弘法大師・空海が構想し、造立後に焼失した大日如来像を約500年ぶりに再現する計画を巡り、高松市にある四国八十八か所霊場札所の讃岐国分寺と制作した彫刻家が対立し、一般にお披露目できない事態に陥っている。仏像が完成したかどうかで双方の主張が異なり、司法の場で所有権や著作権を争っているためだ。公開を待つ市民らからは戸惑いの声も上がる。(高松総局 足立壮)制作途中の大日如来像。大塚住職が2023年2月に大森氏の工房で撮影した(大塚住職提供)制作途中の大日如来像。大塚住職が2023年2月に大森氏の工房で撮影した(大塚住職提供)

 再現される大日如来像は平安期に空海が造らせたとされるもので、京都・東寺にあったが、1486年の土一揆で焼失した。11年後に再建され東寺に安置されており、当初のものとは一部の形が異なると伝わる。 讃岐国分寺の大塚純司住職(51)は2012年、霊場開創1200年の記念として、東寺の歴史書「東宝記」をもとに焼失前の大日如来像の再現を構想。13年に東京の彫刻家、大森暁生氏(52)に依頼した。
 寺によると、東宝記には、▽
蓮華(れんげ)
座の下に八頭の獅子を置く▽五仏を配した冠をいただく――などの特徴が記されている。不明点もあり、協議しながら高さ約4メートルの仏像が制作された。
 裁判資料などによると、当初の計画では制作期間3年を予定していたが、細部にこだわったため、工期は10年以上を要した。費用は約8100万円となり、寺は全額を支払った。 寺と大森氏は、開眼法要を執り行い、一般公開するため、引き渡し日を23年8月に設定。だが、仏像の公開方法で意見が分かれ、大森氏からは「完成していない」などとして、引き渡されなかった。 寺は大森氏に仏像の引き渡しを求める仮処分を東京地裁に申し立て、同地裁は11月の決定で、寺の訴えを認めた上で、組み立て前の仏像が寺に引き渡された。 しかし、これで解決はしなかった。大森氏は自らの承諾なく寺が組み立てたり、公開したりすることの差し止めを求める仮処分を高松地裁に申し立てた。同地裁は12月の決定で、大森氏に仏像の著作権や著作者人格権が認められると判断し、「彫刻家の承諾なく公表してはならない」と命じた。 二つの決定について、互いが不服を申し立て、保全異議審が東京、高松両地裁で争われている。 寺側は大森氏が引き渡し期限の前に完成内覧会を予定していたことなどから、「作業が完了していたのは明らか」と主張。所有権は寺にあり「期限を順守しておらず、引き渡しの拒絶に正当な理由はない」とする。制作過程では寺側が具体的な指示もしたとし、「仏像の著作者は寺だ」とも訴える。 一方、大森氏側は、仏像は未完成で、出来上がった部分の修正を寺側から求められるなど「円滑な制作の妨げになっていた」とし、完成が遅れた責任を否定。「自分の思想や心情を創作的に表現した作品で、著作権が認められる」と強調し、途中段階で引き渡しを拒むことができるとする。支払われたのは一部で正当な対価の支払いもなく、所有権は大森氏にあると反論する。この仏像の制作費を巡っては、寺側がクラウドファンディングで寄付を呼びかけ、市民ら約1200人から2200万円を集めた経緯がある。 寄付したという高松市の男性(77)は「お遍路さんへの文化的な発信にもなると思って寄付したが、なかなか公開されないので、予定通り進んでいないのだろうと思っていた。壮大な計画なので、早く見たい」と話した。

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