2002年に車同士の衝突事故で長男(当時5歳)を失った母親(49)が、16年ぶりに人前で当時の体験を語り始めた。事故に関する母親の手記を基にした紙芝居が昨春に完成したことに背中を押された。長男はチャイルドシートを着用せず、車外に投げ出されて死亡し、母親は今も悔やむ。13日には滋賀県内で交通安全行事に登壇し、「親が助けられる命がある」と着用の大切さを訴える。(大津支局 林華代)晃希ちゃんが亡くなった事故を描いた紙芝居を手にする交通安全指導員の茶野さん(右)と黒川巡査部長(滋賀県東近江市で)晃希ちゃんが亡くなった事故を描いた紙芝居を手にする交通安全指導員の茶野さん(右)と黒川巡査部長(滋賀県東近江市で) 事故は02年8月2日夕、岐阜県大垣市で起きた。母親が運転する軽乗用車が交差点で別の車と出合い頭に衝突し、弾みで民家に突っ込んだ。後部座席の長男、晃希ちゃんと次男(当時3歳)が折れたドアの隙間から外に投げ出され、晃希ちゃんは頭を強く打って死亡。次男は重傷を負った。

 車にはチャイルドシートを載せていなかった。00年4月の法改正で義務化されていたが、重要性をわかっていなかった。「今日、なにするん?」と無邪気に尋ね、ちょこんと座っていた晃希ちゃん。眠っている弟にそっと毛布をかけていた。その姿を思い出す度、胸をえぐられる思いがした。 事故当時は岐阜県内に住んでいたが、数か月前までは滋賀県東近江市に居住していた。晃希ちゃんが通い、大勢の友だちがいた市内の保育園に、晃希ちゃんの名前を刻んだ遊具を寄贈し、手記を園長に託した。大勢の保護者らの前で体験を語る機会も何度かあった。だが、「息子を死なせてしまった」との罪悪感に加え、子育てなど生きていくことに精いっぱいで、07年を最後に人前で語るのをやめた。 ちょうどその頃、同じ保育園に子どもを通わせていた同市交通安全指導員の茶野博子さん(53)は母親の手記を読み、「思いを伝えなければ」と感じていた。22年になって母親に会い、「事故から20年を迎えたのを機に手記を基に紙芝居を作りたい」と持ちかけた。 母親は「晃希に『前に進んで』と言われた気がした」と承諾した。茶野さんが台本を執筆し、イラストが得意な県警東近江署の黒川和弥巡査部長(48)が絵を描いて地元の中高生らが色づけした。事故の状況やチャイルドシートの重要性を説いた14枚の紙芝居が23年3月に完成。交通安全の啓発活動などで活用されてきた。 昨年12月、母親は同市で開かれた地域の交通安全推進大会に招かれ、事故の体験や命の重さなどを語った。こうした場に立つのは、保育園の保護者に語って以来、16年ぶりだった。茶野さんは紙芝居を披露した。 「あなたの意志は伝わった。僕にもできることを考えている」。大会に参加した男性から声を掛けられた母親は手応えを感じた。 13日には滋賀県庁で交通安全指導員らに語り、紙芝居も披露される。母親は「私は加害者で被害者は自分の子ども。それを忘れたことはない」と言う。それでも「自分の体験で子どもの命を守ることができたら」と願う。 紙芝居ではこう訴える。 〈大切な大切な我が子との別れの危険は、いつも誰のそばにあることをわかってください。泣いても、ぐずってもシートベルト一つで助かる命があります〉未着用なら致死率4.2倍 2000年の道路交通法改正で、チャイルドシートを使用しない6歳未満の幼児を乗せて運転してはならないと定められた。違反した場合、交通違反の点数が1点引かれる。 JAF(日本自動車連盟)と警察庁の23年の共同調査では、6歳未満のチャイルドシート使用率は過去最高となったものの76%にとどまった。使用の場合も、38%でシートが正しく取り付けられていなかった。 警察庁によると、2019~23年の自動車事故で、チャイルドシートを使っていなかった場合の致死率は、正しく着用していた場合の約4・2倍にのぼった。警察庁はホームページで正しい使い方を紹介し、着用を呼びかけている。

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