グアテマラの文化省が、4月中旬にアメリカからメキシコへ返還された1200年前のまぐさ石(窓や出入口など開口部の上部に設置されるもの)の引き渡しを求める手続きを開始した。アートニュースペーパー紙の報道によると、グアテマラ文化省は外交ルートを通じ、メキシコ政府に対して遺物の返還を正式に要請している。
石灰岩にレリーフが施されたマヤ文明の遺物は、当初、匿名のアメリカ人実業家によってニューヨークのメキシコ領事館に持ち込まれた。その人物は、入手する以前のある時点で違法に原産国から持ち出されたものであることを知っていたと見られる。
しかし、4月16日にアメリカからメキシコへ正式返還された数時間後、専門家らが実際の出所はグアテマラだと特定。グアテマラ文化省は声明で、文献調査、比較研究、考古学研究者との協議に基づく分析の結果、このまぐさ石は同国北部にあるペテン盆地から出土したものだと判断したことを明らかにしている。
西暦600年から900年頃に作られたこのまぐさ石には、マヤの支配者チェリュー・チャン・キニチ(Cheleew Chan K’inich)に関連する儀式の場面が精緻に描かれ、「マユイ(Mayuy)」という作者の署名が入っている。マユイは古代のアメリカ大陸で自身の彫刻に署名を残した数少ない芸術家の1人だ。
マユイの古代彫刻に関する考察、『A Maya Universe in Stone(石に刻まれたマヤの世界)』を2021年に出版したブラウン大学の人類学教授スティーブン・ヒューストンは、アートニュースペーパーにこう語っている。
「マユイは並外れて独創的でした。その彫刻の中で、神々の関係性や宇宙の秩序、そして王朝の権力をめぐる策謀までを融合させているのです」
問題となっているまぐさ石は、1950年代にグアテマラ北部からメキシコ南部にまたがる熱帯雨林を旅したアメリカの探検家、ダナ・ラムとジンジャー・ラム夫妻によって初めて記録された。その後この遺物は、マユイなどによる他の石彫とともに、ダナ・ラムが「ラクストゥニッチ」と呼んだジャングルから持ち出され、古物の闇市場に出回ることになった。以来、数十年にわたって複数の個人コレクションを転々とし、最近ニューヨークで再び姿を現したという。
その所有権をめぐる混乱は、本来の出所が現在のメキシコとグアテマラにまたがるウスマシンタ川周辺地域にあることから生じている。しかし、ヒューストン教授の研究によれば、発見場所は川のグアテマラ側だったとされる。
この混乱を例に挙げ、「政治的なパフォーマンスと拙速な文化財保護の執行」が、返還をめぐる混乱につながる可能性への懸念を示したのがカルチャー・プロパティ・ニュースの記事だ。
記事では、「ラクストゥニッチ」がメキシコではなくグアテマラにあるのではないかという研究がヒューストン教授らによって現在も続けられていることを指摘。メキシコへの返還からわずか数時間後にグアテマラが自国の所有権を主張したことを考えると、なぜこの遺物に関する来歴などの精査がほとんど行われないままメキシコに返還されてしまったのかと疑問を呈している。(翻訳:石井佳子)

考古学的大発見ベスト25。巨人部隊の靴、3000年前のマヤ遺跡、世界最古の老人ホーム etc.【2025年アートニュースまとめ】
巨人部隊の靴や3000年前のマヤ遺跡、世界最古の老人ホームetc. ARTnews JAPANで多くの読者を惹きつける考古学系記事の中から、2025年に注目を集めた15のニュースを紹介しよう。

15. 150年ぶり快挙! 古代エジプト「カノプス勅令」の新たな石碑を完全な状態で発見
古代エジプト、プトレマイオス3世治世下の紀元前238年に発布された「カノプス勅令」の、これまで知られていなかった複製が完全な形で見つかった。発見されたのは古代都市イメットがあった場所で、新たな石碑の出土は実に150年ぶりだという。【続きを読む】Photo DeAgostini/Getty Images

世界最古の老人ホーム跡が見つかったヒッポス国立公園の遺跡。Photo: Courtesy of Dr. Michael Eisenberg

14.古代都市遺跡から「世界最古の老人ホーム」跡──1600年前の高齢者の生活を示す貴重な発見
イスラエル・ハイファ大学の研究チームによる古代都市ヒッポスの発掘調査で見つかった施設跡が、世界最古の老人ホームである可能性が高いと8月18日に発表された。【続きを読む】 Photo: Courtesy of Dr. Michael Eisenberg

13. モーセが実在した証拠か──3800年前の碑文の新解釈が物議。手がかりは高解像度写真と3Dスキャン
旧約聖書の『出エジプト記』に登場し、十戒や海割りで知られるモーセの実在性について、現在では歴史的事実の裏付けはないとされることが一般的だ。しかし、それをくつがえす新説を唱える学者が現れた。【続きを読む】 Photo: De Agostini via Getty Images

12. 古代エジプト彫刻の常識を覆す発見! 墓荒らしが見逃した石像がサッカラ遺跡で出土
エジプトのサッカラ遺跡で、盗掘者が放置した石像が発見された。丸彫りと浮き彫りを併用したこの石像は、古王国時代に類例のない作品として、専門家たちの関心を呼んでいる。【続きを読む】 Photo: Courtesy of Zahi Hawass Library

男性の後ろ脚に隠れる姿て彫られている少女。Photo: Courtesy of Zahi Hawass Library

11. 噴火後も300年間人々が暮らしていた? ポンペイで通説を覆す新発見
ポンペイは、西暦79年8月25日のヴェスヴィオ山の噴火により灰に埋もれ、18世紀に再発見されるまで、人々が住むことはなかったとされてきた。だがポンペイ考古学公園が行った最新の発掘調査により、生き残った人たちが5世紀まで生活していたことが分かった。【続きを読む】Photo: Getty images

ポンペイの住居跡。2015年撮影。Photo: Wikimedia Comons

10. 世界最古のピラミッドで古代エジプト王子の墓を発見! 2000年後に別人の墓に再利用された痕跡も
エジプトのサッカラで古代エジプト王子の墓が発見され、複数の重要な遺物も出土した。その中には異なる時代のものも含まれており、古代エジプトの埋葬施設が長期間にわたって再利用されていたことを裏付けている。【続きを読む】Photo: Courtesy Egyptian Ministry of Tourism and Antiquities

9. まるで創世神話の1シーン! 最新調査で、古代エジプト・カルナック神殿は「島」にあったことが判明
エジプト・ルクソール近郊にあるカルナック神殿で、この地域における初の包括的な地質考古学調査が行われた。その結果、初期のカルナックは河川の浸食により出現した島状の地形であったことや、中王国時代に始まったと考えられていたこの地域への人々の居住が300年以上も前の古王国時代から行われていたことが明らかになった。【続きを読む】

8. 3000年前のマヤ文明遺跡群を発見。先コロンブス期の社会政治的・宗教的構造への理解を深める手がかりに
グアテマラ北部でマヤ文明の遺跡群が発掘された。3つの都市遺跡にまたがる約16平方キロの地域で、約3000年前のピラミッドや聖域、独自の運河システムなどが見つかっている。【続きを読む】Photo: Courtesy the Guatemalan Ministry of Culture and Sports

7. 世界の七不思議「アレクサンドリアの大灯台」海底から巨大石材──歴史の空白を埋める手がかりに
フランス国立科学研究センターの調査チームが、世界七不思議の1つ、アレクサンドリアの大灯台の海底遺構から22個の巨大な石材を引き上げた。アレクサンドリア港の底からは、約30年前に初めて、遺跡と断定できる柱や彫像が発見されている。【続きを読む】 Photo: Courtesy GEDEON Programmes / CEAlex

6. ポンペイの家族を襲った悲劇が明らかに。ドアをベッドで封鎖し最期まで抵抗を試みる
79年8月、ヴェスヴィオ火山の噴火による火砕流に襲われた古代都市ポンペイ。突然の災害から最期の瞬間まで生き延びようと試みた1つの家族の物語が新しい調査で明らかになった。【続きを読む】 Photo: Courtesy Pompeii Archaeological Park

5. メキシコの密林に古代都市を発見! 要塞の「真の姿」がレーザー測量によって明らかに
カナダのマギル大学の研究者が実施したレーザー測量調査によって、これまで要塞だと考えられてきたメキシコの密林地帯に古代都市が眠っていることが明らかになった。【続きを読む】 Photo: Pedro Guillermo Ramón Celis, and the Guiengola Archaeological Project

都市の中心地。ピラミッドや寺院などが多く建てられている。Photo: Pedro Guillermo Ramón Celis, and the Guiengola Archaeological Project

東側に位置していた居住エリア。Photo: Pedro Guillermo Ramón Celis, and the Guiengola Archaeological Project

Photo: Pedro Guillermo Ramón Celis, and the Guiengola Archaeological Project

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