イスラエルと米国は2026年2月28日にイランに対して攻撃を行い、3月以降、中東情勢が悪化した。これに伴い、ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ国際物流の要衝ホルムズ海峡が事実上の封鎖となり、世界経済に影響を与えている。中東では、イランから湾岸協力会議(GCC)諸国の港湾やエネルギー施設への攻撃もあり、資源輸出国の経済に損害を与えている。本稿では、中東情勢悪化が中東・北アフリカ地域の経済見通しに与える影響を整理する。

中東・北アフリカは、2026年は1.1%の成長にとどまる見通しだ(2026年4月17日付ビジネス短信参照)。代替ルートを持つアラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアでは3.1%と、世界全体の「通常シナリオ」と同水準の成長を見込み、経済的な影響は相対的に小さいとの予測だ。一方、IMFによると、中東情勢悪化の影響が長期化する「深刻シナリオ」では、2026年と2027年の世界の成長率は景気後退の目安とされる2%未満に近づくとの見方を示し、先行きは不透明だ。

中東・北アフリカの経済概況

最初に地域各国の経済規模、人口、人口増加率などについて述べる。人口が8,747万人で製造業も集積し、欧州との貿易が多いトルコの経済規模(GDP)が域内で最大だ(表1参照)。次いで、原油輸出が多く人口が3,396万人のサウジアラビアの経済規模が大きい。先端分野での強みがあるイスラエル、地域の貿易拠点で産油国でもあるUAEが続いた。1人当たりGDPを見ると、人口が少ないものの世界有数の天然ガス輸出国であるカタールのほか、イスラエルやUAEが高い。イスラエルとUAEは経済規模、一人当たりGDP、人口が同水準であり、これらのレベルは香港に近い。

人口が多いイランやエジプトの経済規模も大きい。2024年の国連人口統計によると、2054年までの長期的な人口増加率を見ると、イラクやオマーン、ヨルダンなどの伸びが高いとの予測だ。

表1:中東・北アフリカ主要国の経済規模・人口など

国名

名目GDP
(億ドル) 2025年

1人当たりGDP
(ドル) 2025年

人口(万人)
2024年

人口増加率(%)
2024-2054年

トルコ

15,973

18,611

8,747

3.6

サウジアラビア

12,769

35,464

3,396

46.3

イスラエル

6,108

60,335

939

46

UAE

5,716

50,232

1,103

45.8

イラン

3,712

4,264

9,157

11.4

エジプト

3,646

3,379

11,654

43.5

アルジェリア

2,857

6047

4,681

30.4

イラク

2,642

5,803

4,604

64.0

カタール

2,212

69,680

305

43.1

モロッコ

1,826

4,842

3,808

14.7

クウェ―ト

1,578

30,877

494

33.4

オマーン

1,061

19,996

528

55.3

ヨルダン

617

5,355

1,155

46.8

チュニジア

576

4664

1,228

7.0

バーレーン

475

29,344

161

37.7

出所:IMF 2026年4月データ、国連の2024年公表統計を基にジェトロ作成

ホルムズ海峡封鎖により代替ルートに関心

2026年の経済見通しは、ホルムズ海峡の封鎖の影響も大きいため、まずは中東各国の位置関係や代替ルートを概観する(図1参照)。攻撃は当事国のイランとイスラエルのほか、イランからペルシャ湾の周辺国、特にUAEなどへの攻撃が多い。国際海事機関(IMO)によると、4月24日時点でホルムズ海峡など周辺海域において船舶への攻撃が29件確認された。このため、代替ルートの利用が活発化している。UAEにはオマーン湾沿いのフジャイラ港やコールファッカン港という代替ルートがある。サウジアラビアは紅海に面しており、オマーンの主要港はオマーン湾やアラビア海沿いにある。また、トルコ、エジプト、イスラエルは地中海に面している。

一方、バーレーン、カタール、クウェート、イラクは海上の代替ルートがなく、ホルムズ海峡封鎖の影響が大きい。

図1:中東諸国と周辺の海峡・港湾の位置関係
ホルムズ海峡や紅海、ペルシャ湾などのイラン、イラク、サウジアラビア、UAEなど中東各国の位置関係について地図を用いて説明。また、各国の主要な港の置関係について説明。

出所:ジェトロ作成(海峡や港湾は大まかな位置を表示)

ホルムズ海峡封鎖の影響が少ない国ではプラス成長も

今後の経済見通しは、中東情勢に大きく左右されるが、本稿では主に4月時点の予測値などに基づき解説する。2026年のGDP成長率を見ると、軍事衝突地域から遠い北アフリカでは、モロッコが4.9%、エジプトが4.2%、アルジェリアが3.8%と高い成長予測だ(表2参照)。特に地中海に面する産油国のアルジェリアではエネルギー輸出の拡大の機会もあり、10月時点の予測から0.9ポイントの上昇を見込む。ホルムズ海峡を通らずに輸送可能なトルコは3.4%、オマーンは3.5%と、経済的な影響は少ないとの予測だ。イスラエルはイランやレバノンとの攻撃の応酬があるものの、地中海に面し物流も経済活動も動いており、4月時点では3.5%の成長を見込む。これらの国々は世界全体の3.1%を上回る。

さらに、イランからの攻撃に関する報道も多いUAEやサウジアラビアにおいても、成長率は3.1%と世界と同水準との予測だ。前述のとおり、両国には代替ルートもあり、輸送量は限定的ではあるが原油や貨物を輸送できる。一方、カタール、バーレーン、クウェート、イラクなどは産油・産ガス国だが、代替ルートがなく輸出が滞り、マイナス成長との予測だ。特にカタールではエネルギー施設も攻撃を受け、天然ガス生産などにも影響し、2025年10月時点の予測から14.7ポイント減のマイナス8.6%まで落ち込む見込みだ。バーレーン、クウェート、イラクでは4月時点で国際フライトにも大きく影響が出ている(2026年4月17日付ビジネス短信参照)。イランの主要港はペルシャ湾内に位置しており、米国のオマーン湾周辺での船舶通航阻止により原油輸出に影響がある。イランはイスラエルや米国の攻撃による経済への打撃が大きく、成長率はマイナス6.8%を見込む。

なお、他の中東・北アフリカ諸国の2026年の成長率を見ると、産油国のリビアは6.7%だが、紛争が続くスーダンは0.7%、イエメンは0.5%成長との予測だ。IMFのデータでは、イスラエルと親イラン武装組織ヒズボラの攻防が続くレバノンのほか、シリアの2026年予測値は公開されていない。国連開発計画(UNDP)は、中東情勢悪化により、アラブ諸国で失業率が上昇し、レバノンやシリア、スーダンやイエメンなどで貧困率が上昇すると推計した(2026年4月1日付ビジネス短信参照)。

表2:中東・北アフリカ主要国の実質GDP成長率(予測値、2026年値の高い順)(単位:%)(△はマイナス値、ーは値なし)注:IMFの分類では、トルコ、イスラエルは中東・中央アジアには含まれない。

国・地域名

2026年

2027年
成長率(%)

2028年
成長率(%)

地理・主要港

成長率(%)

10月予測との差(ポイント)

モロッコ

4.9

0.7

4.5

4.5

北アフリカ

エジプト

4.2

0.3

4.8

5.5

北アフリカ

アルジェリア

3.8

0.9

2.9

2.7

北アフリカ

イスラエル

3.5

△0.4

4.4

3.7

地中海に主要港

オマーン

3.5

△0.5

3.4

3.7

オマーン湾、アラビア海に主要港

トルコ

3.4

0.3

3.5

3.8

地中海、黒海に主要港

UAE

3.1

△1.9

5.3

4.6

ペルシャ湾に主要港、代替ルートも

サウジアラビア

3.1

△0.9

4.5

3.6

紅海の代替ルートあり

ヨルダン

2.7

△0.2

3.1

3.0

紅海に主要港

チュニジア

2.1

0.0

1.6

1.5

北アフリカ

バーレーン

△ 0.5

△3.8

4.5

2.8

主にホルムズ海峡経由

クウェート

△ 0.6

△4.5

2.8

2.5

主にホルムズ海峡経由

イラン

△ 6.1

△7.2

3.2

1.5

ペルシャ湾に主要港、代替ルートも

イラク

△ 6.8

△10.4

11.3

3.5

主にホルムズ海峡経由

カタール

△ 8.6

△14.7

8.6

5.8

主にホルムズ海峡経由

中東・中央アジア

1.9

△1.9

4.6

4.0

世界

3.1

0.0

3.2

3.2

注:IMFの分類では、トルコ、イスラエルは中東・中央アジアには含まれない。

出所:IMF 2026年4月データを基にジェトロ作成

経済の大きな国では世界平均を上回る成長

中東・北アフリカ諸国では2027年以降、経済は持ち直し、特にイラクで11.3%、カタールで8.6%と高い成長を見込む。北アフリカのエジプト、モロッコなどは資源や食料の確保、物価上昇への懸念も残るが、現時点では成長を維持するとの予測だ。なお、エジプトなどでは湾岸諸国への出稼ぎ労働者も多いほか、紅海でのイエメンの親イラン組織フーシ派による緊張も続き、スエズ運河通航収入の減少が続いており、情勢悪化で外貨収入への影響が懸念される。

次に、同地域の経済規模上位5カ国の経済成長推移を見る。トルコ、サウジアラビア、イスラエル、UAEでは、今回の情勢悪化による経済への影響は、コロナ禍による落ち込みよりも小さい(図2参照)。一方、情勢悪化が長期化した場合、渡航の制限によるビジネス活動への影響、観光客の減少やそれに伴う飲食業への影響なども懸念される。また、物流混乱による食料確保や建設プロジェクトへの資材調達への影響も想定される。

イランは今回の軍事衝突で大きな影響を受け、2027年は回復を見込むが、2028年以降は低成長が続く見込みだ。一方、トルコ、サウジアラビア、イスラエル、UAEは2027年以降も世界平均を上回る成長の見込みだ。

図2:中東経済規模上位国の実質GDP成長率推移
トルコ、サウジアラビア、イスラエル、UAEにおいては、今回の影響は新型コロナ禍による経済の落ち込みよりも小さい。イランは今回の軍事衝突で2026 年は大幅下落、2027年は回復を見込むが、2028年以降は低成長が続く。一ルコ、サウジアラビア、イスラエル、UAEは2027年以降も世界平均を上回る見込みだ。

出所:IMF

中東のインフレ率が上昇する可能性も

中東・北アフリカ諸国の2026年のインフレ率予測を見ると、イランが最も高く68.9%だ。通貨安や社会・経済の混乱などの影響もあり、物価の高騰が続いている(表3参照)。トルコでも金融政策の混乱や通貨安があり、28.6%と高い。エジプトでは燃料補助金削減のほか、通貨安もあり輸入品の価格が上昇していた。一方、トルコ、エジプトのインフレ率は2024年から2028年にかけて緩和傾向だ。なお、3月以降、ブレント原油価格が一時期100ドルを上回ったこともあり、資源輸入国では資源価格高騰のリスクも残る。

また、GCC諸国などの産油国では、国内でのエネルギー価格上昇が起こりにくいほか、通貨がドルペッグ制で為替が安定していることもあり、これまで物価は安定してきた。イスラエルを除き、多くの中東諸国では2025年よりも2026年の物価の上昇率が高い見込みであるが、世界全体のインフレ率4.4%は下回る見込みだ。湾岸諸国では食料は数カ月の備蓄があるというが、衝突が長期化すると、影響が拡大する可能性もある。

表3:中東・北アフリカ主要国のインフレ率(2026年の高い順) (単位:%)

中東・北アフリカ主要国 (△はマイナス値)注:IMFの分類では、トルコ、イスラエルは中東・中央アジアには含まれない。

国名

2024年

2025年

2026年

2027年

2028年

イラン

32.5

50.9

68.9

39.6

33.8

トルコ

58.5

34.9

28.6

21.4

17.0

エジプト

33.3

20.4

13.2

11.1

8.1

チュニジア

7.0

5.3

6.5

7.2

8.1

カタール

1.2

0.6

3.9

2.5

2.0

イラク

2.6

0.3

3.0

3.3

3.3

アルジェリア

4.0

1.4

2.9

3.0

3.0

クウェート

2.9

2.4

2.8

2.5

2.2

UAE

1.7

1.3

2.5

2.0

2.0

バーレーン

0.9

△ 0.1

2.4

1.2

1.6

サウジアラビア

1.5

2.0

2.3

2.1

2.0

イスラエル

3.1

3.0

2.3

2.1

2.0

ヨルダン

1.6

1.8

2.3

2.2

2.2

オマーン

0.6

1.0

1.7

1.9

2.0

モロッコ

0.9

0.8

1.3

1.6

2.0

参考 注:IMFの分類では、トルコ、イスラエルは中東・中央アジアには含まれない。

国名

2024年

2025年

2026年

2027年

2028年

中東・中央アジア

13.9

11.2

11.9

9.1

7.6

世界

5.8

4.1

4.4

3.7

3.4

注:IMFの分類では、トルコ、イスラエルは中東・中央アジアには含まれない。

出所:IMF 2026年4月データを基にジェトロ作成

世界各国への影響も

主要国・地域の2026年の成長率を見ると、中国は4.4%、インドは6.5%、アジア新興・途上国は4.9%、サブサハラアフリカは4.3%と高成長の予測だ。他方、中東からのエネルギー輸出の多くがアジア向けであったため、アジア諸国ではエネルギー利用制限や石油の代替調達などに取り組むほか、燃料価格を補助する国もある。さらに原油供給が滞れば、オイルショックのように世界経済に大打撃となる可能性がある。国際エネルギー機関(IEA)は3月、32加盟国が石油備蓄から4億バレルを放出することで合意したほか、市場への影響を緩和するため、石油・ガスの使用量削減措置を提案した。

なお、米国は2.3%、ユーロ圏は1.1%、日本は0.7%と世界の成長率を下回る。欧州では北海油田などからの調達が多いが、ジェット燃料不足の懸念もある。EUは加盟国間でのエネルギー調達協力や原子力の活用拡大を進める方針を示した。また、IEAは石油やガスに代わり、再生可能エネルギーにも注目が集まると指摘した(2026年4月6日付ビジネス短信参照)。石油備蓄の少ないアフリカ諸国などでは燃料価格が上昇する国もあるほか、中東から肥料の輸入が多い国もある。そのほか、世界ではプラスチック原料のナフサ、ヘリウム、アルミニウムなどを中東から多く輸入する国への影響もある。

日本も原油の94.0%を中東に依存し、中東向け自動車輸出も多かったため、影響が懸念される(「中東リスクと物流(2)日本と中東の貿易とホルムズ海峡封鎖の影響」参照)。

米国のドナルド・トランプ大統領は4月21日、2週間の停戦をさらに延長すると宣言した(2026年4月22日付ビジネス短信参照)が、状況は不透明だ。一方、4月時点でサウジアラビアでは経済活動は通常通りで、物資の供給も確保されている(2026年4月15日付ビジネス短信参照)。UAEでは海路・陸路・空路の物流の代替ルートを駆使しているという(2026年4月17日付ビジネス短信参照)。中東各国で状況は異なるが、経済活動は動いている。ビジネスにおいては、代替ルートの確保や渡航時の危機管理、各種リスク管理への対応、最新情報の収集などが必要となる。

中東情勢は流動的であり、中東と世界各国の最新動向は、特集「イスラエル・米国とイランの衝突を巡る中東情勢関連情報」「激動の中東情勢:中東各国への影響と展望」を参照。

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