(左から)ヒカルド・バセラール、アイアート・モレイラ
Photo by Maria Bacelar
マイルス・デイヴィスらと共演した異才アイアート・モレイラとの共作
Mikikiでは新作をリリースするたびに紹介してきた多作な現行ブラジル音楽のマエストロ、ヒカルド・バセラール。彼のニューアルバムは、アイアート・モレイラと共作した『Maracanós』だ。

アイアート・モレイラといえば、キャリアの初期はサンバランソ・トリオや故エルメート・パスコアールとのバンド、クアルテート・ノーヴォなどで活動していたパーカッショニスト/ドラマー。1960年代に渡米して以降、マイルス・デイヴィスとの共演でグローバルに知られるようになり、言わずと知れた名盤『Bitches Brew』や壮絶極まりないライブアルバム『At Fillmore』をはじめ、いわゆるエレクトリック・マイルス期に展開された不定形で混沌とした音楽に貢献してきた異才だ。その後、ウェザー・リポートやチック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァーへの参加などにより、ジャズフュージョンのリズムを象徴する打楽器奏者として高い評価を受けた。

Photo by Maria Bacelar
映画を機に作られたブラジリアンフュージョン的アルバム
ヒカルドは1967年生まれの現在58歳、アイアートは1941年生まれの84歳と、年齢は2回り以上異なる。大御所との共演が多いヒカルドとはいえ、そのように年の離れたアイアートとの出会いがどう実現したのかというと、それはジョン・トブ・アズライ監督のドキュメンタリー映画を通じてだったという(ジョンは最近、日本でも公開された「エリス&トム ―ボサノヴァ名盤誕生秘話―」の共同監督の1人)。その制作過程でアイアートがセアラー州フォルタレーザにあるヒカルドの拠点ジャスミン・スタジオを2回訪れ、2025年8月に配信されたシングル“Aqui, Oh!”(アルバムには未収録)と本作を、アイアートのパートナーであるフローラ・プリムとともに録音。なお映画は、アイアートとフローラの2人がスタジオで共演する模様を記録したものだとのこと。
アイアートは「ヒカルドは自身の仕事を熟知しています。ジャスミン・スタジオは素晴らしいスタジオで、最高品質のレコーディングに必要なすべてが揃っており、そこで私たちが協力して取り組めたことが非常に重要でした」とヒカルドの才能や技術を称賛、一方のヒカルドは「私たちは1週間、毎日共に演奏し、一緒にテーマを膨らませていきました。彼が2曲、私が1曲ボーカルを担当しています。非常に没入感のある仕上がりとなっており、現代の音楽業界における一般的な商業モデルとは異なる、長い尺の楽曲や旋律の探求を特徴としたアルバムを自由に作りたかった」とアイアートとの制作について語っている。
アルバムタイトルの〈Maracanós〉とは、ブラジル先住民の楽器である〈maraca(マラカス)〉とポルトガル語の〈nós(私たち)〉を組み合わせた造語だというエピソードからは、ヒカルドのアイアートへの敬愛が滲み出ているように感じられる。音楽的にはインストゥルメンタルが主体で、多彩な音楽を展開してきたヒカルドの作品のなかではとりわけブラジリアンフュージョンに寄ったもの。その志向性もまた、アイアートとの共演・共作ならではだ。
