コラム:EUの「向こう見ずな」対米投資約束がはらむ危険性

 7月29日、向こう3年で欧州が6000億ドル(約89兆円)の対米投資をするというフォンデアライエン氏の漠然とした約束は、危険をはらんでいる。スコットランド・ターンベリーで27日撮影(2025年 ロイター/Evelyn Hockstein)

[ベルリン 29日  ロイター BREAKINGVIEWS] – トランプ米大統領は守るつもりもない約束を平気で連発する名人だ。欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長も、米国との関税合意で同じような約束をしてしまったように見える。だが向こう3年で欧州が6000億ドル(約89兆円)の対米投資をするというフォンデアライエン氏の漠然とした約束は、危険をはらんでいる。トランプ氏がEUは条件を履行しなかったと判断すれば、今回の合意を破棄する口実を与えてしまうだろう。

米国に輸入される大半の欧州製品に適用する関税率を15%にすることで決着したと双方が発表した翌日には、6000億ドルの対米投資を含めた多くの細かい部分で米国とEUの思惑の違いが早くも浮上した。ホワイトハウスは28日、EUによる大規模対米投資は、現在の投資額1000億ドルに「上乗せ」されるとの見解を表明。ところが欧州委は29日、域内企業が2029年までに米国にそれだけの規模の投資をすることにあくまで「関心を示した」だけだと説明し、既存の投資分とは別枠になるとは明言していない。

いずれの場合でも投資額は大きく膨らむ。米商務省経済分析局によると、昨年の英国を含めた欧州からの対米新規投資は約2050億ドルで、英国の530億ドルを除くEUからは1500億ドル近くだった。ホワイトハウスの見解に従うなら、欧州企業は28年まで毎年の投資額を現在の倍以上に増やさなければ、追加で6000億ドルに達しない。より穏当な欧州委の解釈でも、昨年水準から持続的に33%程度投資を拡大する必要がある。これは、EUが米国から7500億ドル相当のエネルギーを輸入するという約束と同じぐらい非現実的と言える。

Column chart showing FDI stocks in the USColumn chart showing FDI stocks in the US

現時点でどちらの約束にも拘束力はない。米国とEUの合意はまだ正式な文書に調印されていないからだ。複数のEU高官は、米国の「相互関税」交渉の事実上の期限となっている8月1日までに調印したい意向だが、その後も欧州委が域内の民間企業に投資をしろと指図することはできない。やはり5500億ドル規模のあいまいな対米投資を表明した日本とも異なり、EUは対米投資の支援や助成措置を講じるのも、それらが加盟国の権限である以上不可能だ。そもそも対米投資を促すのは、域内向け投資を奨励して生産性向上を図ろうというEUのこれまでの政策にも反する。

米国市場に魅力を感じるという理由から、今後数年で欧州の対米投資熱が一気に高まるかどうかも疑わしい。一連の関税措置は、フォルクスワーゲンやLVMHなどの米国での生産拡大を後押しするかもしれない。しかしこれらの企業は、サプライチェーン(供給網)に関する貿易障壁やトランプ氏の予測不能な政策、輸入物価上昇が米国の経済成長とインフレに及ぼす影響といった要素も考慮しなければならない。

トランプ氏自らがまとめた貿易合意が、有権者に約束した米国の経済的な繁栄をもたらすことができなければ、トランプ氏はEUとの取り決めを見直す口実を探そうとするかもしれない。その時フォンデアライエン氏は、達成できないと知りながら向こう見ずな約束をしたことを後悔するだろう。

●背景となるニュース *ホワイトハウスが28日公表した米国と欧州連合(EU)の貿易合意に関するファクトシートによると、EUはトランプ大統領の在任期間中に6000億ドルを投資すると約束した。ホワイトハウスは、この投資は既に欧州企業が毎年実行している1000億ドル余りの対米投資に「上乗せ」されるとの見解を示した。 もっと見る

*EUの通商担当閣僚に当たるシェフチョビッチ欧州委員は28日、6000億ドルは米国に向かうと「想定される」投資だと発言した。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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Pierre Briançon is a Breakingviews columnist, writing on European business and economics. He was previously a writer or editor at Barron’s, Politico, and Breakingviews for a first stint as Paris correspondent and European editor. For the first part of his career he was a foreign correspondent and editor at Libération, the French newspaper. He was also an economics columnist for Le Monde and for French public radio.