
EUとの第3次二国間協定に「州の過半数」を適用すべきか、議会で議論が行われた
Keystone / Alessandro Della Valle
欧州連合(EU)との第3次二国間協定の発効をめぐり、スイスで「州の過半数」が必要かどうかが焦点となっている。国民投票でのハードルが高くなるため、連邦政府(内閣)は反対の立場だ。現在の論争のポイントをまとめた。
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2026/07/03 08:00
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対EUの第三次二国間協定は、両者の関係を深化・拡張させる包括的協定で、2024年末に両者が合意、スイス連邦内閣(政府)が2026年3月に協定の最終案を閣議決定し、連邦議会に送付した。
「州の過半数」とは?
スイスの国民投票では、案件によって「二重の過半数」が必要となる。 国民投票で可決に絶対必要なのが「国民の過半数(独語でVolksmehr)」、つまり有権者が投じた票の過半数だ。だが、憲法改正、緊急連邦決議、国際機関への加盟などは国民の過半数に合わせ「州の過半数(独語でStändemehr)」も必要になる。
スイスは20の州(カントン)と6つの準州で構成される(連邦法上は26州)。国民投票の際、20州はそれぞれ1票を持つが、準州(オプヴァルデン、ニトヴァルデン、バーゼル・シュタット、バーゼル・ラントシャフト、アッペンツェル・インナーローデン、アッペンツェル・アウサーローデン)はそれぞれ「半票」とカウントされる。
各州の賛否は、州内の有権者の多数決で決まる。26州の合計である「23票」のうち、過半数を取れば「州の過半数」となる。
なぜ「州の過半数」が存在するのか
「州の過半数」は1848年の憲法制定時に導入された。1847年に起きたカトリック保守派(分離同盟)と急進自由主義派との内戦(分離同盟戦争)の終結を受け、カトリック系の少数派州を守り、再び国が分裂するのを防ぐために設けられた。スイスはこの内戦後、州が統一され新しい連邦国家が誕生した。
「州の過半数」だけでなく、国民を代表する国民議会(下院)と州を代表する全州議会(上院)の二院制もこのとき設けられた。「州の過半数」も全州議会の誕生も、政治的少数派に拒否権を与え、発言力を高めるための「均衡装置」として機能している。
「票の重み」に格差
しかしこの仕組みにより、票の重みに格差が生じている。今日ではアッペンツェル・インナーローデン準州民1人の票が、チューリヒ州有権者1人の票の50倍の重みを持つとされる。
ベルン大学のアドリアン・ファッター教授(政治学)は「州の過半数は民主主義、つまり国民の過半数に関するものではなく、連邦主義、つまり小規模で保守的な州を守るためにある」と指摘する。
一方で、「州の過半数」は民主的平等を弱めるとも述べる。構造的に不利なのが都市部の州だ。複数の民主主義研究者によれば、女性、若者、少数派であるフランス語圏・イタリア語圏も、票の力という意味では不利を被っている。

「州の過半数」は州の間の一票の格差も生んでいる
Keystone / Peter Klaunzer
どれほどの格差があるのか
「州の過半数」は小規模州の票に大きな重みを与えるため、そうした州で優勢な保守勢力に有利に働く傾向がある。
その最たる例が「企業責任イニシアチブ」の国民投票(2020年)だ。有権者の過半数(51%)の支持を得たが、州の過半数が反対し、イニシアチブは否決された。
ただ、有権者の過半数が賛成したのに州の過半数が得られず否決された憲法改正案件は極めてまれだ。1848年以降の702件の投票のうち10件にとどまる。
それでも、スイスの国際的な結びつきに関わる問題では、州の過半数は特に大きな意味を持つ。1992年の欧州経済領域(EWR)加盟を問う歴史的な国民投票では、国民、州のいずれも過半数が反対したが、州ははるかに明確だった。有権者は反対が50.3%と僅差だったのに対し、州は18対5で反対が上回った(78.26%)。
政治学者のラヘル・フライブルクハウス氏とアドリアン・ファッター氏は最近、EWR投票で州の過半数というハードルを乗り越えるためには国民の賛成率がどれくらい必要だったかを試算した。「全ての州で賛成の割合が同程度に上昇するという現実的な仮定に立つと、この投票で州の過半数を得るには国民の59.6%の賛成が必要だったことになる」と両氏は分析している。
両氏は、第3次二国間協定の国民投票で「確実に州の過半数を得るには、国民の過半数として約55%という数値が必要となる」と結論付ける。
なぜ第3次二国間協定で州の過半数が論争になっているのか
第3次二国間協定について州の過半数が要件になった場合、国民投票で可決されるのに必要なハードルは約5ポイント上がる。近年の国民投票が僅差で決まることが多い現状を踏まえれば、この差は軽視できない。
だからこそ、州の過半数の要否が代理戦争の様相を呈している。州の過半数が要件に加われば、第3次二国間協定は国民投票でより困難な戦いを強いられるからだ。それゆえ、協定反対派は州の過半数の導入を強く求める。
一方、国民の過半数だけなら国民投票で勝利しやすくなるため、協定賛成派は州の過半数を必要としない方式を支持する。
こうした戦略的な計算に加え、賛成・反対双方から民主主義の観点に基づく実質的な論拠も持ち出されている。
連邦政府が不要と主張する理由
連邦政府は、第3次二国間協定を、州の過半数が要らない任意的レファレンダム(国民表決)に付す方針だ。
イグナツィオ・カシス外相は、この方針を発表した際に「この判断に戦術的な要素があることは否定できない」と述べた。つまり連邦政府は、協定を国民投票で可決させたいのだ。
政府は第1、2次二国間協定が義務的レファレンダム(州の過半数も必要)の対象ではなかったことを理由に挙げる。ただし、2005年のシェンゲン・ダブリン協定(第2次二国間協定の一部)の国民投票については、もし州の過半数が必要だった場合、その要件を満たせなかったことも明らかだ。
政府は法的な観点から、新たな協定が「スイスの国家体制に根本的な変更をもたらすものではなく、したがって憲法上の秩序にも影響しない」との見解を示している。
州の過半数を適用すべきだという論拠は?
たとえスイス憲法がそれを義務付けていない場合でも、実務上、条約が憲法的性格を持つと判断された場合には義務的レファレンダムの対象とすることができる。これを「独自(sui generis)の義務的条約レファレンダム」と呼ぶ。1992年のEWR加盟投票もこの形式が適用された。この特例は1920年、スイスが国際連盟加盟を問う際に導入された。
新たなEU協定に関し、一部の憲法学者は、これらの協定がスイスの憲法的構造を実質的に変えると主張する。そのため、これらをスイス憲法への動的な介入と見なすことは正当化されるという。実質的に憲法改正に等しいため、国民と州の双方の過半数が必要だとの論理だ。
議会は何を決めるのか
原則として、議会は連邦政府の「国民の過半数のみ」という提案を受け入れるか否かを決定できる。
しかし議会は、この本質的な問題そのものを議論するのではなく、まず急進民主党(FDP)のアンドレア・カロニ全州議会議員が提出した特定の動議を審議するという、やや意外な手順を踏んだ。アッペンツェル・インナーローデン準州選出の憲法学者であるカロニ氏は、一部の要素に関する「合憲性に関する不明確さ」を解消するため、連邦憲法に経過規定を盛り込むことを求めている。
カロニ氏が特に言及するのは、人の自由移動の分野だ。スイスは2014年の国民投票で可決された「大量移民反対イニシアチブ」の産物として、「スイスは外国人の入国を独自に管理する。この条項に違反する国際条約を結んではならない」とする移民条項が憲法に盛り込まれた。ここで争点となるのは、EUとの新たな条約パッケージがこの条項と矛盾するのではないか、という点だ。
スイスには憲法裁判所がない。このためこうした問題はしばしば政治レベルで解決しなければならない。今回の問題は非常に複雑であるうえ、イデオロギー的にも対立が深い。
結局のところ、カロニ氏の動議は本質的に1つの効果を持つ。憲法改正との結びつきを付けることで、その根拠や位置づけがどうあれ、協定全体を国民と州の双方の過半数による承認に付すことなる、という点だ。
両院には複雑な提案が提出されているが、核心にはシンプルな2つの問いが内包されている。第一に、第3次二国間協定には州の過半数という高いハードルが必要か、第二に、国民投票で現実的に承認される可能性があるかどうか、という問いだ。
全州議会は6月、州の過半数の適用について、所管委員会で詳細に検討するのがより適切な手続きだとの判断を下した。この件に関する議論は、秋会期に先送りされた。
編集: Samuel Jaberg、独語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子
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