国際的犯罪グループ関与か
昨年5月、県警が統計を取り始めた1990年以来、県内で初めて覚醒剤の密造事件が摘発された。3月に地裁であった裁判員裁判では、国際的な犯罪グループが絡む事件の構図が浮かび上がってきた。背景には何があったのか。(脊尾直哉、黒岩美緒)
■台湾人の男4回来日 3月25日、地裁41号法廷。「多数の共犯者・関係者が組織的に関与した、悪質な犯行といえる」。渡辺一昭裁判長は、覚醒剤取締法違反(営利目的製造)に問われた台湾人の男(43)に対し、懲役7年、罰金250万円の判決を言い渡した。男はうつむいたまま、かすかにうなずいた。 判決などでは、男は昨年5月、元暴力団幹部(74)らと共謀し、松山市内の空き家で覚醒剤約100グラムを製造した。 台湾人の男は2022~23年、計4回来日して約130日間滞在。現場で密造を繰り返したとされるが、薬学や化学の専門知識があったわけではない。しかし、公判では「覚醒剤を作るのはケーキを作るようなもの。原料の比率と手順、熱を加える時間がわかれば誰でもできる」と述べた。 1度の来日で最低でも報酬約2万台湾ドル(約9・5万円)が約束され、旅費と食費は犯罪グループが負担したという。男は「アルバイト感覚」で製造方法を教わり、帰国時には図書館で化学の教科書や論文を読んで“研究”したとされる。 日本語が堪能な台湾人で、指示役の「ジロー」に「もうやめたい」と伝えたこともあったが、「覚醒剤を作れなかったら帰国できない」「周りはみんな黒社会の人間」などと脅されて足を洗えなかったという。県警に現行犯逮捕された昨年5月30日、テーブルの上には白い結晶が残されていた。■巨額の利益狙いか 台湾から愛媛に来てまで男が覚醒剤の製造に関わったのはなぜか。 検察側は公判で、日本人グループと台湾マフィアによる組織的犯行だと指摘した。22年9月頃、元暴力団幹部らが巨額の利益を狙って企てたとする。 捜査報告書によると、「ジロー」は元暴力団幹部と手を組み、製造担当の男の来日を画策したとされる。並行して日本人側は、覚醒剤原料であるエフェドリン系の成分を含むアレルギー薬「プソフェキ配合錠」20万錠を2回に分けて発注。県内の廃校にバケツや、塩酸などの薬品を持ち込んで製造していたが、校舎の管理業者に見つかり、場所を変えることに。事件が発覚した空き家に拠点を移したという。■社会への悪影響 検察側は覚醒剤の害悪性について、「覚醒剤は暴力団の資金源となり、使用すれば幻覚や妄想で新たな犯罪を助長する」と主張した。警察庁によると、23年に覚醒剤事案で検挙されたのは全国で5914人。再犯者率は66・2%で、中毒性の強さがうかがえる。 今回押収された覚醒剤約100グラムは、1000~3000回分もの使用量に相当し、末端価格は638万円。これ以外にも密造グループは覚醒剤を製造し、元暴力団幹部らが回収したとみられる。台湾人の男は「社会に拡散してしまった可能性がある。日本の社会に悪循環をもたらし、申し訳ない」と反省の弁を述べた。 今後、共犯者とされる人物たちの公判が続く。事件の全容解明が待たれる。アレルギー薬から抽出 台湾人の男らは、アレルギー薬に含まれる微量のエフェドリン系の成分を抽出し、覚醒剤を製造した。検察側は公判で「アレルギー薬はエフェドリンの含有率が低く、厳格な法規制はない。法の網の目をくぐり抜けた犯行と言える」と説明した。 厚生労働省はエフェドリンを「乱用のおそれがある薬」に指定している。しかし、覚醒剤取締法での規制対象は「エフェドリン及びその塩類を10%を超えて含有する医薬品」で、市販のアレルギー薬は該当しない。 医薬品医療機器法では、市販薬の販売は原則1人1箱(瓶)ずつとしている。それ以上を売る場合は、購入者に用途などを尋ねるよう求めている。 岐阜薬科大の佐治木弘尚副学長(医薬品化学)は「大量の錠剤から微量のエフェドリンを抽出し覚醒剤を製造するには、とてつもない労力が要る。20万錠を入手できる経路や資金も含め、今回の製造方法は常識から外れている印象」と話す。「手間がかかっても、利益が見込めたり、手に入れたいと思う乱用者がいたりすることが薬物の恐ろしさだ」と指摘した。
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