正月の風物詩とも言われ、今年1月の大会で100回目を迎えた箱根駅伝。タスキをつなぐ選手たちは、熱闘を伝えるテレビ局のスタッフは、どんな思いを抱いているのか。伝説のレースに向き合った小説『俺たちの箱根駅伝』(上下、文芸春秋)が24日、発売される。作者の池井戸潤さんは、「本にする作業の後、半月も体調が悪くなるくらい大変で、今までで一番難しかったかもしれない」と振り返る。(文化部 佐藤憲一)現実とフィクション 線引き悩み10年池井戸潤さん。「箱根駅伝の選手たちの高校野球のような純粋さもいい」=池谷美帆撮影池井戸潤さん。「箱根駅伝の選手たちの高校野球のような純粋さもいい」=池谷美帆撮影 箱根駅伝は1987年から日本テレビが生中継し、高視聴率で人気を高めてきた。池井戸さんが創作を思い立ったのは、往復200キロ・メートルを超す東京・大手町と神奈川・箱根間のレースを生放送する道筋をつけた、当時のテレビ局員の挑戦を知ったのがきっかけという。

 企画を通すため、まず全国高校サッカー選手権の中継で実績を上げたり、箱根山中からの駅伝中継を実現させるためアンテナを立てたり。初代のプロデューサーらに話を聞き、「サラリーマンとしてすごいチャレンジだと思った」。コースの視察なども進めたが、現実のレースとフィクションの線引きに悩み、小説化に10年ほどかかったという。 明誠学院大4年の隼斗は、箱根駅伝出場校を決める予選会で苦戦し、チームは本選出場を逃してしまう。彼の陸上人生は一度も箱根を走ることなく終わるはずだったが……。一方、大日テレビのチーフ・プロデューサー、徳重は、先輩たちが築き守ってきた箱根駅伝の硬派な中継スタンスを変えるよう横やりを入れられる。挫折から復活を期す選手たちと、「青春そのもの」のレースの感動を届けようと心血を注ぐテレビマン。二つの視点で物語は進む。
 池井戸さんはプロットを
緻密(ちみつ)
に決めず、執筆しながら考えてゆく。下巻の大半は本選のレースと中継に割かれるが、10区間それぞれに、「箱根駅伝へのリスペクト(尊敬)を大事にしながら、人間を掘り下げドラマにしてゆく」のは困難を極めたという。
 箱根駅伝の魅力は、「関東の大学の大会でも実質的に全国区で、『花の2区』を誰が制するのか、山登りの5区で新たな『山の神』の伝説が生まれるのかなど、単純な勝敗だけじゃないいろんなドラマがあること」。ストーリーテラーの手腕が、多彩な魅力が濃縮された物語を可能にした。「もっと新しいもの書く必要」 デビューから26年。「半沢直樹」「下町ロケット」シリーズなどを生みだし、映像化が相次ぐ。テレビドラマ「花咲舞が黙ってない」も、本紙連載の同名原作を元に9年ぶりの新シリーズが日本テレビ系列で放送中だ。人気作を書き継ぐ一方で、「自分の可能性を閉じないように、もっと新しいものを書いてゆく必要がある。『俺たちの箱根駅伝』もそうです」と語る。 昨年の『シャイロックの子供たち』の映画化では別名義で作者自ら脚本を担当した。正体は秘密にしていたが、先月、日本アカデミー賞の優秀脚本賞に選ばれ、授賞式で主演の阿部サダヲさんに「ばらされてしまった」と苦笑する。 米アカデミー賞視覚効果賞に輝いた山崎貴監督の「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」など、日本映画にも関心を持っている。脚本に本格的に手を広げる可能性は? 「日本のエンターテインメントはもっと上を目指せるはず。仕事を整理しないと分からないが、何か貢献できるかもと、ちょっとは思っています」

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