レッド・ホット・チリ・ペッパーズの時代の変化に対応したリズム・アプローチ 〜横川理彦のグルーヴ・アカデミー【第12回】

リズムに特徴のある名曲をピックアップし、そのリズム構造をDAWベースで分析/考察する連載「グルーヴ・アカデミー」。横川理彦が膨大な知識と定量的な分析手法に基づいて、説得力あふれる解説を展開。連動音源も含め、曲作りに携わるすべての人のヒントになることを願います。第12回はレッド・ホット・チリ・ペッパーズから、『バイ・ザ・ウェイ』収録の「キャント・ストップ」と、『ザ・ゲッタウェイ』 収録の「ダーク・ネセシティーズ」を分析します。

テキスト:横川理彦

『バイ・ザ・ウェイ』
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
(ワーナーミュージック・ジャパン)

『ザ・ゲッタウェイ』
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
(ワーナーミュージック・ジャパン)

プロデューサーはリック・ルービン

 昨年の来日公演の熱狂ぶりも記憶に新しいレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(以下RHCP)。たくさんのヒット曲を持つ中でも、「キャント・ストップ」は特に人気が高い1曲です。今回は、この曲の分析を通じてRHCPのノリに迫っていきましょう。

 「キャント・ストップ」はRHCPの8枚目のスタジオ・アルバム『バイ・ザ・ウェイ』(2002年)に収録。作曲のクレジットはメンバーの4人、プロデューサーはリック・ルービンです。アルバム全体は、ギターのジョン・フルシアンテの色が強く、初期のファンク/パンク色は薄れ、ギターとコーラスのフィーチャーされたポップな仕上がりとなっています。ドラムとベースのリズム・セクションは、もうすっかり出来上がっていて抜群の安定感。ボーカルのアンソニーの美声も、とても魅力的です。

一定した揺れ具合を保った演奏

 まず「キャント・ストップ」のオーディオ・データをDAWに読み込み、テンポ・マップを作ってみました(画面❶)。リズム隊(ドラムとベース)はクリックなしの一発録音のようで、テンポは♩=89.13に始まり、最後のサビでは♩=93.20までテンポ・アップします(と言っても、前回のローリング・ストーンズに比べればテンポの変化は少ないです)。

画面❶ 下段が「キャント・ストップ」のテンポ・マップ。曲の展開に合わせて階段状に上下しているのと、各パート内では一定しているのが分かる

画面❶ 下段が「キャント・ストップ」のテンポ・マップ。曲の展開に合わせて階段状に上下しているのと、各パート内では一定しているのが分かる

 興味深いのは、画面❶に見られるようにテンポの変化が階段状で、おおよそ曲中で次のパートに入るときにテンポ・アップ/ダウンする形になっていて、1つのパートの中ではテンポがとても安定しているのです。これはロックというよりも、ファンクやヒップホップ的なあり方と言えるかもしれません。

 画面❷は、Aメロでベースも加わり、4人の演奏が出そろったところの1小節です。ギター、ベース、ドラムをコピーするとAudio❶(4回繰り返し)のようになります。

画面❷ 「キャント・ストップ」の0:42辺りから1小節をコピーした画面。上から原曲、ドラムのオンリー・トラック、ドラム、ギター、ベースの各パートをコピーしたMIDIトラック

画面❷ 「キャント・ストップ」の0:42辺りから1小節をコピーした画面。上から原曲、ドラムのオンリー・トラック、ドラム、ギター、ベースの各パートをコピーしたMIDIトラック

Audio❶

 YouTubeに楽器別のオンリー・トラックがあり、それぞれ丁寧にタイミングを確認できます。ドラムとクリックで聴くとAudio❷のようです。

Audio❷

 特徴的なのは、ギターやベースと音域のかぶりがあるにしても、ハイハットがかなり小さく、音数も少ないこと。スネアとバスドラは典型的なロック・ドラムの迫力のある音色で、バスドラはフルパワーのものとゴーストノートのように軽いものが正確に踏み分けられていて、音色の精密なところにテクニックの高さがうかがえます。画面❸のようにデータを拡大してみると、遅れ気味のハイハットとバスドラに対して、オングリッドか少し前めのスネアの組み合わせでドラムのノリができていることが分かります。ベースはオングリッドで超タイト、ギターは少しだけ揺れています。

画面❸ ドラムのMIDIピアノロールを拡大したところ。バスドラ、ハイハットはおおむねグリッドから遅れ気味だが、黄色線で示したスネアはほぼグリッドか少し前に位置している

画面❸ ドラムのMIDIピアノロールを拡大したところ。バスドラ、ハイハットはおおむねグリッドから遅れ気味だが、黄色線で示したスネアはほぼグリッドか少し前に位置している

 ライブ演奏やドラムだけを実演してみせるYouTubeチャンネルのDrumeoでの演奏(下の動画)を見ると、チャド・スミスがハイハットをパワフルに8分音符でたたいており、録音時の工夫としてリック・ルービンが指示したのかもしれません。

 画面❹は、中間部のレゲエ部分のドラム(Audio❸)。ドラムだけシンプルな8ビートをキープしているのが面白いです。ここでも、バスドラとハイハットのわずかな遅れがグルーヴを作っています。

画面❹ 2:37辺りからのレゲエになる部分のドラム。シンプルな8ビートらしい演奏となっているが、やはりバスドラとハイハットがわずかに遅れることでグルーヴを生み出している

画面❹ 2:37辺りからのレゲエになる部分のドラム。シンプルな8ビートらしい演奏となっているが、やはりバスドラとハイハットがわずかに遅れることでグルーヴを生み出している

Audio❸

 画面❺(Audio❹)は、後半のAメロ繰り返しで盛り上がるパート。ドラムはハイハットとバスドラがやや遅れ、スネアはオングリッドと同じグルーヴです。1カ所だけハイハットが3連の位置(これも少しだけ遅れている)なのは、目立たないですがグルーヴの観点からはとても効果的です。

画面❺ 後半、ギター・ソロからAメロを繰り返すことで盛り上がりを演出。画面は3:53辺りからの1小節の3拍目にフォーカスしたところで、グリッド表示は3連に設定。すると、黄枠のように一部のハイハットが3連に沿ったグリッドに位置しているのが分かる

画面❺ 後半、ギター・ソロからAメロを繰り返すことで盛り上がりを演出。画面は3:53辺りからの1小節の3拍目にフォーカスしたところで、グリッド表示は3連に設定。すると、黄枠のように一部のハイハットが3連に沿ったグリッドに位置しているのが分かる

Audio❹

 実際に分析してみると、ライブ演奏の印象が強いため、もっと粗い演奏を予想していたのですが、ドラムもベースも音色のテンションはとても高いものの(強くたたいている)、演奏のタイミングは揺れ具合が一定で、よくコントロールされて安定性が高いです。また、ベース、ギター、スネアが同じ周波数帯域でぶつかり合ってダンゴ状態なのも素晴らしく、そこにボーカルが堂々と(音圧的に)渡り合っているのもすごい。リック・ルービンならではのスケールの大きさで、アーティストを生かしたプロデュースも見事です。

10年以上を経たRHCP

 RHCPは2016年の「ダーク・ネセシティーズ」(アルバム『ザ・ゲッタウェイ』収録)でもビルボード・チャートで1位となり、健在ぶりを見せつけました。プロデューサーが若手のデンジャー・マウスに代わり、サウンドのニュアンスも変わったように感じたので、さらにドラムを分析してみました。

 ギタリストがジョシュ・クリングホッファーであること、ピアノやストリングスが加わっていることなどもありますが、「キャント・ストップ」との根本的な違いは、クリックを使って曲が一定のテンポで演奏されているところです。計測してみるとテンポは最初から最後まで♩=91.94。ドラム・オンリーのトラックも参照してみると、ドラムをたたいていないところでクリックの“コ、コ、コ、コ”という音が漏れて聴こえます。画面❻は、イントロでこの曲の基本パターンが示されたところの拡大表示。

画面❻ 「ダーク・ネセシティーズ」の0:42辺りから、楽曲の基本となるリズム・パターンが現れた部分のドラムをコピーしたピアノロール画面。ハイハットが1拍のうち、前半部分(黄枠)はほぼグリッド位置に、後半部分(赤枠)は遅れていて、これが絶妙なスウィング感を生んでいる

画面❻ 「ダーク・ネセシティーズ」の0:42辺りから、楽曲の基本となるリズム・パターンが現れた部分のドラムをコピーしたピアノロール画面。ハイハットが1拍のうち、前半部分(黄枠)はほぼグリッド位置に、後半部分(赤枠)は遅れていて、これが絶妙なスウィング感を生んでいる

 スネア(およびハンド・クラップ)が2拍目だけ(普通は2・4拍に入る)という面白いパターンで、この曲ではサビ以外のドラム・パターンはこれだけです。スネアに遅れてクラップが入る、というのは定番ですが、興味深いのはハイハット。16分音符のハイハットがリズムの推進役になっていて、1拍に4つあるハイハットの、前2つはほぼオングリッド、後ろ2つが同じくらいグリッドの後ろにあって、2つペア、すなわち8分音符単位で軽くスウィング(シャッフル)しているのです。この効果は絶大で、Audio❺のように本当に気持ちの良いスウィング感が得られます。もちろん、ベロシティ(たたく強さ)やハーフ・オープン(ハイハットの踏み具合を少しだけ緩める)も重要で、チャド・スミスの演奏はとても繊細で美しいです。

Audio❺

 また、ドラムの音作りもリック・ルービンとは大きく異なっていて、スネアは軽くたたかれ、バスドラは低音寄りのヒップホップに近い音色で、フリーのベースよりもかなり下の帯域にいます。こういった変化は、プロデューサーのデンジャー・マウスの意図でしょうが、チャドもほかのメンバーも見事に応えて、RHCPの個性が明確なままで時代の変化に対応しているのです。

横川理彦

横川理彦
1982年にデビュー後、4-DやP-MODEL、After Dinnerなどに参加。主宰するレーベルCycleからのリリースや即興演奏、演劇やダンスのための音楽制作など幅広く活動する。

関連記事