今回の筆者は、国際NPO「ワン・キャンペーン」のセラー・マッカ事務局長とケニアのNGO「ワキ・ヘルス」のローズマリー・ムブル事務局長です。

国際NPO「ワン・キャンペーン」のセラー・マッカ事務局長(左)とケニアのNGO「ワキ・ヘルス」のローズマリー・ムブル事務局長

「Visionary Voices」は、論説記事を配信するプロジェクト・シンジケートが、発展途上国の直面する課題に関する専門家の論考を提供するシリーズです。with Planetでは、配信記事の中からよりすぐりを抄訳し、掲載します。

世界保健機関(WHO)加盟国の年次総会に当たる第78回世界保健総会(WHA)は5月に開幕し、自画自賛の雰囲気で幕を閉じた。パンデミック対策についての合意から加盟国分担金の増額まで、誇るべき成果は多々あった。しかし、大会のテーマである「One World for Health(健康のため、世界を一つに)」という大目標の陰には、大きな問題が隠れていた。アフリカ諸国が直面している資金の借り入れコストの高さだ。

アフリカは(若年層の割合が非常に高いことから=訳注)世界で最も若い大陸と呼ばれるが、世界の疾病負担の24%を抱えている。にもかかわらず、世界の保健医療支出に占める割合は1%にも満たない。2001年、アフリカ諸国はこの問題を自らの手で解決しようと決意し、国家予算の15%以上を保健医療に投入することを誓った。ところが、それから20年以上経った今でも、その目標を達成したのはわずか2カ国にとどまる。アフリカ大陸の政府が保健医療に割り当てているのはGDPの平均1.48%に過ぎず、保健医療支出の37%は国民が自己負担している。

「資本コストは人命を犠牲にする」

おもな原因は借り入れコストにある。高所得国の借入金利が2~3%なのに対し、アフリカ諸国のそれには10%超の金利が課せられることもある。この差は、アフリカ経済はリスクが高いという投資家の認識を反映するもので、アフリカ大陸の政府は債務の返済を取るか、医薬品の購入、医師の雇用、医療施設の建設を取るかを選択しなければならないこともよくある。資本コストは人命を犠牲にする、ということだ。

失敗に終わったケニアの「医療機器運営管理提供サービス(MES)」プログラムを例に取ろう。最新機器の提供を通じて病院における医療サービスの利用機会を拡大しようというのが、この官民連携プログラムの狙いだった。このプログラムで多くの病院にハイテク機器が提供されたのは確かだが、投資に伴う資本コストがあるおかげで、ケニアは設備を活用するためのインフラや人材を投入できなかった。

ガーナの悲惨な選択 薬か命か

債務返済を抱え、財政余地が皆無に近いガーナでは、政府の保健医療予算のおよそ75%が医療従事者の賃金に充てられていて、医薬品から母子保健プログラムに至るまで、それ以外の重要な支出に投入できる資金がほとんど残っていない。2023年には抗マラリア薬の不足により、農村部の一部の診療所は、必要な薬を民間の薬局から直接購入するよう患者に指示せざるを得なくなった。その結果、多くの家庭が、さらなる貧困に陥るか、愛する人の死期を早めるかという悲惨な選択を迫られる事態となった。

アフリカ諸国の多くでは、借り入れコストの高さが、外国の援助提供者の善意に依存する構造を生み出してきた。しかし、援助に依存する医療システムは本質的に脆弱(ぜいじゃく)だ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック時に、私たちはその脆弱性を目の当たりにしたし、欧州諸国が開発支出を削減して他の優先事項に資金を振り向けようとし、米国が国際開発局(USAID)を皮切りに援助態勢を丸ごと解体していく中で、今またその脆弱性を目撃している。

パンデミックと援助削減が突きつける現実

アフリカ南東部マラウイでは、すでに、こうした削減措置によってHIVの治療や予防のための重要なプログラムが資金集めに奔走せざるを得なくなっている。現地NGOは訪問診療員の解雇を余儀なくされ、結核やHIVの患者がケアを受けられなくなっている。南アフリカ共和国のある地域訪問看護師は、「心配しているのは、死亡率が非常に高くなることです」と嘆いた。

アフリカ人の健康を他者の善意に頼ってはならない。各国政府は安定した強靱(きょうじん)かつ自立的な保健医療システムに、資本を投入できなくてはいけない。セネガルとザンビアは資金を確保するため、アルコール飲料や砂糖入り飲料に「健康税」を課すという方法を試みている。セーシェルなどの国々では「債務と健康のスワップ(交換)」という手法が有望視されている。ナイジェリアの外国居住者(ディアスポラ)向け医療債券(ヘルスボンド)は、多国間銀行からの譲許的な(低金利で返済期間が長いなど、優遇的な=訳注)資本や保証が組み合わされれば、数十億ドル規模の資金調達を可能にするかもしれない。


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G20に求められる行動 資本コスト低減を優先課題に

結局のところ、低コストで予測可能な資本に代わるものはない。11月に開催される主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で借り入れコストの低減化を主要優先課題にする必要があるのは、だからなのだ。

まずは、時代遅れの国際規制やリスク評価の偏向といった構造的要因に取り組むこと。そして、適切なタイミングで意味のある債務救済を実施することだ。そのためには、「債務と健康のスワップ」のような革新的な仕組みや、パンデミックが発生したとき債務返済の猶予を可能にする「一時停止条項」の利用を既存の貸し付け契約や新規の債務契約に拡大することが必要になるだろう。

三つ目の優先課題は、「Gaviワクチンアライアンス」や「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」など多国間保健医療プログラムへの継続的な政治的支援を確保し、そうすることで、関連する医療サービスを継続的に届けられるよう万全を期すことだ。最後に、G20は、アフリカ諸国が国際開発金融機関を通じて保健インフラの整備に譲許的融資を受けられるよう、利用機会の拡大に努めなければならない。

G20はこうした行動を取るにふさわしいフォーラムであり、その使命には、地球規模の課題への取り組み、経済協力の促進、世界的な安定の促進が含まれている。資本コストは一国の能力で対処しきれる問題でない上に、世界の健康状況を揺るがす緊急事態をつくり出している。今回のG20はアフリカで初開催されるサミットであり、アフリカ連合(AU)が常任メンバーとして参加する2度目のサミットとなる。その意味でも、こうした行動を起こす、またとない機会だ。

「資金の解放」から始める

アフリカ諸国には、資金の使途に関する説明責任を確保するため、市民社会の関与を土台とする仕組みも欠かせない。しかし、まずは「資金を解放する」、つまり資金の利用を妨げてきた制限、制約、障害を取り除いて資金を自由に利用できるようにする必要がある。「健康のため、世界を一つに」という目標を達成するには、医療に資本を投じる手段をすべての国が利用できるようになる必要があるのだ。(翻訳:棚橋志行)

セラー・マッカ氏

「ワン・キャンペーン」のアフリカ事務局長

ローズマリー・ムブル氏

ケニアのNGO「ワキ・ヘルス」(WACI Health、旧「世界エイズキャンペーン」)事務局長

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