耐える女から毒親、かと思えば伝説の結婚詐欺師まで……バイプレーヤーとしてパンチの利いた役を演じ分ける女優・筒井真理子。この人がいるとドラマの奥行きが増し、スパイスさながらに見る者に強い印象を残す。振り幅の大きいあの演技はどこから生まれるのか、役作りのテクニックも含め、正面からぶつけてみた。(文化部 大木隆士)
「ミス・ターゲット」で結婚詐欺師の元締・弥生を演じる筒井真理子(C)ABCテレビ
「いろいろ想像しているだけでボロボロ涙が出てくる」
放送中のNHK連続テレビ小説「虎に翼」では、ヒロイン(伊藤沙莉)の同級生である華族の令嬢(桜井ユキ)の厳格な母親として、憎々しくも貫禄たっぷりの姿で登場。ほかにも暴力や
辛辣(しんらつ)
な言葉で子どもを苦しめ、傷つける「毒親」役として最近はすっかりおなじみだ。
「
泥濘(ぬかるみ)
の食卓」(2023年、テレビ朝日系)では娘(斉藤京子)に暴言を吐き、人格を徹底的に否定した。一方、「エルピス」(22年、フジテレビ系)では、息子を溺愛する弁護士として登場。周囲にはばかりなく息子の容姿を褒めるなど異様な雰囲気を醸し出した。
「過保護も一種の虐待だと思うんですよね」。そう語る姿はゆがんだ母親役とは正反対の、朗らかでさっぱりした印象だ。「子どもを虐待する母親なんて、一番自分には分からないですよ。あざができるほど殴るなんて想像して演じるしかない」。では、どうしたらリアルな演技ができるのか、キーワードは“沈殿”だ。 子どもの頃に親に虐待された人が、我が子にも同じことをする「虐待の連鎖」を引き合いに出し、説明してくれた。 「(学校で)隣の子はきれいな服を着させてもらっているのに、自分は全然着替えさせてもらえない。汚いし嫌われる――というのを勝手に想像するんです。そうすると切ない気持ちがたまっていくんですよね。悲しい、悲しい、悲しいって。すると、親になって小さな子どもに抱きしめられた時にどうしたらいいか分からないって気持ちが、なんとなく分かってくるんですよ。だから子どもの頃に虐待されていて『こんなことがあったらどうだろう』『こんなことは』って、自分でイメージしたことを沈殿させていくんです」 学生時代、演劇とともに興味を持ったのが心理学で、カウンセラーを目指したこともあった。そうした経験も生かされている。「イマジネーションの旅、心の旅、役の旅をしている。昔から物語を書くのが好きだったので、そういうのが得意なのかもしれない。いろいろ想像しているだけで、ボロボロ涙が出てくる。変な人だと思われるかもしれないですけどね。ただ、人間を演じる、その人物になるというのは、根っこをつかまないとできないと思うんですよ。逆に根っこさえつかまえればいい」親子丼持参して見た「無責任」シリーズ
様々な役柄を多彩に演じる筒井真理子
映画「波紋」(23年公開、荻上直子監督)では夫が失踪し、子どもとも疎遠になり、新興宗教に走る女性を演じた。深田晃司監督の「
淵(ふち)
に立つ」(16年)、「よこがお」(19年)では、抑圧され、ひたすらこらえる女性をひりつく演技で見せた。とはいえ、「もともとはコメディエンヌだったんですよ」とサラッと語る。
大学時代から所属していた劇団「第三舞台」(鴻上尚史主宰)では、「3分に1度笑いをとらないと怒られた」。瞬発力と対応力が求められ、「間が0コンマ5秒早いんだよ」と叱られる。ところが時々「そこはおまかせ、ノリでやって」という場面もあった。例えばペットボトルの水を見て「ミネラルウォーター」と言うか、ただ「水」とだけ言うか。笑いにつながるのはどちらか。「そのチョイスのセンスも求められる」 こうしたアドリブほど難しいものはない。ヒントを探そうと、東京・池袋にあった名画座「文芸座」のオールナイト上映に親子丼の弁当を作って持参して通った。植木等の「無責任」シリーズなどのコメディー作品に見入り、暗がりで必死にメモを取った。 そんな努力を重ねたが、それでもまだ遠く及ばず、コメディーの難しさを痛感する。「演じている時は、客観的に自分を見ては絶対ダメ。例えば、大泣きする場面では『オレは世界中で一番不幸な男なんだ』と信じて泣く。その瞬間(演技に)没入しないと笑いは起きないんですよ。だからコメディーがうまい人ってすごいと思います」結婚詐欺師の元締役「ちょっと切なく見えるといいな」
「ミス・ターゲット」では、結婚相手を探すすみれ(松本まりか、左)が、和菓子職人の宗春(上杉柊平、右)と出会う(C)ABCテレビ 今月からは、テレビ朝日系「ミス・ターゲット」(日曜夜10時)に結婚詐欺師の“元締”弥生役で出演している。カネへの執着が強く、手練手管、七変化で男たちを手玉にとる結婚詐欺師・すみれ(松本まりか)が本当の恋を探すラブコメディー。演じているのは、表向きはスナックのママだが、実はすみれや“見習い”の萌(鈴木愛理)に結婚詐欺を指南する師匠役だ。 世代を超えて3人でスナックに集まり、理想の相手や結婚についてあれこれと、軽快で女子会のようなトークが展開する。一見明るい雰囲気だが、そこに現実の暗さも忍ばせる。「社会の片隅で3人で肩を寄せ合い、(楽しそうでありながら)ちょっと切なく見えるといいなと思って演じています」。すみれの幸せを願っているのに結婚詐欺に手を染めさせる。その矛盾の背後にあるものがこれから明らかになっていくようで、シリアスとコメディーが入り交じり、長年の役者経験が生かされそうだ。 主役の松本については「かわいいの一言。役として思ったことが、こちらにバンと届くところがいい。テクニックでなく、気持ちがすごく伝わってくる。(演技の)キャッチボールが楽しくて、やりやすいです」。
弥生(筒井真理子、左)のスナックに集まったすみれ(松本まりか、中央)と萌(鈴木愛理)(C)ABCテレビ「相手と対面して初めて何が出てくるか分かる」
様々な作品に出演する中で、「役の気持ちがグッと
腑(ふ)
に落ちてフワッとセリフが出てくる時」があるという。「これだ」と感じる瞬間だ。「相手の役者さんと対面し、演技して初めて何が出てくるか分かる。毎回違うから飽きなくて面白いです。『役者(の仕事を)どうぞ、みなさん』って本当に言いたいです」
そこで、すみれのように人生に悩む人たちへのメッセージをお願いしたら、するすると返ってきた。 「迷っている時はすごくあがく。あがくのはつらいけど、あがき続けないと見えないことってある。だから無駄じゃないんですよ。そして誰も肯定してくれなかったら『自分、おめでとう』『自分、OKだよ』って言ってあげてください」つつい・まりこ
山梨県出身。早稲田大在学中の1982年、劇団「第三舞台」で初舞台を踏む。フルート演奏のほか、フィギュアスケートの経験者でもある。映画「淵に立つ」「波紋」、NHK連続テレビ小説「花子とアン」「虎に翼」、ドラマ「みんな!エスパーだよ!」(テレ東系)、「春になったら」(フジテレビ系)など出演多数。映画「よこがお」で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞している。
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