評・尾崎世界観(ミュージシャン・作家)

 現役介護福祉士が
綴(つづ)
る、認知症を患う高齢者との職場での日々は、触れ合いと呼ぶにはあまりに激しい。それにも
拘(かか)
わらず面白く読めてしまうのは、あくまでそれらが「仕事」として行われているからだろう。

『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』香山リカ著

 自分が仕事を好きな理由は、仕事相手とのコミュニケーションが心地良いから。これは仕事だからと割り切れる関係にはほどよい緊張と安心があり、適度な距離感で相手と付き合うことができる。普段なら手に取る確率の少ないこの本にだって、「仕事」でなければ出会えなかったはずだ。 「これは仕事だから」の先に、コミュニケーションの本質がぼんやり見えてくる。そして、一見ドライなイメージを持つこの言葉が、著者のまっすぐな働きぶりを通して変わっていく。 一方で、家族というのは、近過ぎて遠い。家族だからこそ、適度な距離感が保てなくなってしまう。そんな時は「仕事」に頼るに限る。それが仕事であるがゆえに、プロが責任を持って最後まで向き合ってくれるはずだからだ。そうして踏み込んだ先に、家族だからこそ気づけない答えがあるのではないか。(KADOKAWA、1540円)

読書委員プロフィル

尾崎世界観(
おざき・せかいかん

 1984年生まれ。ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギター。2016年に初小説『祐介』で注目される。千早茜さんとの共作小説『犬も食わない』なども刊行。

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