鳥取県の境港市民に長く愛され、2年前に惜しまれつつ姿を消した菓子パン「ブドーパン」が今春、ファンの力で復活した。約70年にわたって作り続けた市内の製パン会社「伯雲軒」は閉業したが、4代目社長だった山本敏則さん(67)の協力もあり、爽やかでほんのりと甘い、港町の「ソウルフード」が帰って来た。(東大貴)復活したブドーパン復活したブドーパン 伯雲軒は1897年創業の老舗。ブドーパンは、ラム酒入りのクリームと、干しブドウやシナモンを練り込んだ香り高い生地が特長で、3代目社長だった父・昭二さんが戦後まもなく商品化した。市出身の漫画家・水木しげるさんも好んで食べた逸品だ。山本さんは親しまれた理由を「多くの市民が幼稚園でおやつとして食べたからではないか」と推測。自身も子どもの頃に食べ慣れ、京都市の老舗パン屋での修業を経て帰郷後、技術や知識を生かして細部を調整し、「ベストな状態に仕上げた」自慢の品だ。

 優しい味が世代を超えて愛されたが、近年は市内に大型スーパーの出店が進み、個人商店は軒並み売り上げを減らしていた。山本さんは通販事業に乗り出して軌道に乗せたが、2020年にコロナ禍が直撃。後継者の不在もあって22年3月に閉業を余儀なくされた。
 「レシピを使って商売させてほしい」といった要望が県内外の企業から寄せられたが、味がうまく再現できないことを懸念して断ってきた。そうした中、ブドーパンの大ファンで米子市の菓子製造「八雲ことぶきフーズ」(夜見町)の工場長・黒木
克翁(かつおう)
さん(37)が「もう一度食べたい。何とか復活させてほしい」と打診。「閉業と聞き、20個ほど買って冷凍保存した」ほどの熱意が山本さんに響き、23年1月から復活に向けて動き出した。
ブドーパンを復活させた黒木さん(右)と山本さん=八雲ことぶきフーズ提供ブドーパンを復活させた黒木さん(右)と山本さん=八雲ことぶきフーズ提供 最初、伯雲軒のレシピのまま製造委託先の工場でパンを焼いたが、「イメージと違う味にびっくりした」(黒木さん)と、理想の味はすんなりと再現できなかった。製造機械や作り手など環境の違いは生地の発酵や質感に大きく影響する。材料や分量は変えずに手順を工夫して、1年間で約1000個を試作したという。
 完成したパンは、水木しげるロード近くの八雲ことぶきフーズのアンテナショップ「
MO(モ)GU(グ)
」(境港市中町)で毎週土曜、個数限定(1個税込み250円)で販売する。4日は店頭に100個が並び、近くのパート従業員の女性(67)は「幼稚園からの懐かしい味で、弾力ある生地もしっかり再現されている」と買い求めた。
 売れ行きは好調で、山本さんは「みなさんが再びパンを手に取ってくれて震えるほどうれしい」と喜ぶ。黒木さんは「まちの名物が消えてしまうのはあまりに悲しかった。県内外の人に喜んでもらえるよう、増産にも努めたい」と話している。

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