世界の富裕層たちが日本を訪れる最大の目的になっている「美食」。彼らが次に向かうのは、大都市ではなく「地方」だ。いま、土地の文化と食材が融合した“ローカルガストロノミー”が、世界から熱視線を集めている。話題の書『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著)から、抜粋・再編集し、日本におけるガストロノミーツーリズム最前線を解説。いま注目されているお店やエリアを紹介していきます。


地元からの猛反発も…。なぜ新潟が「世界の食通が注目する美食先進県」になれたのか?Photo: Adobe Stock



新潟県に国際級の店が続々誕生中

 地元の人にとっては当たり前だけど、外部の人間からすると非常に価値があることは、よくあります。


 そんな「実はとてもすごいのに、地元の人は真価に気づかず、有名になっていない店」を発見することに成功した、新潟県のエピソードを紹介します。


 この人も、一種の「ヘンタイ」だと思います。「新潟ガストロノミーアワード」を主導した、岩佐十良(とおる)さんです。


 岩佐さんは東京生まれ、東京育ちで、『自遊人』という雑誌を手掛けていました。


 この雑誌は食、旅、暮らしなどを深く掘り下げるライフスタイル情報誌で、地方の食をたびたび特集していました。そのため、岩佐さんは「地方の食を守っていかなければいけない」という危機感を抱くようになったのでしょう。


 2010年、「雪国A級グルメ」プロジェクトを始めました。これは、新潟を中心とする雪国観光圏で育まれてきた食文化を「永久に守りたい味」として認定・応援する取り組みです。具体的には、独自の基準に応じて店を星付けしていきました。


 自分でも地方で事業をしようと2014年、魚沼市にある古い旅館を買い取り、温泉旅館「里山十帖」を作りました。これは『自遊人』の記事をリアルに体験できる場所として開設されたもので、できた当初から高い評価を得ました。


 こうした流れのなかで、どっぷりと新潟県にハマっていった岩佐さんは、より一層地域を発展させていくために新たなプロジェクトにチャレンジしました。それが、「新潟ガストロノミーアワード」なのです。



「新潟ガストロノミーアワード」とは何か

「新潟ガストロノミーアワード」は、新潟県が誇る食文化を掘り起こし、それを作り手の取り組みも含めて表彰・発信する賞。構想の母体は「雪国A級グルメ」プロジェクトですが、これは新潟県とタッグを組む形で2022年に始動しました。


 岩佐さんがこだわったのは、審査員を県外の人たちにすることです。


 審査員長は、美食評論家であり、「世界のベストレストラン50」の日本評議委員長でもある中村孝則さん。他にも有名シェフ、文化人などの食通が名を連ねています。


 なぜ、このことにこだわったかというと、地元の人たちとは違う目線で選ぶことが大切だと考えたからです。冒頭で触れたように、地元の人からすると当たり前すぎて見過ごされていることや、無意識の圧力によって評価されてこなかったものが、地方にはあります。


 だから、県外の人たちによってそうした色眼鏡をかけずに、忖度なく選ばれることが大切だったのです。



「県外目線」が掘り起こした真の実力

 いざ始めてみると、岩佐さんのもとには様々な横槍が入ったと聞きました。「なんであいつの店は入っているのに、うちは入ってないんだ」と責められたり、「店に優劣はつけられないでしょう」と言われたり。


 地方であればあるほど、見えない力が多分にかかります。けれども、岩佐さんはそんな事態になることはお見通しでした。なぜなら、「雪国A級グルメ」プロジェクトのときも同じようなことを経験していたからです。


 しかし、それでも彼は、「県外者が選ぶ」という信念を貫きました。それが、新潟県が食を使って発展していくためには欠かせないと判断したからです。


 そして、県の現場や審査員たちにも伝えました。「面倒なことが起きたら、全部私に回してください」と。


 文句を言われたら、岩佐のせいにしていい。それでも収まらなかったら、岩佐につないでくれと。そうやって、現場や審査員たちを守り、忖度なく審査できる環境を築いていったのです。


 その甲斐あって、地元で埋もれていた価値ある店が、どんどん発掘されていきました。


 これまでは、地元の人には当たり前だと思われていた店や、業界団体などに入らないばかりに無視されていた店、こだわりが強すぎて一歩引かれていたような店たちが、ついに日の目を見るようになったのです。隠れた名店の店主というのは、総じて確固たるポリシーを持っており、そのせいで古いコミュニティから疎外されることもあります。


 しかし、そうした日の当たらない存在だった彼らが、県外の、しかもフーディーたちの目でお墨付きを得て、新潟ガストロノミーアワードに選ばれたことで、「心が折れそうになったこともあるけど、頑張ってきてよかった」と、さらに前へ進んでいく勇気を得たといいます。


 これは非常に素晴らしいことだと思います。これにより、信念のある料理人たちがポジティブに動くようになり、新潟県の中で横の連携ができて、後に続く人たちの啓蒙にもなり、全体の底上げがなされていったからです。このアワードがきっかけで、県内にガストロノミーのコミュニティができ、県全体の食文化レベルを押し上げているのです。


 こうした多面的なことが評価され、新潟県は、ガストロノミー先進県と称されるようになりました。各地の自治体からの視察が絶えないほどのお手本として、日本のガストロノミーを牽引しています。


『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか?』では、新潟県で外せない注目店も多数紹介しています。


※本記事は、『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著・ダイヤモンド社刊)より、抜粋・編集したものです。この記事の情報は、本書の発売時のものになります。

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