2025
10/30
欧州連合(EU)の透明性登録データによると、2024年、暗号資産取引所のロビー活動費が前年比で約25%増加した。その中でも、米国の大手暗号資産取引所クラーケンを運営するPayward社が、業界内で最も多くのロビー活動費を支出したことが明らかになった。
このデータは、市民監視団体「Corporate Europe Observatory」と「LobbyControl」によって公開されたものである。EUでは、企業が欧州委員会などの機関に対してロビー活動を行う前に「透明性登録簿」への登録が義務付けられており、活動内容や予算、人員の情報を開示しなければならない。
目次
クラーケンとCoinbaseがロビー活動を主導
クラーケンの運営企業であるPayward社は2024年、32万3,000ドルから43万ドル(約4,700万〜6,300万円)をロビー活動に投じ、前年より約10万8,000ドル(約1,500万円)増加した。同社にはフルタイム換算で2.75人のロビイストが在籍している。
2位となったのはCoinbaseで、支出額は21万6,000ドルから32万3,000ドル(約3,100万〜4,700万円)。こちらも前年より同額の10万8,000ドルの増加となり、0.7人分のフルタイム相当のロビイストを雇用している。
LobbyControlによれば、ロビー会社の担当者は複数のクライアントを掛け持ちするケースが多く、業務時間の20%を特定企業に割くといった形で人数が算出されているという。
欧州の他企業もロビー活動を強化
オーストリア拠点のBitpandaは、前年と同水準の5万4,000〜10万8,000ドル(約800万〜1,600万円)を支出し、2人のフルタイムロビイストを雇用。
また、Binanceはフランス法人「Binance France SAS」を通じて同額を費やし、0.4人分のロビー人員を配置した。
さらに、デジタルバンキング大手Revolutも、暗号取引サービスを提供する事業者として32万3,000〜43万ドルを支出し、1.4人分のロビイストを抱えている。
これらの数値は、欧州委員会などEUの中央機関へのロビー活動に限定されたものであり、各国政府や金融規制当局への働きかけは含まれていない。そのため、実際の支出額はさらに大きい可能性があると見られている。
テック業界全体ではMetaが圧倒的支出
暗号資産業界のロビー活動支出は増加傾向にあるものの、テック業界全体と比べると依然として小規模である。報告によれば、Meta(旧Facebook)は2024年に1,070万ドル(約15億円)以上をEUでのロビー活動に投じ、全企業の中で最も高額だった。GoogleやAppleなど米国の巨大IT企業が依然としてEU政策への影響力を握っている。
規制強化の中で高まる政治的ロビー活動
こうしたロビー活動の活発化は、EUにおける暗号資産規制の変化と密接に関係している。
2024年12月30日に、EU全域で暗号資産市場を包括的に規制する「MiCA規制(Markets in Crypto-Assets Regulation)」が全面施行された。これは暗号資産の発行、取引、カストディを統一的に定義・監督する初の枠組みである。
一方で、EUの新設機関「マネーロンダリング防止庁(AMLA)」は、2027年7月1日に施行予定の「反マネーロンダリング規則(AMLR)」を前に、加盟国に対し金融犯罪リスクへの警戒を強めるよう警告を発している。
法律事務所関係者によると、一部の暗号企業はMiCAの制約を回避するために、複雑な所有構造を利用したり、規制当局を“選んで”登録するなどの戦略を取っているという。
今後の展望
クラーケンをはじめとする主要暗号取引所は、MiCA時代のEU市場で主導権を握るため、ロビー活動を通じた政策形成への影響力を強化している。
今後、規制当局と業界の関係がどのように進化するかが、欧州暗号資産市場の成長における重要な焦点となるだろう。
まとめ
2024年におけるEUでのロビー活動支出でKraken(親会社Payward)が業界首位となったことは、暗号資産取引所が「規制との対話」をいよいよ戦略的な経営課題として本格的に位置づけ始めたことを示しています。
特に、MiCA(欧州暗号資産市場規制)の完全施行を受け、各取引所が生き残りと拡大のために政治・法的影響力を高めようとしている姿が明確に表れています。
公開データによると、Paywardは2024年に約32万〜43万ドルをEUへのロビー活動に投じ、前年から約10万ドル増加しました。専任換算で2.75人のロビイストを雇用しており、これは欧州で最も積極的な暗号資産関連のロビー体制です。Coinbaseもこれに続き、約21万〜32万ドルを支出し、前年から同様に支出を増加させています。
興味深いのは、この支出が単なる「企業防衛のためのロビー」ではなく、EUの新しい暗号資産規制環境を主導的に形成しようとする攻めの戦略である点です。MiCAが2024年12月に完全施行されたことで、ライセンス取得や資産保護、ステーブルコイン発行に関する統一ルールが整備されました。しかし同時に、各国の金融当局による解釈や運用にはまだ差があるため、企業側は「どのように法的整合性を保ちつつ柔軟に展開できるか」を模索しています。
そのため、KrakenやCoinbaseなど主要取引所は、MiCAの実務的運用を自社に有利な方向に導くべく、欧州委員会や議会に積極的に働きかけているとみられます。実際、法務専門家の間では「企業が規制を回避するために複雑な企業構造を用いたり、有利な監督機関を選ぶ“レギュラトリー・ショッピング”が進んでいる」と指摘されています。
とはいえ、暗号業界のロビー支出は依然としてテック大手に比べれば小規模です。Meta(旧Facebook)はEU内で1,000万ユーロ超を費やしており、暗号業界全体の支出を大きく上回ります。つまり、暗号企業にとって欧州ロビー活動はまだ「成長途中の戦場」であり、今後の法整備に応じてさらに拡大していく余地があります。
最終的に、KrakenがEUロビー活動でトップに立った事実は、暗号資産産業が単なるテクノロジー企業ではなく、もはや「政策的プレイヤー」としての地位を確立し始めていることを意味します。MiCA施行後の欧州市場では、法規制を理解し、制度設計の段階から関与できる企業こそが長期的な競争優位を得る時代に入りつつあるのです。
