アフリカでサファリロッジを運営する仲間と。写真右端が筆者。本人提供
「自然と人間が共生する世界」を目指し、2025年に日本人で初めて南部アフリカにサファリロッジをオープンした伊藤啓二さん。アフリカからネイチャーポジティブに取り組むシリアルアントレプレナーが、「生物多様性×ビジネス」の最前線と、現地で得た気づきを綴ります。
15年越しに、いま始めた挑戦
2年ほど前、僕は当時経営していた会社を売却し、「自然と人間が共生する世界」を目指す会社「angle reserve(アングルリザーブ)」を立ち上げました。自然を守ることで収益を上げるという、少なくとも僕には非常に難易度の高い挑戦です。
振り返れば、「自然✕ビジネス」に興味を持ったのは大学生の頃でした。
単純に自然が大好きだったこともあります。でもそれ以上に、大多数の人が自然や動物を「好きだ」と言うのに、それらが失われ続けている現実に違和感を覚えたこと。そして、留学先のUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)での学びを通じて、温室効果ガスの排出量取引をはじめとする、新たなビジネスチャンスを知ったことがきっかけでした。
ただ、当時はビジネスのこともよく分からないし、どれだけ考えても事業がうまくいくイメージが湧きませんでした。
そこで、まずはビジネスの経験を積むためにも別の領域から挑戦することにしたのです。

リクルート退職→2度の起業→南アフリカへ。「日本人初のサファリロッジ」を開いた36歳起業家のいま | Business Insider Japan
それから約15年。起業をはじめとしたビジネス経験を積めたこともありますが、何より「自然✕ビジネスの市場がいよいよ来る」という直感が決め手でした。
ひとくちに自然✕ビジネスといっても、農業や脱炭素、エコツーリズムなど領域は多岐に渡ります。なかでもいま、世界の投資家や起業家が熱視線を注ぐのが、生命の多様性である「生物多様性(Biodiversity)」です。
僕たちはいま、「6度目の大絶滅期」を生きている
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「生物多様性」という言葉を聞いて、何を思い浮かべますか?
カエルの鳴き声が響く田んぼや、ゾウやライオンが闊歩するサバンナを思い浮かべる方もいるかもしれません。
WWFジャパンによると、生物多様性とは、地球上のさまざまな生きものが直接的・間接的に多様な形で関わり合っていることを指します。
虫がいなければ主要農作物の多くは受粉できず、植物がなければ光合成も行われません。
単なる「生き物の数の多さ」ではなく、「種」「遺伝子」「生態系」といったそれぞれの多様性が保たれた全体的なバランスが重要なのです。その「生物多様性」が、近年急速に失われています。
野生生物の個体数は過去50年間で73%減少種の絶滅スピードが数十〜数百倍加速(過去1,000 万年間の平均と比較)
私たちはいま、「6度目の大絶滅期」を生きているんです。
大絶滅はこれまでもありましたが、問題なのは今回の大絶滅が“急速に進んでいる”ことです。過去の大絶滅は数十万〜数百万年をかけて進んだのに対して、いま起きている絶滅はわずか数十年のスケールで進んでいます。
その主な原因の一つが、産業活動です。森林は農地に切り開かれ、湿地帯に限ればその85%が産業革命後消失しました。
ビジネスは「生物多様性」と無関係なのか?
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では、産業活動と生物多様性は「関係のないこと」なのでしょうか? 当然そんなことはありません。
世界経済フォーラム(WEF)の推計では、世界全体のGDPの半分以上、約44兆ドル(約6,600兆円)が、自然資本に中〜高度に依存しているとされています。つまり健全な生物多様性が保たれない限り、ビジネスは回らないのです。
例えば、「水」。
土壌の微生物や森林が失われると、水を濾過したり地下水として蓄えたりする働きが弱まります。地下水脈が枯渇したり、汚染されたりすれば、農業や飲料メーカーは事業を続けられません。また各国が注力する半導体も、その製造プロセスで膨大な量のきれいな水を必要とするため、無関係ではいられません。
「受粉」もそうです。
世界の主要農作物の4分の3以上は、ミツバチなどの昆虫や鳥が花粉を運ぶことに依存していると言われています。昆虫がいなくなると、世界の食糧供給システムは大打撃を受け、それに付随する食品加工、物流、小売といった巨大産業も大きなダメージを受けるでしょう。
「タダの自然」を、経済につなぐ
環境保護区の視察に訪れたコスタリカにて。本人提供
これほど重要な生物多様性が、なぜ減り続けるのか。
理由は、自然の活動が「無償」であるという仕組みにあると考えています。守っても直接お金にならない以上、自然資本を守るインセンティブは極めて小さいのです。
この状況に取り組むべく、数十年以上に渡り国際的に議論されてきたのが、「どうすれば経済に自然資本の価値を組み込めるか」です。
その好例の一つが、僕が学生時代に研究していた中米コスタリカの取り組みです。
同国は森林の多くを失った後、1990年代に「Payments for Environmental Services : PES」という大胆な施策を導入しました。森を守り、水を蓄え、生物を保護する農家や地主に、政府が直接現金を支払う仕組みです。
「自然を守ることがお金になる」
このシンプルなインセンティブの転換により、コスタリカはわずか数十年のうちに森林の70%を回復させ、今や世界屈指のエコツーリズム国家へと変貌を遂げました。
