【やさしく解説】米国の戦略石油備蓄
戦略石油備蓄の大規模な放出に踏み切った米国。写真はテキサス州の石油関連施設(写真:AP/アフロ)
世界の石油市場で巨大な「貯金」が急速に減少し、各国の大きな関心を呼んでいます。中東での戦争とホルムズ海峡をめぐる供給混乱を受け、米国が2026年3月から戦略石油備蓄の大規模な放出に踏み切ったからです。世界最大の産油国である米国は、自国の非常用原油を取り崩す一方、日本などへの原油輸出も続けています。なぜ、そんな方策を取っているのでしょうか。危機が長引いて備蓄がさらに減ったとき、米国は世界への供給を続けられるのでしょうか。日本とも関係の深い「米国の戦略石油備蓄」をやさしく解説します。
米戦略石油備蓄、43年ぶりの低水準に
「米国の戦略石油備蓄が43年ぶりの低水準になった」——。この8月下旬、こんなニュースが世界を駆け巡りました。
米エネルギー情報局(EIA)が8月19日に公表した週間統計によると、8月14日時点の戦略石油備蓄(Strategic Petroleum Reserve:SPR)が2億9340万バレルまで減ったという内容です。前年の同じ時期は4億340万バレル。わずか1年で約1億1000万バレル、27%も減った計算で、1982年末以来の低水準となりました。
SPRの放出につながったのは、今年2月28日に始まった米国・イスラエルによるイラン攻撃です。これに伴い、イランはホルムズ海峡の封鎖を宣言。原油輸送が大幅に滞ったため、国際エネルギー機関(IEA)の加盟32カ国は3月11日、協調して緊急備蓄を放出することを決めたのです。
協調放出は過去にも例があります。
1991年の湾岸戦争では米国がSPRから1730万バレルを放出。2005年のハリケーン・カトリーナではIEA加盟国が6000万バレルの供給を決定。米国もSPRから売却・貸し出しを行い、合わせて2080万バレルを供給しました。
これに対し、今回はケタ違いです。IEA加盟国全体で4億バレル、米国だけでも1億7200万バレル。IEA創設以来、最大規模となりました。
図表:フロントラインプレス作成
ギャラリーページへ
IEAの合意後、米国では放出権限を持つトランプ大統領が直ちに放出を決定。約120日かけて市場へ供給する計画が組まれ、順次、実行されていったのです。
SPRは1973~1974年の第1次石油危機を教訓として1975年に創設されました。米国が外国から石油を十分に調達できなくなった場合に備えた、国家の「最後の石油」です。その最後の備えを実際に使い、備蓄量を大きく減らしているのです。
