米発祥 スタンダップ 日本でウケる? 2023年8月、一時帰国してステージに立つサク・ヤナガワ(東京・丸の内の「コットンクラブ」で)=武藤要撮影2023年8月、一時帰国してステージに立つサク・ヤナガワ(東京・丸の内の「コットンクラブ」で)=武藤要撮影 米・ミシガン湖に臨む大都市シカゴのコメディー専用劇場。スタンダップコメディアンのサク・ヤナガワ(31)(本名・柳川朔)は、スーツ姿でステージに立つ。「最近、アメリカナイズドされすぎて、傷つきやすくなってさ」と、人種を絡めたストーリー仕立ての「ジョーク」を切り出す。

笑ってなんぼ<8>厳しい師匠もう古い? 

 クリスマスの日、スターバックスで友だちを待っていた時のこと。ある客が、雪が降るホワイトクリスマスでないことを嘆いていた。「だから僕は『おい、ちょっと。クリスマスはみんなのものだろ』って言ったんだ。不公平だよね。ホワイトクリスマスもブラックフライデーもあるのに、アジア人の休日はないなんて」
 ヤナガワによると、ここ数年披露しているネタ。「傷ついた」アジア人が被害者意識を振りかざす姿を通して、言いがかりのようなクレームが増えた米国社会を
揶揄(やゆ)
している。
◇ スタンダップコメディーとは、1人で観客の前に立ち、語りかける米国発祥の話芸だ。時には論争を引き起こす話題をあえて取り上げ、皮肉や風刺、自虐で笑いを誘う。政治や宗教がネタになることも多い。 奈良県出身のヤナガワは、大阪大の1年生だった冬、ニューヨークで活躍する日本人コメディアンの姿をテレビで見た。言葉も文化的背景も違う人々を、マイク一本で笑わせる。「これや」と思った。2014年に米国で初めてステージに立ち、今では年間400回前後のショーに出演する。 スタンダップの定義は一様ではないが、ヤナガワは「自分の視点で、意見の異なる人たちを笑わせられる芸」と考えている。演者の思想や経験、アイデンティティーを観客にさらし、問いかける点で漫談と異なる。「多くの人種や民族がともに暮らすアメリカでは、価値観の相違でぶつかりやすいからこそ、社会に横たわる現実を語るジョークが必要。共和党、民主党の支持者が一緒に笑えば、一瞬だけでも分断がなくなる」と話す。◇ 米国でも近年、センシティブな問題に触れることは大きなリスクを伴う。特定の言動を指弾し、表舞台から退かせる「キャンセルカルチャー」の波が広がる。10年近く前のLGBTQ(性的少数者)を巡る発言が非難され、大役を降りたコメディアンもいる。 だからこそ、ヤナガワは観客に受け入れられる「ギリギリの一線」を探り、神経を研ぎ澄ます。以前は、目が細いといった身体的特徴を自虐ネタにしていたが、「ステレオタイプなアジア人像を助長する」と考えてやめた。 日本でも、国籍や性的指向など個々の違いを認め合う機運が高まっている。他者を受け入れる過程では、今までにない摩擦も起こりうる。ヤナガワは言う。「日本という国が本当に多様性を重んじるなら、スタンダップは人々に求められるはず。アメリカがそうであるように」(布施勇如)お笑いで実績あげ転身 ぜんじろう=本人提供ぜんじろう=本人提供 日本でも、お笑いの他分野で実績を上げ、スタンダップに転じた芸人がいる。 1990年代にバラエティー番組で活躍したぜんじろう(56)はその後、スタンダップコメディアンとして国内外でライブを行ってきた。 大阪のステージでは「日本維新の会」の政策を皮肉ることもある。風刺とは本来、権力をもたない側が、もつ側を批評するための笑いだと言う。 「僕が維新をいじるのは、好き嫌いの問題ではなく、維新が大阪で強いから」。弱い者いじめはしない。師匠で昨年亡くなった上岡龍太郎の「長いものには巻かれるな。大樹の陰には寄りつくな」という言葉を胸に刻む。村本大輔村本大輔 お笑いコンビ・ウーマンラッシュアワーの村本大輔(43)は今年2月、年来の望みだった米・ニューヨークへの移住を果たした。日本では、原発や沖縄の基地問題など議論の分かれる話題を扱ってきた。「スタンダップの本場に身を置き、自分をアップデートしたい」というのが渡米の理由だ。 飛び入りで出演したショーでのこと。イスラエルとパレスチナの問題をネタにした他の演者が、客とけんかになった。それを目の当たりにして、「やっぱり、オピニオンをはっきり言うのがスタンダップなんだな」と実感したと語る。

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