千歳市で建設が進むラピダスの巨大工場。製造を目指すのが、世界最先端の半導体。生成AIや自動運転技術など、今後の日本経済の鍵を握るとされ、国も全面支援する“国家プロジェクト”だ。企業は「千載一遇のチャンス」と次々と進出。道内の経済効果は最大で18兆円を超えるとの試算も。ラピダス進出によって、北海道は何が変わるのか。

第2回目は、工場の立ち上げなどを指揮する、ラピダスの清水敦男専務。ラピダス進出は、北海道に何をもたらすのか、キーパーソンが語った。

 

ラピダス 代表取締役 清水敦男専務
富士通などを経て、ラピダスへ。現在は、「オペレーション本部長」として工場立ち上げに向けた指揮を執る傍ら、道内で開かれる多くの講演会に登壇するなど、地元向けの説明を精力的に行っている。

―まず、ここまでの工場建設の進捗はいかがでしょうか。

この工場の整備は2023年9月1日に起工式をやって、 いまはまだ9か月くらいです。 当初のスケジュール通り、非常に順調に進んでいると思います。

―道内の自治体や企業の関係者と、話をされる機会も多いかと思います。やり取りされているなかで、道内のラピダスへの期待感をどう感じていますか。

注目され、期待されていると、ひしひしと感じます。時代の最先端の開発をこの規模でやるというのは、日本の中においては久しくありませんでした。ラピダスが今までの北海道を大きく変えると皆さんが感じていると非常に実感しています。ですが、ラピダスは北海道をよくするための会社ではありません。あくまで、日本で最先端のロジック半導体の開発機能と生産機能をしっかりと持つことが目標の会社です。それを実現するための過程のなかで、きっと北海道には大きな変化が生まれると思います。確実なのは、たくさん人が来るということ。やってきた多くの人が北海道に魅力を感じて「行ってみよう」「事業を展開しよう」と思うかもしれない。北海道が発展していくきっかけとしてラピダスをうまく使っていただきたいなと思います。

―なぜ北海道に立地したのでしょうか?

広大な土地があるのが大きな理由の1つです。あとは、再生可能エネルギーのポテンシャルが非常に高いところでもあり、水も豊富であることが立地の条件です。そして、こうした事業をやるときには日本中だけではなくて、世界中から人が集まって事業をどんどん発展させていくわけで、「ここに来たい」と思えることがとても重要です。北海道はまさに行きたいと思える場所です。

―うまくいけば第2棟、第3棟の工場を建てる考えはあるのでしょうか?

我々が今作っている第1棟だけでビジネスをずっとやり続けるとは考えていません。第2棟、うまくいけばさらにその次ということも考えています。 「土地が足りない」とほとんど悩まなくていいほど、広大な土地が北海道にはあります。


工事は異例のスピードで進む 来年4月に試作ライン稼働の予定

―北海道で工場を稼働させるうえでの課題はあるのでしょうか?

本州との違いは、生産材料の輸送の問題です。半導体の製造では、電気・水を使うのはもちろんのこと、生産材料として薬品を含め、さまざまな材料を使います。最先端の半導体を作るのであれば、それに見合った超高純度なものを使う必要がありますが、道内で製造している工場はほとんどないわけです。そのため、基本的には本州から輸送しないといけません。そういった点が本州で工場を稼働させるのとは違った工夫が必要ですが、これは最初から分かっていた課題の1つです。最終的には我々の事業が大きくなったときに、生産材料の製造工場そのものが道内にできてくれればいいと思っています。

―今後の企業の集積に期待したいところでしょうか?

さまざまな材料を作る工場に道内に立地して欲しいと思っていますが、経済的なことを無視して立地する企業は当然ありません。その方々が北海道に新しい工場を作って、 しっかり経済的に回していけるぐらいの需要を我々がビジネスを大きくして確保しないと、なかなか難しいと考えています。企業に来てもらうためにも、まず我々がこの事業を成功させる必要があります。企業のなかには我々が使う量によっては立地を考えたいとおっしゃってくださる方々もいます。鶏と卵の話なのかもしれませんが、材料を製造する工場が近くにあることによって、コスト的に有利になり、我々の事業もより発展しやすくなりますが、一方で、皆さんはどれだけの需要があるのかを最初に気にします。新たに製造工場を作り、生産ラインを整備するには非常に大きな投資が必要なので、なかなかすぐにはできません。我々は2027年に量産開始を予定していますが、さらにその先、どれだけの材料が必要になるのか、いまはまだ言えない状況です。今後のビジネスの姿をはっきり示せるようになれば、議論や検討は進むと思います。まずはここでしっかり2ナノメートル世代の半導体が量産できることを世界に対して示して、話はそれからかなと考えています。


清水専務は地元との連携や説明のため道内を飛び回る

―ここまでは「道内に新たに立地する企業」の話でしたが、「すでに道内に拠点を持つ企業」についてはいかがでしょうか? 

これから工場に製造装置をたくさん入れますが、非常に高価で高性能なもので、装置そのものを作れるのは世界中でも非常に限られた会社だけです。道内企業がすぐに装置を作れるかというと、それは無理だと思います。ただ、認定などで時間はかかると思いますが、装置のパーツを供給する可能性はあります。我々としても輸送のことを考えれば近くに製造拠点ができたほうがいいですが、クオリティに問題がないのかどうかは、我々自身で評価をしないといけない。しっかりと時間をかけないと正しい判断はできません。

―量産化に向けてはたくさんのエンジニアが必要になってくると思います。人材確保の動きについて、道内・道外を問わずどのようにご覧になっていますか?

高度半導体人材の育成は、北海道だけではなくて、日本のさまざまなところでアカデミアを中心に進められています。学生のときからデバイスの設計をできる、非常に専門性のある学生の育成が進められていますが、製造拠点に関しては半導体のことを勉強した人でなければ活躍できないかというと、実は全くそんなことはありません。実際、私も半導体のことは大学でまったく勉強したことはありませんでした。物理や化学、数学。それに当然、電気関係、機械系、あとは情報処理など、半導体の製造拠点を運営していくうえでは、さまざまな知識が必要となります。そのため、道内の高専や大学で学んできた、とにかく理工系の方々であれば我々は誰でも欲しい。スペシャルな教育を受けた人だけが必要なわけではありません。

―とはいえ、半導体業界に進む学生は依然として限定的ではないでしょうか?

ここ数十年、半導体業界が就職先として、あまり人気がなくなってきています。それは、企業である我々が学生に明るい未来を示せていないからだと思います。ラピダスに入ったら新しいことにチャレンジできるんだなと、世界のトップの連中と競争できるんだなとか、そうした魅力を示していく必要がある。理工系の人間をことさらたくさん増やす前に、まず企業である我々は、学生にこんな未来があると、あなたの将来の選択肢にうちを選んでくれと、そういうことを示す必要があります。現在は、中途採用がほとんどで、年齢が高い人がほとんどです。その人たちは、かつてエンジニアとしてこの業界で仕事をしていて、「もう一回ここで頑張りたい」と思っている人たち。すごくポジティブな感覚を持ってたくさん入社しています。ただ、事業を10年、20年やっていくためには、若い人たちを入れていかなければなりません。若い人たちをいかにラピダスに入れるのか、どうやってラピダスを選んでもらうのかが、これからの課題かなと思っています。

―半導体工場では大量の水や電気を消費します。このあたりの準備はいかがでしょうか?

電気についてはどの程度の需要を見込んでいるのかは北海道電力に伝えています。北海道電力もそれに見合う量を供給すると言っているのでまったく心配していません。水についても、北海道庁からしっかりと供給できるという計画を聞いています。それにラピダスでは前工程で使った水を工場のなかで再利用しながら使うことにしています。この再利用できる割合をどんどん高めていけば、今後2棟目の工場ができたときも、水の使用量を2倍にすることなくやっていけると考えています。

―大規模な工場ができることで、排水など周辺環境への影響を懸念する声も一部で上がっています。

事業をやる上で、環境基準などにかかわる法令遵守は当然です。ただ、法律を守るだけでいいとは思っていません。法律で決まっている基準は時とともにどんどん変わっていくわけです。我々としては、その時々で環境に対して最も負荷が少ない工場運営を実際に投資しながらやっていきます。「法律を守っています」で終わるとは思っていません。企業としてできるところは常に頑張ってやっていって、理解していただく努力も同時に進めていきます。

―建設工事が進み、大量の人員が投入されるなかで道内の経済界からは人手が取られることや人件費が押し上げられることへの不安の声もまたあります。

そこは我々ではどうしようもないところがあります。というのも、この事業は国からの大きな支援で成り立っていて、約束した目標をしっかり達成するのがなんとしてもやらなきゃいけないことだと思っています。そうした声は耳に入ってはいますが、道内経済にプラスになるようにと、できるだけ地元の方々に工事をお願いしたいという話もあったわけです。ただ、一方で他のところでやっていた人員が取られてしまう側面もある。そういう声を理解した上で、できることとできないことをはっきり考えながら、やれる限りのことを頑張っていきます。

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