『小さきのもの近代 2』『小さきのもの近代 2』 2022年に92歳で亡くなった熊本市の思想史家、渡辺京二さんの未完の絶筆となる『小さきものの近代 2』(弦書房)が刊行された。日本の近代を、欧米諸国と並ぶ国民国家を樹立したという史観からではなく、この時代を生きた一人ひとりにとっての明治維新や近代を描き出そうとした。

 広く集めた日記類や書簡集などを分析し、幕末から大逆事件(1910年)までを目指し、地元紙に連載。1巻が22年に出版された。
 今回刊行された2巻では、農民、町人の立場で尊皇
攘夷(じょうい)
運動に参加した「
草莽(そうもう)
」と呼ばれた人たちや、明治初期に放火の暴動を起こした農民、維新の立役者でありながら西南戦争(1877年)で敗れた西郷隆盛らに目を向けている。
渡辺さんの自宅の机。亡くなる前日まで執筆していた渡辺さんの自宅の机。亡くなる前日まで執筆していた 老衰で亡くなる直前に書かれた章は、大正期のある小説家で農村研究者の体験を紹介している。 彼は村人たちに唾を吐きかけられている「女乞食」をかばう。立派なことをしたつもりだったが、後日、彼女から「誰もいたずらをしなくなったが、物もくれなくなった」と非難される。彼女は差別的な扱いを受けることで、村に生きる場所を得ていたのだ。渡辺はこの逸話を通じ、近代的な人権意識では測れない、農村の共同体意識を浮き彫りにする。
 長女の山田梨佐さん(65)は、「父は近代という激動の歴史に
翻弄(ほんろう)
された人間を『小さきもの』と呼んで心を寄せていた。そこには自身をも投影していたように思う」と話している。

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