE」に滞在した。

扉を開けると、窓の向こうに通谷池を見下ろす穏やかな景色が広がる。この日は柔らかな陽光が差し、水庭の波紋が光を反射していた。噴水の近くには小さな虹が架かって、一瞬で心が引き込まれた。

テラスに出てリクライニングチェアに身を預ける。水辺が美しくて、森と空との調和が織りなす時間が訪れ、建築だけが主張せず、自然の一部として存在していることを実感する。圧倒的な解放感があった。

室内には地元作家の作品や砥部焼の器、愛媛の職人による調度品が配されている。特に砥部焼の白と藍の色調が、空間に穏やかな質感を与えていた。土地の空気を閉じ込めたような温もりが漂っている。

バスルームからも景観を楽しめるのも魅力だ。自然を遮ることなく、移ろう風景を一日中眺めていられる。

棚に美しく並ぶ砥部焼のカップにコーヒーを淹れ、地ビールやワインを注ぐ。ゆっくりとこの場所の時間を味わう贅沢がある。

リブランドを経て、家族でも滞在できるリゾートとなったのも嬉しい。いつか孫とともに自然や本、食に触れる学びの旅をしてみたい、そう思わせる。

砥部に息づく、美と食と文化の調和

部屋で過ごしたあとは、本館のレストランへ。窓の外には水庭が広がり、陽が傾く景色を眺めながら料理を待つ時間すらも心地いい。

提供されるのは、瀬戸内の海の幸と、愛媛の土が育てた野菜たち。この地域の風土そのものを味わう料理だ。

炭火で焼いた地野菜と茸の一皿は、砥部焼の器と見事に調和していた。野菜の端材で作ったクランブルが彩りと食感を添え、素材の甘みと香ばしさが口いっぱいに広がる。愛媛で育った15種類の野菜それぞれに個性があり、食べ進めるごとに土地の豊かさを感じる。

デザートは、中山和栗とラム酒のクリームに、四国中央・新宮のほうじ茶ジェラート。砕いたパイ生地とアーモンドが食感を重ね、栗とラムの芳醇な香りにほうじ茶の爽やかさが抜けていく。思わず「美味しい」と息が漏れた。

料理を手がける山下僚介シェフは、京都で磨いた技と感性を持って、地元であるこの地に戻ってきた。素材の声に耳を傾け、料理として昇華させる姿勢が、土地の味覚をより深く印象づける。旬の食材に合わせてコース内容が変わるため、季節を重ねるたびに新しい発見がある。

地が、時をつくり、人を結ぶ。滞在がひとつの物語になる

『時地人 – JIJIJIN Matsuyama』では、心をほどくアクティビティも楽しめるプランもある。たとえば、チャペルで行われる特別なメディテーション。夕暮れの通谷池を一望しながらの瞑想は、光と音が静かに溶け合い、心と身体がゆるやかに整っていく。

自然のなかから砥部の街へ自転車でサイクリングしたり、静かにじっくりと池の周りを散歩したりするのもいい。整えた穏やかな心と出かけるなら、どんな体験も特別な瞬間になるだろう。

『時地人 – JIJIJIN Matsuyama』は、旅を“目的”ではなく“体験の始まり”として位置づける場所だ。砥部の自然、文化、人の営みが溶け合い、時間の流れが新しい価値を生む。

書を読み、食を味わい、風に耳を傾ける。そのすべてが、ここでしか出会えない「時」となる。

砥部という土地は、豪華さではなく“深さ”で人を惹きつける。陶を焼く土、水をたたえる池、山から吹く風。そのすべてが重なり合って、ここにしかない静寂を生み出す。『時地人 – JIJIJIN Matsuyama』は、その静けさを贅沢と呼ばず、体験として差し出す。

旅人はこの地で、時間の流れを忘れ、自然と人のあわいに身を委ねる。それは、豪奢な休息ではなく、生命のリズムを取り戻す旅砥部の地に立つこのホテルは、まさに“土地そのものがもてなす”新しいリゾートのかたちだ。

時地人 – JIJIJIN Matsuyama(ジジジン マツヤマ)
所在地:愛媛県伊予郡砥部町宮内1622-7
アクセス:松山駅より車で約20分/松山自動車道 松山ICより車で約10分
客室数: 全10室
公式サイト:https://jijijin.com/matsuyama/

PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000157945.html

(Fumiya Maki)

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