北中米W杯では数々の注目国が志半ばで大会を去った。勝敗を分けたのは、個の力か、戦術か、それともピッチ外の要因か。彼らの敗因は「世代交代」や「決定力不足」といったステレオタイプでは片づけられない。戦術の進化、過密日程、ルール変更、選手層、育成、チームマネジメント——その背景には、日本サッカーが学ぶべき課題も潜んでいる。本特集では各国の戦いを深掘りし、彼らがなぜ敗れたのかを検証する。
第5回は、史上初の外国人監督カルロ・アンチェロッティが率いたブラジル代表。『アンチェロッティの戦術ノート』(河出書房新社)で本人との共著を手がけ、30年以上イタリアサッカーを取材してきた片野道郎が、「受けるブラジル」を選ばざるを得なかった理由を出発点に、セレソンが直面する戦力とアイデンティティの問題を考察する。
史上初めての外国人監督となるカルロ・アンチェロッティを迎えて今回のW杯を戦ったセレソンことブラジル代表だが、結果はラウンド16でノルウェーに完敗を喫しての早期敗退。ベスト8にも手が届かなかったのは、ラウンド16でマラドーナのアルゼンチンに敗れた1990年イタリア大会以来、9大会ぶりである。
今大会のセレソンを読み解く上で1つの鍵になるのは、アンチェロッティという監督の存在だろう。
イタリアを出発点に欧州5大リーグすべてでリーグタイトルを勝ち取り、CL5回優勝を含めて数多くのタイトルを制覇してきた67歳は、与えられた戦力を出発点として、チームと選手の個のクオリティを最大限に引き出しながら全体としても機能するチームを構築する手腕において、右に出るものがいない名伯楽である。本稿では、そのアンチェロッティのキャリアをイタリアで長く見てきた立場から、彼がブラジルサッカーの歴史と伝統、そして現在代表に選出可能な戦力をどう解釈し、どのようなチームを築き、どのように戦おうとして、どんな困難に直面したかを検証するというアプローチで、ブラジルの敗因について考えてみたい。
アンチェロッティはなぜ「受けるブラジル」を選んだのか
ラウンド16ノルウェー戦の敗北は、1-2というスコア以上にその内容がショッキングだった。
FIFA公式スタッツのボール支配率はブラジル32%、ノルウェー60%、中立8%。ブラジルがノルウェーに完全にボールを握られ守勢一方になるなど、以前なら想像すらできなかった事態である。ノルウェーがボールを握って攻勢に立ち、ブラジルは[4-4-2]のミドルローブロックでそれを受け止めつつ、トランジションによる逆襲の機会をうかがうというのが、試合の基本的な構図。ブラジルはその狙い通り、14分に中盤でのボール奪取からの逆襲でPKを奪い、58分には自陣からのカウンターでエンドリッキがGKと1対1になるなど、先制して流れを手元に引き寄せる機会は作り出した。しかしその数少ない決定機を決め切れず、0-0のまま試合が進む中でプレーの強度が徐々に低下して攻め手を失い、終盤にホーランドに2発喰らってあっけなく押し切られる。途中出場のネイマールがアディショナルタイムに決めたPKも、せめてもの慰め以上ではなかった。
この試合の直接的な敗因としては、PKを含む重要な決定機のミス、終盤の守備強度の低下、先制された後に試合を変えるプランBの不在などを挙げることができる。終盤のネイマール投入も、むしろプレス強度の低下によってノルウェーのボール保持を助け、さらに押し込まれる契機を作ってしまった感があった。
しかしそれ以上に大きな問題は、世界有数のサッカー大国ブラジルがなぜ、(あるレベル以上の相手に対しては)受動的なミドルブロックで試合を落ち着かせ、トランジションから作り出す数少ないチャンスを決める以外に勝機を作り出せないようなチームでW杯を戦わなければならなかったのか、ということの方だろう。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
