天敵不在空間巡る競争評・岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)
◇おおさき・なおた=1947年生まれ。山形大教授などを歴任。専門は昆虫生態学。著書に『擬態の進化』など。 タイトルが長い。表紙だけで内容はほぼ察しがついてしまう。書名だけで手に取る人と取らない人にパーンと分かれるだろうか。
『未解決殺人クラブ 市民探偵たちの執念と正義の実録集』ニコラ・ストウ著
評者はもちろん前者の部類、もっとも動機は昆虫が好きなだけにすぎなかった。ところが
繙(ひもと)
いてみると、ヒトの肖像の連続と重層的な論旨にやや驚いている。悪口ではない。いろんな読み方ができる点、表題とは別の文脈でオススメできそうだ。
さしあたってタイトルどおり、論旨が展開する。生物生息の場が「どう決まるか」という命題に対し、いわゆる「ニッチ」が「天敵不在空間」だという通説をひとまずの回答とした。
周知のダーウィンの進化論・自然
淘汰(とうた)
説ができあがる当時以来の学説を跡づけたうえで、「種」どうしの「競争」という視座から、「競争は存在しない」という学説の形成を解説してみせる。事情の通じない読者にも「ニッチ」ワールドが堪能できた。
しかしそれだけで、話はおわらない。次いでそうした通説に反する持論を説きはじめ、別の競争「繁殖干渉」の存在を指摘する。競争のない「天敵不在空間」を争うもので、「競争はやっぱり存在した」。別の「種」のオスが誤って繁殖活動をくわえた結果、「種」が排除される「繁殖干渉」で、「ニッチ」をめぐる競争が発生する、というのが著者の所説である。本書の後半はそれをくわしく説いて、「どう決まるか」に重層的な答えを引き出した。 「居場所」「ニッチ」は見つけなければ、見つからない。本書は「ニッチ」を求める「生き物」の物語であると同時に、それを見つめたヒト・研究者の物語でもある。 どんな学説も「研究史の中で、大きな流れの渦の中に漂う小舟」にすぎない。著者の営為と「小さな達成感」に、研究者として共感を禁じ得なかった。「生き物」以上に人間のドラマとしても読みたい一書である。(中公新書、1155円)
読書委員プロフィル
岡本隆司(
おかもと・たかし
)
1965年生まれ。歴史学者・早稲田大教授(京都府立大学名誉教授)。専門は中国近代史、東アジア国際関係史。『属国と自主のあいだ』でサントリー学芸賞、『中国の誕生』でアジア・太平洋賞特別賞などを受賞。
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