ワシントンから覗く東アジア
【ワシントンから眺める東アジア】米海軍大学校のワークショップで見えた「開戦前のインフラ戦」に備えるには
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佐々木 れな
国際政治学者
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2026.6.10(水)
沖縄県石垣市の港に停泊する海上保安庁の船舶。台湾有事の初期段階では、海上保安庁、警察、通信事業者などが前面に出る可能性が高い(写真:ロイター/アフロ)
台湾有事をめぐる日本の議論は、これまで主として軍事作戦の問題として語られてきた。中国軍による上陸作戦、ミサイル攻撃、海上封鎖、米軍の介入、自衛隊の役割、南西諸島防衛といった論点である。これらはいずれも重要であり、台湾海峡危機を考えるうえで避けて通ることはできない。
しかし、米国の安全保障コミュニティで近年議論されている台湾有事論を見ていると、もう一つの視点が浮かび上がる。それは、台湾有事を「開戦後の軍事衝突」としてだけでなく、「開戦前から進行するインフラ戦」として捉える必要があるという点である。
ここでいうインフラ戦とは、発電所や通信施設の物理的破壊だけを意味しない。海底ケーブル、低軌道衛星、衛星地上局、クラウド、港湾、修理船、通信事業者、サイバー防御、海上保安機関、民間企業、法制度、情報発信が一体となって、危機対応の成否を左右するという意味である。
台湾有事は、最初のミサイル発射によって明確に始まるとは限らない。むしろ、海底ケーブルの損傷、衛星通信の不安定化、商船や漁船による曖昧な妨害、サイバー侵入、港湾や修理能力の制約、民間企業の判断遅れとして、戦争と平時の境界が曖昧な段階から始まる可能性がある。
米国で議論される「海底から宇宙まで」の安全保障
筆者が参加した米海軍大学校のサイバー・イノベーション政策研究所のワークショップでは、まさにこの問題が中心的に議論された。
会議の問題意識は明確だった。現代の軍事作戦と国家安全保障は、国家や軍が直接所有していない民間・商用インフラに深く依存している。米軍も台湾も日本も、通信、データ、物流、衛星、港湾、クラウド、海底ケーブルなしには現代的な危機対応ができない。しかし、その多くは政府や軍が直接管理しているものではない。
会議では、この問題が「海底から宇宙まで」という言葉で整理されていた。海底ケーブル、地上通信網、衛星地上局、宇宙アセットは別々の領域ではない。海底ケーブルがデータを運び、地上通信網がそれを衛星地上局やクラウドにつなぎ、宇宙システムが通信、測位、情報収集、監視を支える。したがって、海底、地上、宇宙、サイバーは、相互依存する一つのシステムとして理解されるべきである。
この視点から見ると、台湾有事の初期段階は、ミサイルや艦艇だけでは説明できない。危機は、インフラの接続点、制度の隙間、対応の遅れ、権限の分断を突く形で進行しうる。
