戦時中の水没事故で183人が犠牲になった山口県宇部市の海底炭鉱「長生炭鉱」の坑道で、25日、骨のようなものが見つかったのに続いて、26日は人の頭の骨のようなものが見つかりました。
いずれも警察が人の骨かどうか確認を進めています。
宇部市の「長生炭鉱」では、戦時中の1942年に坑道が水没する事故が起き、朝鮮半島出身の136人を含む183人が亡くなっていて、市民団体が去年から坑道に残された遺骨を探す潜水調査を行っています。
25日、韓国のダイバー2人が海に突き出た排気筒の水深32メートル付近にある横向きの穴から坑道に入り、今後の調査のための準備作業を行っていたところ、土砂の中に埋まっていた骨のようなものを見つけました。
そのうち、持ち帰った3本について、警察が人の骨かどうか確認を進めています。
調査は26日も行われ、ダイバーが25日、骨のようなものが見つかった排気筒から沖の方向に240メートルほど進んだ場所で、土砂の中に埋まっていた人の頭の骨のようなものを見つけ、持ち帰りました。
頭の骨のようなものも、引き渡された警察が確認を進めています。
坑道の中にはほかにも複数の骨のようなものや靴のようなものが残されているということですが、25日と比べて視界が悪かったことなどから持ち帰らなかったということです。
市民団体では今後の調査をどのように行うか検討することにしています。
【事故で祖父が犠牲になった日本人女性の話】
83年前の事故で祖父が犠牲になったという50代の日本人女性は坑道で骨のようなものが見つかったことについて、「この事故で私の母の人生は変わりました。祖父は若くして命を落とし、悔しかっただろうと思います。183人の尊い命をもう一度、この世に出すことができて感謝しています。遺骨を実際に見て、どんなに苦しかったのか、これまで80年以上、亡くなった方たちはどんな思いだったのかと想像しています」と話していました。
【調査を行ってきた団体の井上洋子共同代表の話】
人の頭の骨のようなものが見つかったことについて、調査を行ってきた「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の井上洋子共同代表は「きょうはご遺族もいらしていて、もしかしたら自分のおじいちゃんかもしれない、おじさんかもしれないという話を聞き、よかったなと思いました。この2日間の調査で、骨が残されている位置が特定されたので、これから政府にも協力を仰ぎながら、さらに遺骨を収容していきたいです」と話していました。
【長生炭鉱と調査経緯】
山口県宇部市にあった海底炭鉱「長生炭鉱」では、今から83年前の1942年に坑道の天井が落盤して全体が水没し、朝鮮半島出身の136人を含む183人が犠牲となりました。
宇部市によりますと、炭鉱を経営していた会社は1958年以降、登記上の休眠状態となり、1974年に解散したものとみなされています。
犠牲者の遺骨はそのまま残されたままになっていますが、去年から、市民団体が専門技術を持つダイバーの協力を得て、潜水調査を行っています。
障害物などに阻まれ、思うように進んでいませんでしたが、ことし5月、沖にある排気筒の水深32メートル付近に横向きの穴が見つかったことで大きく前進しました。
その後の調査で、その穴から坑道を240メートルほどさらに沖に向かって進むことができ、視界も5メートルほどまで見通せるようになったことから、調査を続ければ見つかるのではないかと期待が高まっていました。
【国の対応は】
遺骨の調査を進める市民団体、「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」では、国に対して財政面や技術面での支援を求めてきました。
これに対し、厚生労働省は安全性に懸念があることや遺骨が残されている具体的な位置が分からないなどとして、支援は行えないとの考えを示してきました。
また、長生炭鉱の事故の犠牲者は、2016年に成立した「戦没者遺骨収集推進法」で遺骨収集の対象となる「戦没者」にはあてはまらないとの考えも示しています。
こうした中、ことし4月に石破総理大臣が国会で、「どのような支援を行うべきか、さらに政府の中で検討はしたい」と発言しました。
これを受けて、厚生労働省は、調査への対応を検討するため、鉱山、潜水、土木構造物などの分野について専門家から聞き取りを進めています。
【今後の焦点】
長生炭鉱の坑道で骨のようなものが見つかったことで、今後は次の2点が焦点になるとみられます。
1つめが人の骨だった場合、身元を誰がどう調べていくのかです。
人の骨かどうかは警察が調べますが、仮に人の骨と確定したあとの身元特定の調査の具体的な流れは決まっていません。
厚生労働省は、長生炭鉱の犠牲者の遺骨について、国が戦没者のDNA鑑定などを行う「戦没者遺骨収集推進法」の対象ではないとしています。
骨のようなものが見つかる前のNHKの取材に対して、厚生労働省は人の骨だとしてもこの法律の枠内でDNA鑑定を行うことは想定していないと話していました。
一方で、複数の警察関係者も取材に対し、人の骨だったとしても、そのあと、どの機関が身元を調べて誰に骨を引き渡すのかなどの手続きは決まっていないと話しています。
また、2つめは坑道内に残されている遺骨を探す調査を今後どう進めていくのかです。
国は、調査への支援が難しいとする理由として、安全性への懸念などのほか、遺骨が残されている具体的な位置がわからないことをあげていました。
今回、骨のようなものが実際に見つかったことを受け、団体は“具体的な場所がわかった”として、あらためて国に協力を求めることにしています。
ただ、古い炭鉱を詳しく調べるとなると多額の費用もかかります。
そのため、団体では、国に対してできる範囲での現実的な支援のあり方を検討して欲しいとしています。
