第一生命経済研レポート
2024.08.20
新興国経済
ブラジル経済
内外経済ウォッチ『アジア・新興国~ブラジル中銀の独立性を巡る懸念はどうなるか?~』(2024年9月号)
西濵 徹
目次
ブラジル中銀は7月の定例会合で政策金利を2会合連続で10.50%に据え置いた。同行は6月の前回会合で昨年8月に開始した利下げサイクルの停止を決定した。その後にルラ大統領は年末に任期満了を控える同行のカンポス=ネト総裁の後任人事をちらつかせつつ利下げを要求するなど『圧力』を掛けてきたが、中銀は独立性を堅持した。なお、ここ数年の同国ではインフレが上振れしており、中銀は物価と為替の安定を目的に累計1175bpの利上げに動いた。他方、インフレは一時18年ぶりの高水準となるも一昨年後半以降は頭打ちに転じたため、中銀は昨年8月以降に累計325bpの利下げを実施した。


しかし、上述のようにルラ大統領は度々中銀の独立性を脅かす動きをみせたほか、同政権はバラ撒き政策による歳出圧力を強めるなかで連邦政府の基礎的財政収支は再び赤字に転じており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の悪化が懸念されている。こうしたなか、年明け以降の通貨レアル相場は調整の動きを強めてきた。さらに、堅調な雇用環境を追い風にサービス物価の上昇圧力も強まる動きが確認されるなど物価を巡る状況は変化しつつある。なお、国際金融市場がルラ政権に抱く懸念に対応して、政権の経済チームは財政枠組の遵守を目的とする歳出削減案の策定に動き、ルラ大統領も一連の歳出削減案を承認したため、調整の動きが続いたレアル相場は一時的に底打ちが確認された。
しかし、財政運営に『足かせ』が嵌められたことで、金融政策に対する圧力が強まると見做されて中銀の独立性に対する懸念が高まったうえ、折からの中国経済の不透明感を受けた商品市況の調整の動きも重なり、その後のレアル相場は再び頭打ちに転じている。他方、ルラ政権は物価と景気への影響を巡って政権と軋轢が生じた国営石油公社のCEO人事に介入する動きをみせるなど、なりふり構わぬ動きをみせる。しかし、政権が推した新CEOは投資計画を大幅に引き上げる一方、7月初めには燃料価格を引き上げるなど収益性の確保に向けてバランスを取る動きをみせており、物価上昇圧力が強まることは避けられなくなっている。


こうしたことも中銀が2会合連続で利下げ局面の休止を決定する一因になっている。中銀は先行きの政策運営について、足下でインフレ期待が高まっていることを警戒する考えをみせている。金融市場においては、次期総裁の最有力候補と目されるガリポロ金融政策担当理事について、現職のカンポス=ネト総裁に比べて「ハト派」とみられてきたものの、同氏も2会合連続で金利据え置きの票を投じたことでルラ大統領による圧力がこれまで以上に強まることも予想される。その意味では、今後は中銀の独立性に対する懸念が高まるとともに、そのことがレアル相場の重石となる可能性に注意を払う必要性が高まっている。
西濵 徹
