2025年F1第20戦メキシコGP開幕前日の記者会見で、角田裕毅が発した来季シートに関わる発言は、これまでとはやや異なるトーンを帯びていた。
「最終的にはチーム次第です。彼らがどんなチーム編成を望むか、ということです」
パフォーマンスを証明するフェーズは、終わりを迎えつつあるのだろうか。「個人としての能力」よりも「チーム戦略との適合」へ――角田の発言は、来季のドライバー選考における評価項目の比重が変化しつつあることを伺わせるものだった。
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木曜記者会見に出席する角田裕毅(レッドブル・レーシング)、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)、リアム・ローソン(レーシング・ブルズ)、2025年10月23日(木) F1メキシコGPメディアデー(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)
角田裕毅、去就に対する“示唆的な一言”
「来季もレッドブルに残れると思うか」との質問に対する角田の答えは、実に示唆的だった。
「自分がやってきたこと、そして置かれている状況には自信を持っています。もちろん今も、自分自身を磨いてポイントを取れるよう、ベストを尽くしています」
「なので、今やっていることを続けるだけですが、最終的にはチーム次第です。彼らがどんなチーム編成を望むか、ということです」
これまで角田は一貫して、「自らを改善し、自分の仕事に集中する」という姿勢の一点張りを貫いてきた。今回の発言もその延長線上にあるようでいて、どこか趣が異なる印象を受ける。この発言は「能力の証明は済んだ。あとはどんな組み合わせをチームが選ぶかの話だ」という暗黙のメッセージにも聞こえる。
角田はいま、議論の軸を「個人の実力証明」から「チーム戦略との適合」へと移そうとしているのかもしれない。あるいは実際に、チーム内部での検討基準が変化しつつある可能性も考えられる。
角田はまた、「今すぐ来季の去就を知りたいか、それとも今シーズン終了後まで待ちたいか」との質問には、苦笑いを浮かべながらこう返した。
「クレイジーな質問ですね。5年間在籍しているので、レッドブルファミリーの仕組みは理解しています。これまでほぼ毎年、僕はこういう状況に置かれてきました」
毎年、シート喪失の危機を経験してきた角田の言葉には、“悟り”にも似た落ち着きが感じられる。だが、来季に向けてはこれまでとは明らかに違う要素がある。
ホンダ離脱と大変革―悩ましい陣営選択
2026年、これまで角田を支えてきたホンダはレッドブルファミリーを離脱する。それに加え、F1はパワーユニットと車体の両面で歴史的なレギュレーション刷新を迎える。
この大変革期にどのような布陣を選ぶかは、チームにとって極めて重要だ。未知のマシン開発を前進させ、確実にポイントを積み重ねるためには、往々にして「経験×即戦力」が求められる。
こうした観点から見れば、5年のF1経験を持つ角田はレッドブルにとって理想的な存在といえる。だが一方で、レッドブルは「次世代」の育成にも目を向けている。
マックス・フェルスタッペンは契約に離脱条項を持ち、条件次第では移籍の可能性もある。そのリスクを見据えれば、「次のフェルスタッペン候補」としてアイザック・ハジャーを抜擢するという判断も、十分に現実的だ。
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アイザック・ハジャー(レーシング・ブルズ)、2025年10月16日(木) F1アメリカGPメディアデー(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)
この構図はレーシング・ブルズにも当てはまる。2026年の新レギュレーションを迎えるにあたっては、経験豊富なドライバーを起用するのが合理的だ。だが、アーヴィッド・リンブラッドを昇格させる場合、経験不足というリスクを抱えることになる。
ここで角田の選択肢が広がる。レッドブルのシートを失った場合、レーシング・ブルズに「降格」してキャリアを継続する可能性が取り沙汰されている。経験と即戦力を兼ね備えた角田は、2026年の「革命期」を乗り越えるためのキーマンとなり得る。
角田のアピールポイント—結果とチームサポート
リンドブラッドとハジャーが昇格すれば残り1シートを角田とローソンが争う構図となる。この前提でシート獲得に向けて「何が決め手になると思うか?」と問われた角田の答えは明快だった。
「結果でしょうね。今はチームにとっても選手権にとってもすごく重要な時期ですし、特にチームメイトとの関係でどれだけサポートできるかが大事です。チームとして2位を獲得できるチャンスがありますし、その点、オースティンでポイントを獲得できたことは良いステップになりました」
さらに、フェルスタッペンのタイトル争いを支える意識も強調した。
「いろんな形でサポートできると思います。セットアップやリソースの違いも含めて、今のパッケージを最大限に生かすための新しいセットアップを探っていますし、それは今シーズンを通してずっと上手く機能しています」
「そしてポジション的にも、なるべく上位にいれば戦略面でチームのためにできることが増えます。たとえば状況に応じてスティントを延ばすとか、マックス(フェルスタッペン)が1位を取る可能性を高めるとか、ライバルのレースを難しくするような戦略を取ることもできます」
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記者会見でマイクを握る角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年10月23日(木) F1メキシコGPメディアデー(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)
一方、自身のパフォーマンスについては、「さらに努力する必要があります。つまり、毎レース結果を出し続けることです」としつつも、これまでの成果を強調した。
「ここ数年、レッドブルのセカンドドライバーたちは、その点で苦しんできました。一方で僕は、特に後半戦でいい流れを掴めていると思います。毎戦、良いところを見せられていると思いますし、過去数年にわたって、別のチームでも多くを証明してきました」
マルコの“先送り示唆”が意味するもの
レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコは当初「メキシコGP後に決定を下す」と明言していた。だがアメリカGPの決勝後、突如としてその姿勢をやや軟化させた。
「原則としてはそういう計画だが、現時点でそれは我々の優先事項ではない。その時に、どの程度まで決定できるか様子を見ようじゃないか」
浮上した決定先送りの可能性——それは慎重な熟考か、迷いか、あるいは複雑な交渉の結果なのか。
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パドックを駆ける角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年10月23日(木) F1メキシコGPメディアデー(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)
マルコによれば、現時点で確定しているのは、所属チームは未定ながらもハジャーが来季も残留するということだけだ。ハジャーのレッドブル昇格はパドックの大方の見方であり、リンドブラッド昇格は依然として噂レベルにとどまっている。
ローソンも「もし決定が明確に出ているなら、たぶんもう知らされているはず」と語り、まだ議論が続いているとの認識を示した。パドックの見方とは対照的に、角田にとってそれは、依然としてレッドブル残留の可能性が残っていることを意味する。
キャリア最重要局面も、スタンス変わらず
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シート合わせためにモーターホームを出るアーヴィッド・リンブラッド(レッドブル)、2025年7月3日(木) F1イギリスGPメディアデー(シルバーストン・サーキット)
標高2,200メートルという特殊な環境で行われるメキシコGP。FP1ではリンブラッドがフェルスタッペンのマシンをドライブする。レッドブルにとっては若手の可能性を評価する機会となる。一方で、角田にとってはプレッシャーが増す状況だ。
角田のF1キャリアはいま、まさに最重要局面を迎えている。だが、彼のスタンスは変わらない。
「これまで通り自分を証明し続けて、与えられたチャンスを最大限に活かすだけです。そして何よりも大切なことは、このチャンスを与えてもらっていることへの感謝です。だからこそ、全力でそれを最大限に活かすことに集中する、それだけです」
「自分では多くの部分を改善できたと思っていますし、来年も同じチームにいるに値する存在であるために、自分を磨いていきます」
F1メキシコGPは、日本時間10月24日(金)27時30分からのフリー走行1で幕を開ける。
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アイスクリームをコーンに乗せる角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年10月23日(木) F1メキシコGPメディアデー(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)
