同氏の試算によれば、インド国内におけるEV販売台数は2024年の10万台から2030年には200〜300万台へと爆発的に増加し、2024年の米市場におけるEV販売台数の2倍に達するという。

テスラがついにインド上陸

さて、テスラはようやくインド進出を果たした。

予約受付が始まったのは10年近く前のことだが、実際の販売開始は今年7月まで待たねばならなかった。

Business Insiderが取材したテスラファンの一人は、2016年に予約したセダン『モデル(Model)3』の納品まで7年以上待ったが、昨年夏ついに断念して頭金の返金手続きをしてアウディ(Audi)を購入したと明かした。

同社はデリーとムンバイにそれぞれショールームを開設し、クロスオーバーSUV『モデルY』を600万インドルピー(約7万ドル)で販売している。輸入関税上乗せにより、米国で販売されている同車種のエントリーモデルのほぼ倍の価格だ。

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製品販売開始と並行して人材採用も加速。カスタマーサービス・サポートに加えデリーとムンバイで先進運転支援システム(ADAS)『オートパイロット(Autopilot)』のテスターも募集している。

S&Pグローバル(S&P Global)のインド自動車市場ディレクター、プニート・グプタ氏はテスラのインド市場進出について、営業担当の人員及びショールームが不足していることを指摘した上で「本腰を入れているとは思えない」と語る。

「テスラはインドの消費者の心を惹きつけてやまない憧れのブランド。けれども、それほど(期待大)のブランドが(米国から)進出してきたのに、展開するのはショールームたった二つだったら、それは逆にインドでのビジネスにはさほど興味がないというメッセージになってしまいます」(グプタ氏)

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インドは外国製EVに70%という高率の輸入関税を課すことで、海外メーカーに同国内での生産拠点開設を促してきた。

テスラも過去に何度か工場建設を計画したものの、いずれも最終決断には至らず、今年6月にはインドの閣僚から「テスラはインドでの生産に興味がない」との発言まで聞かれた。

インドのEVスタートアップ、ベイブ・モビリティ(Vayve Mobility)のビラス・ディシュパンデ共同創業者兼最高執行責任者(COO)に話を聞くと、テスラのインド進出に対するカーマニアたちの反応は冷ややかなものだったと語る。

「6年前のインド市場なら興奮を抑えきれないといった感じだったと思いますが、今となっては特に興奮はなく、『ふーん、大したことないな』的な反応でしょうね」

ディシュパンデ氏の説明によれば、関税を上乗せした高価なモデルYはプレミアム市場に分類されてしまうので、自ずと需要が限定的になってしまう上に、インド国内には(急速充電用の)スーパーチャージャーネットワークが存在しないので、それも拡販の足かせになる。

さらに、タタ・モーターズ(Tata Motors)やマヒンドラ(Mahindra)のような強力な地元ブランドを敵に回す厳しい競争環境もある。両社は立ち上がったばかりの国内市場で今のところ独占的なシェアを獲得していて、なおかつ高率の輸入関税とも無縁だ。

「テスラが極めて手強い地元勢との競争に直面していることは間違いありません。インドのEVメーカーは国内生産なので、コスト面で圧倒的に有利です」(ディシュパンデ氏)

それでも、S&Pグローバルのグプタ氏(前出)は、国内生産と大規模な小売りネットワークの整備を伴う「本気の進出」が実現すれば、テスラ車への需要は期待できると指摘する。

「インドは世界第3位の規模を持つ自動車市場です。当然、無視するわけにはいきません」

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BYDを阻んできた壁にひび割れ

BYDが直面するインド市場への参入障壁はテスラ以上に高い。

インドと中国の地政学的対立が激化、外交関係が冷え込んだことで、BYDの工場建設計画や地元メーカーとの提携話はことごとく挫折に追い込まれてきた。

ブルームバーグ報道(9月10日付)によれば、過去5年間にわたって中国国内からインド事業を統括してきたBYDのマネジングディレクターが、数カ月後に訪印できる環境がここに来てようやく整い、他の幹部やエンジニアらのビザ取得手続きも進めている最中という。

したがって、ここ数年のBYDはインドへのスタッフ派遣すら満足にできなかったわけだが、そうした厳しい事業状況にあっても一定の成果は上げてきた。

SUV『アット(ATTO)3』『シーライオン(Sealion)7』など4車種を販売開始、9月1日にはEV累計納車台数が1万台を突破したと発表した。

ただ、BYDは7月に初めて売上高が前年割れを記録。9月上旬には、2025年の販売台数目標550万台を460万台へと16%下方修正する見通しと報じられた。

100種以上のブランドがひしめき合う中国市場で終わりのない熾烈(しれつ)な価格競争に巻き込まれる中、同社は海外市場の拡大を通じて血路を開く必要に迫られている。

前出S&Pグローバルのグプタ氏は、BYDが展開する製品ラインナップの価格はいずれも手頃で、インド市場への投入は理想的と評価し、「途轍(とてつ)もない可能性がある」と指摘する。

「BYDに関して言えば、高率の輸入関税が上乗せされてもなお消費者は製品を買っています。なので、もし関税が引き下げられれば、市場を席巻する可能性も十分あり得るでしょう。中国勢はそれだけの価値、機能、技術を提供できているのです」

インド市場はグローバル大手自動車メーカーにとっての「墓場」であり続けてきた。ゼネラル・モーターズ(General Motors)は2017年、フォード(Ford)は2021年に、長きに渡る苦闘を経て撤退を決断している。

それゆえ、冒頭に登場したマッキンゼーのチッバー氏はインド進出を計画するあらゆるグローバル自動車メーカーに対し、市場の特異性をしっかり認識するよう警告。

他の市場で成功した製品ラインや戦略をそのままコピーしてインド市場に適用しようとする安易な手口は「破滅への一本道」であって、顧客を獲得したければ「全身全霊で臨む」覚悟ないし準備が不可欠だと強調した。

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