台湾を包囲する中国艦隊、滑空する戦闘機、飛び交う威嚇射撃…。

南シナ海ののどかな珊瑚環礁にいたっては、まるで陣取りゲームのように島々の争奪戦が繰り広げられ、中国が実行支配した島の多くは、すでに軍事要塞に変貌している。

この極東アジアの緊張を、日本はどう捉えたらいいのだろうか?

◆『台湾』に近い、魚釣り島と与那国島

ヨーロッパから見れば、日本は、極東(ファー・イースト、Far East)、すなわち、はるかに遠い東の果てにある。
そして同地域にある『台湾』は、日本の首都、東京から眺めても、琉球列島の向こうにある遠い島だ。

その台湾が、日本にとって経済的にも国際政治的にも、そして軍事的にも重要度を高めている。

ここでまず、その台湾と距離の近い2つの島、魚釣り島と与那国島について見てゆきたい。
その緯度の差は、大きな意味を持っている。

魚釣り島

魚釣り島は、無人島で面積は約3.8平方キロである。かつてこの島に生息していたリュウキュウジカ(ニホンシカの亜種)は、すでに絶滅。そのかわりに、1970年代に政治団体が持ち込んだヤギが大繁殖してしまった。

Let’s Explore! Senkaku Islands /石垣市The Island Landscape:
Have the Goats Changed It?
「島の景観:ヤギによって変わったのか?】

石垣市は、英語版の公式パンフレットで、魚釣り島の自然環境についても比較的詳しく紹介している。

「魚釣島では、ヤギの個体数増加が希少種への脅威となっているとの懸念が高まっている。1978年、日本の民間団体が雄と雌のヤギを1頭ずつ島に持ち込んだが、現在ではその子孫は300頭から500頭と推定されている。ヤギは島の地形そのものを変え、植生を削り土壌を露出させ、浸食を引き起こして崖の崩壊につながっています」(石垣市パンフレット)

魚釣り島には人が定住していない。この島には固有種や絶滅危惧種が多く確認されている。ヤギの増加が生態系に大きな影響を与えてきた。そんなことが、写真や図を用いて分かりやすく説明されている。

興味深いのは軍事や領有権といった問題には一切触れられていないことだ。行政レベルでは、この島が主に「環境の問題」として紹介されているのみである。

◆魚釣り島は、いったいどこにある?

尖閣諸島のなかにある魚釣り島という名称は、ニュースなどでたびたび報じられる。

しかし「その島は、どこにあると思う?」と質問しても、的確に答える人はほとんどいない。
「日本海の、あの辺かな」とか、「沖縄の近く」である。
「台湾の近く」というのは、もっとも常識的な回答だ。

では、どんなふうに台湾に近いのか? それをしっかりと見てみたい。

魚釣り島の位置と面積

・緯度: 北緯 25°44′ (約25.44度~25.46度)
・経度: 東経 123°28′ (約123.28度~123.29度)
・面積 約3.81㎢

一般的なスペックは、こんな感じだ。

しかし、後述するように領空や領海、EEZやADIZといった権利(主権)を示す場合には、この座標情報は、厳密には不十分といえる。

なぜなら、基点となるのは、潮が引いた時の海岸線にある地点と決められているからだ。

⚫︎魚釣島周辺の主な領海基点(2026年時点の公的データ参照)
・魚釣島西端:経度(東経)123° 27′ 29″ ・緯度(北緯) 25° 44′ 38″
(尖閣諸島全体の最西端の基点)

・魚釣島南端:経度(東経)123° 28′ 37″  ・緯度(北緯) 25° 43′ 54″
(南側の領海・EEZを画定する基点)

・魚釣島北西端:経度(東経)123° 27′ 40″ ・緯度(北緯)25° 45′ 19″
(北西側の境界を画定する基点)
※海上保安庁が管理する低潮線データおよび関連法令に基く基点の位置

領海は低潮線を基準とし、EEZ は基線から200海里、そしてADIZは 国際法上の権利ではなく各国の運用なのである。

一口に尖閣諸島とは言っても、無人島や岩が点在しており全体像が把握しにくい。尖閣諸島の全体を一枚の地図で表すとすると、島一つ一つは、米粒よりも小さくなり島の形すらも判別できない。

そこで魚釣り島がくっきりと示してある「海洋政策研究所島嶼資料センター」の地図を見てみよう。

ようやく尖閣諸島の島々の大きさが相対的に感じられるようになる。岩は島に比べると相当小さい。
これらの島や岩は、とうてい一枚の地図にはおさまらないことがわかる。
魚釣り島と大正島が、四角で囲ってあるように、これらの島は、実際はそこにはないということだ。

「海洋政策研究所島嶼資料センター」より引用 
https://www.spf.org/islandstudies/jp/info_library/senkaku-islands–index.html

では、この尖閣諸島は、日本最西端にある「国境の島」と呼ばれる与那国島と、どの程度離れているのだろうか?

直線距離でおおよそ 150km前後だというものの、どうもピンとこない。もちろんこの、尖閣諸島の地図にはなく、ずっと下ほう、すなわち南のほうにあるはずである。

Google マップで、この魚釣り島と与那国島を同時に見る(表示させる)ことができるかをやってみる。

どんなにスケールを変えてみても、与那国島と魚釣り島とは同時には表示されない。拡大して与那国町の形が見えても、尖閣の島々は点としても表示されない。それもそのはず尖閣諸島は小さい無人島の集まりである。

与那国島が表示されるスケールでは尖閣諸島は点にもならない。/Google マップより

Google マップで見てもGoogle Earthで見ても、たくさん人が住んでいる与那国島のほうはしっかりと表示される。町名や住所を入力してEnterを押せば、小さな建物や路地までがすぐに現れる。

だが尖閣諸島はそうはいかない。それがこの島々の特性を表している。
尖閣諸島の魚釣り島と与那国島はどちらも台湾に近い国境の島だ。緯度がかなり違うがゆえに、どちらもかなり重要になる。

ここまでの話で、はっきりしているのは一つだけだ。
日本人の多くは、そのことにあまり敏感ではないようだ。

与那国島

有人島としては日本最西端の島で、『台湾』との距離はわずか111キロメートル。晴れた日には水平線上に台湾の山々が浮かび上がる「国境の島」として知られている。

面積約29平方キロのこの島には約2700人の住民が暮らす。2016年には自衛隊員とその家族が移り住み、人口の15%近くを占めるようになった防衛の最前線だという。

謎の巨大な海底遺跡ダイビングができるとか、ヨナグニウマとの触れあえると知って、多くの人々が訪れる。琉球エアーコミューター(RAC)が発着する与那国空港の年間利用客は約10万人にも及ぶというから驚きだ。

◆台湾に向けて連なる琉球列島

海上保安庁は、ユネスコの世界自然遺産に関する地図を公開している。

沖縄本島からこの与那国島まで連なった島々を俯瞰(ふかん)しており、琉球列島が鹿児島から台湾まで連なっているのがよく分かる。

琉球列島を北琉球、中琉球、南琉球と三つに区分すると、北側は鹿児島県に南側は沖縄県に属している。

出典/海上保安庁

この琉球列島を示す地図の上に、赤く塗って表示されている島々がある。

これら奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島(いりおもてじま)は、2021年7月26日に、ユネスコの世界自然遺産に登録された。

西表島

テレビ番組でもよく取り上げられるので知名度がかなり高い。

2025年現在、約2,400人の人々が暮らしているが、島の大部分は亜熱帯の原生林で覆われている。前人未到の原生林には多様な自然体系が残存しており、東洋のガラパゴスといわれる、いわば秘境である。

西表島には前人未到の原生林がある西表島は珍しい動物が生息している

しかし、この世界遺産を記した海上保安庁の地図をよく見ると、あなたは、不思議なことに気づくだろう。

その西表島のすぐ隣の、西にある与那国島は赤く塗られておらず、世界遺産にも登録されていないのかと。

なぜだろうか?

生態系の規模、絶滅危惧種の密度などの、調査結果を踏まえて申請しなかったから、だとされるが理由はそれだけではない。

出典/海上保安庁

一つは、台湾をめぐる争いに世界遺産の申請を利用したくないという人たちへの配慮。もう一つは「台湾有事」を念頭に置いた自衛隊の配備や軍事拠点の強化を、世界遺産の登録によって減速させたくない、という防衛上の思惑などがあったようだ。

「中国や台湾との領有権、歴史的権利に関する論争を再燃させる可能性があるため、外交上の「静かな管理」が優先されている」という見方もあるという。(笹川平和財団)

国防上の拠点としての役割と外交的配慮。その2つの政治的な重圧が、この島に大きく関わっている。

◆尖閣諸島の主権を失えない理由

「日本政府は、1895年に魚釣り島が無主地であることを確認したうえで、国際法に基づき、正当に日本に編入した。だから、尖閣諸島は日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかである。現に、我が国はこれを有効に支配している。したがって、尖閣諸島をめぐって解決しなければならない領有権の問題などは、そもそも存在していない」というのが、日本政府の主張である。(外務省のWEBサイト)

ECAFE(国連のアジア極東経済委員会)の報告で、東シナ海に石油資源の可能性があると指摘されたのは、1969年5月12日のこと。
石油および天然ガスが眠っている可能性が最も大きいのは、台湾の北東20万k㎡におよぶ地域。台湾と日本との間にある大陸棚は、世界で最も豊富な油田の一つである可能性が大きい。そのようにECAFEはリポートした。

すると、それまでは、何ら主張を行っていなかった中国・台湾は、尖閣諸島の領有権を初めて主張するようになる。

外務省のパンフには、その経緯が、比較的強い表現で次のような趣旨の説明がなされている。

「1970年8月に入ると、 台湾は「尖閣諸島」への関心をあわにし始め、 それが台湾及び中国の領有権に関する根拠のない独自の主張へとエスカレートしていった。1970年12月、中国の国営通信社である新華社が、尖閣諸島の領有権に関する独自の主張を掲載する記事を配信した」

「1971年6月には、台湾「外交部」が、また1971年12月には、中国外交部が公式に尖閣諸島の領有権を主張した。その後、中国や台湾において、法令や行政区域のみならず、 教科書、 地図、 地理書などが改変され、 尖閣諸島の領有権に関する根拠のない独自の主張が創り上げられていった。しかし、中国や台湾は、1970年代初めまで、尖閣諸島の領有権を主張してこなかった歴史的事実を変えることはできない。(外務省『尖閣諸島について』参照)」

このように日本政府は、中国や台湾の主張に対して、強い懸念を示しており、「歴史的にも一貫して尖閣諸島を支配している」という姿勢を崩さない。

ただ当時の情勢はというと、もう少し複雑だ。
1971年の6月には米国と日本の間で沖縄返還協定が締結され、沖縄とともに尖閣諸島も日本へ施政権返還が決まった。この返還決定に反発する形で両国の尖閣の領有権の主張が始まったわけだが、当時の中国の公式声明では、石油資源との直接的な関連には言及していない。

◆中国が、ストローで石油資源を吸い取っている!?

2000年代に入り、中国が日中中間線の中国側でガス田開発を進めると、日本側は「地下資源が連続している可能性」を指摘するようになる。これが、いわゆる「ストロー理論」だ。

まるでストローで地下のガス資源を中国が抜き取っているという、日本側の懸念である。

2026年1月8日には、木原官房長官は中国の東シナ海ガス田掘削を批判。「一方的な開発行為や、その既成事実化の試みを継続している」として、次のように述べている。
「東シナ海の地理的中間線の西側の海域において、移動式の掘削船を停船し固定していることが確認された」
「東シナ海の排他的経済水域および大陸棚の境界がまだ画定していない状況において、日本側からの度重なる抗議にもかかわらず中国側が同海域において一方的な開発行為や、その既成事実化の試みを継続していることは極めて遺憾だ」

着々と石油資源を掘り出して海底パイプラインで抜き取る中国。苛立ちを隠せない日本。両国の関係はおだやかではない。

魚釣り島をはじめとする尖閣諸島は、現在、日本が実行支配している。実効支配とは、英語でEffective Control。簡単に言えば、世界の同意なく事実上(デ・ファクト)統治している状態を指す。

もっとも、中国が急に尖閣のことを言い始めたという見方は、日本側から見た景観である。
中国側から見れば、むしろ日本こそが、海底資源の存在が指摘されるや否や、海域の管理権を固定化しようとしたようにも映るようだ。

いわゆる「ストロー理論」は、日本側からすれば合理的な懸念である。地下構造が連続しているなら、一方の採掘が他方に影響を及ぼす可能性は理論上否定できない。
しかし実際の海底地質は単純ではない。東シナ海の主要ガス田は西湖トラフ周辺に位置し、断層構造によって分断されている可能性も指摘されている。ある中国の研究者は中国の立場を学術的に整理しつつも、エスカレーションを避けるべきだと結論づけている。

出典 外務省「尖閣諸島について」

中国は、2012年の外交部声明で尖閣諸島(釣魚島)について、1895年の下関条約によって台湾とともに日本に奪われたと主張している。そして第二次世界大戦後、日本がそれを放棄した以上、国際法上すでに中国に帰属しているという立場をとっている。

日本の産経新聞社が運営する英語サイト「JAPAN Forward」で、スタッフライターの、ダニエル・キアラン・マニング(Daniel Kieran Manning)は、2025年12月15日、「沖縄は今、台湾と同じく最前線に立っている」という刺激的な記事を発表。八重山日報の仲新城編集長のストレートな言葉を紹介した。

「台湾情勢の場合、中国は早期に沖縄の無力化を図る可能性が高い」
「主権に疑念を抱かせることで、中国は『侵略者』というレッテルを回避したいのだ」
そのメッセージには、危機感が滲んでいた。

中国政府がSNS規制に厳しいことはよく知られているが、「中国のソーシャルメディアプラットフォーム「小紅書」に「琉球の有事は中国の有事だ」と主張する過激な投稿があっても、「中国当局はそれを抑制することにほとんど関心を示していない」とJAPAN Forwardでマニングは指摘している。

JAPAN Forward /「小紅書」に「琉球の有事は中国の有事だ」と主張する投稿

ここまで、魚釣り島をはじめとする尖閣諸島と、有人島では日本最西端の島である与那国島について見てきた。

しかし私たちは、もう一つ、この台湾有事、すなわち「両岸問題」を考える上で見落としてはならない諸島がある。

それは、日清戦争後の下関条約によって、中国が「戦利品として奪われた」と位置づけている澎湖諸島である。

次回は、その島をじっくりと見てみよう。

文責/木村浩一郎

「海の向こうで異変が起こる―
(2)澎湖諸島― 台湾海峡を握る島」 につづく。

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◆参考、引用文献◆

・外務省「尖閣諸島について」
・海上保安庁「ユネスコの世界自然遺産」関連資料
・海上保安レポート
・魚釣島周辺の主な領海基点(2026年時点の公的データ参照)
・海洋政策研究所 島嶼資料センター
・Let’s Explore! Senkaku Islands(石垣市)
・Google マップ
・Google Earth
・Daniel Kieran Manning, “Now Okinawa, like Taiwan, is On the Frontline,” JAPAN Forward, December 15, 2025
・フジテレビ政治部(2026年1月8日速報)
・Reuters, Ben Blanchard, February 6, 2026
・防衛庁資料「南シナ海情勢(中国による地形埋立・関係国の動向)」令和7年4月
・CSIS Asia Maritime Transparency Initiative / DigitalGlobe(写真含)
・米国防省年次報告(2016年版)
・米国防省年次報告(2017年版)
・沖縄県石垣市魚釣島写真(内閣官房)
・Photo credits: Haruo Ogi, Yoshima Niiro, Tokyo

◆関連リポート◆

◾️国際問題、国際政治・経済

・数兆円の資産、10万人の被害者
―東南アジアで拡大した「闇の帝国」
https://note.com/safe_eel5766/n/n79de8181347f

・世界は半導体でできている
─台湾TSMCの軌跡と、中国 VS 米国 対立の激化
https://note.com/safe_eel5766/n/n02df6d85d9f4

・見えない資源戦争
──ジスプロシウムという戦略兵器級レアアース
https://note.com/safe_eel5766/n/n6e23c399e1e6

・グラウラーは、ブラックアウトを起こしたのか
──サイバー攻撃という物語の検証https://note.com/safe_eel5766/n/nca7451c9cd3c

■ 三代純歌さんバッシングリポート(全14回)
・週刊誌3社による裁判・報道対応を検証。

1 加藤茶が怒鳴った──3週刊誌“同時報道”の怪
https://note.com/safe_eel5766/n/n69305463e591

■ 立花孝志さんをめぐる検証(全5回)
・NHK党党首・立花孝志氏をめぐる報道と逮捕を検証。

立花孝志の逮捕はスケープゴートか?(2025/11/13 初回)
https://note.com/safe_eel5766/n/n249c613a5385

■ その他の記録
・イリーガル探偵社 闇の事件簿(全18回・序章)
https://note.com/safe_eel5766/n/n60490b72a68e

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