アーティゾン美術館(東京・京橋)で「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子 漂着」展が10月11日から開催されます。

「ジャム・セッション」は、石橋財団コレクションと現代のアーティストとの共演により、美術の新たな可能性を探るシリーズです。6回目となる今回は、沖縄と東北という異なる土地に根ざし、歴史や記憶に向き合ってきた山城知佳子と志賀理江子を迎えます。

近年、社会構造の変化や災害を背景に、地域や文化のあいだに潜む断絶や、かつて共有されていた記憶の風化が顕在化しています。特に日本では、震災や戦争の記憶が薄れ、中心と周縁のあいだに見えにくい分断が広がりつつあります。本展は、そうした現代の状況を踏まえ、「中心と周縁」「土地と記憶」というテーマをあらためて見つめ直します。

また、情報が氾濫し事実の輪郭が曖昧になるポストトゥルース時代において、私たちはいかに過去と向き合うことができるのでしょうか。山城と志賀の表現は、記憶や歴史に身体的に向き合う実践であり、作品そのものが行為として訴えかける力を持っています。それは見る者の認識を揺さぶり、既存の物語や視点を問い直す契機となるでしょう。

ふたりのアーティストによる新作とコレクション作品との出会いを通じて、複雑で困難な現実に対するまなざしと、芸術の力を再考する場を創出します。

山城知佳子、発表予定の新作より(タイトル未定) ⓒ Chikako Yamashiro. Courtesy of the artist
志賀理江子《褜がらみで生まれた》2025年 ©Lieko Shiga. Courtesy of the artist

ジャム・セッション
石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子 漂着

会場:アーティゾン美術館(東京都中央区京橋1-7-2)

会期:2025年10月11日(土)〜2026年1月12日(月・祝)

展示室:アーティゾン美術館 6・5階展示室

開館時間:10:00〜18:00(金曜は20:00まで)
※入館は閉館の30分前まで

休館日:月曜日(10/13、11/3、11/24、1/12は開館)、10/14、11/4、11/25、12/28〜1/3

観覧料:日時指定予約制(9月11日[木]よりウェブ予約開始)
・ウェブ予約チケット:1,200円
・窓口販売チケット:1,500円
・学生:無料(要ウェブ予約)
※予約枠に空きがあれば当日窓口購入も可能
※中学生以下はウェブ予約不要
※同時開催の展覧会
(石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 安井曾太郎)も観覧可

公式SNS:X(旧Twitter) Instagram Facebook YouTube
詳細は、アーティゾン美術館公式サイトまで。

見どころ1:ふたりの表現者がコレクションと対話する

山城知佳子と志賀理江子、世界のアートシーンで注目されるふたりの作家が、石橋財団コレクションから独自の視点で作品を選定。彼女たちの作品との組み合わせにより、既存の文脈を拡張し、コレクションの多層的な読み解きを促します。

志賀理江子《大五郎の逆さ舟》(部分)2025年 ©Lieko Shiga. Courtesy of the artist
志賀理江子《HUMAN HIGHWAY》2025年 ©Lieko Shiga. Courtesy of the artist
山城知佳子、発表予定の新作より(タイトル未定) ⓒ Chikako Yamashiro. Courtesy of the artist
山城知佳子、発表予定の新作より(タイトル未定) ⓒ Chikako Yamashiro. Courtesy of the artist
見どころ2:「漂着」というタイトルが喚起する記憶と土地

本展のタイトル「漂着」には、偶然性と必然性、外部からの流入と内部の応答という二重の意味が宿っています。沖縄と東北、それぞれの地に自らを置き、土地に根差した歴史や人々の営みを基にしながら、創作を通して離れた場所や他者の記憶との新たな接続を生み続けてきたふたりの作家の軌跡と重なります。

本展では、記憶、災害、移動、そして再生といったテーマが、コレクション作品と交差しながら空間全体で表現されます。展覧会の空間全体が、ひとつの「漂着地」として機能し、時間、場所、身体、記憶が交錯し、観る者の感覚と記憶にも波紋を広げるような体験を与えるでしょう。

山城知佳子、発表予定の新作より(タイトル未定) ⓒ Chikako Yamashiro. Courtesy of the artist
山城知佳子、発表予定の新作より(タイトル未定) ⓒ Chikako Yamashiro. Courtesy of the artist
志賀理江子《行ってはいけない、戻ってこい》2025年 ©Lieko Shiga. Courtesy of the artist
見どころ3:両作家による新作を公開

山城知佳子と志賀理江子による本展のための新作を公開します。
山城は沖縄、パラオ、東京大空襲の記憶を映像で結び、語りや歌、祈りを交錯させて歴史の複層性を、映像インスタレーションとして編み上げます。これらは、バラック(即席のテント小屋)を舞台に、人々が集い、知識を共有し、やがて去っていくという構成の中で展開されます。個々の記憶が、土地や時代を超えて共鳴しあう空間が立ち上がります。

山城知佳子、発表予定の新作より(タイトル未定) ⓒ Chikako Yamashiro. Courtesy of the artist
山城知佳子、発表予定の新作より(タイトル未定) ⓒ Chikako Yamashiro. Courtesy of the artist

志賀は写真表現を土台とした物語を通して、東北、三陸世界における海から丘(陸)への物流の変化を「人間の作る道=人間社会のやり方」として捉えます。東日本大震災以後の復興開発でもゆらぎ続ける人間精神や社会、コミュニティの内実を、宮城県北部であらゆる意味に自在に使われる「なぬもかぬも」という言葉を起点に進歩史観やエネルギー信仰をあらゆる角度から批評的に捉えつつ、独自の物語によって紡ぎます。本展では、高さ約4メートルにおよぶ写真絵巻を空間全体に展開し、鑑賞者の身体感覚を巻き込む没入的な体験を生み出します。

志賀理江子《褜男》2025年 ©Lieko Shiga. Courtesy of the artist
志賀理江子《大五郎の逆さ舟》2025年 ©Lieko Shiga. Courtesy of the artist

両作家ともに、これまでの主題を深化させつつ、新たな展開を見せる意欲作であり、スケールの大きなインスタレーションによる強い視覚・聴覚体験と、深い思索を促す表現の力が本展の大きな見どころです。

出展作家プロフィール
山城知佳子

ビデオアーティスト。1976年、沖縄県生まれ。写真、ビデオ、パフォーマンスを駆使し、沖縄の歴史、政治、文化を視覚的に探求する。近年は、沖縄の問題をそこに留まらない普遍的な命題として捉え、東アジア地域の俯瞰された歴史や人々を題材に、アイデンティティ、生と死の境界、他者の記憶や経験の継承をテーマに制作・思考を続けている。近年の主な個展に、「Song of the Land」 (グルベンキアン・モダンアートセンター、リスボン、ポルトガル、2024–25年)、「ベラウの花」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、香川、2023年)、「リフレーミング」(東京都写真美術館、2021年)、「Chinbin Western」(ダンディー・コンテンポラリー・アーツ、ダンディー、イギリス、2021 年)など。

志賀理江子

写真家。1980年、愛知県生まれ。2008年に宮城県に移住、その地に暮らす人々と出会いながら、人間社会と自然の関わり、何代にもわたる記憶といった題材をもとに制作を続ける。2011年の東日本大震災以降、高度経済成長のデジャヴュのような「復興」に圧倒された経験から、人間精神の根源へと遡ることを追求し、様々な作品に結実させている。主な個展に「ヒューマン・スプリング」(東京都写真美術館、2019年)、「ブラインドデート」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、香川、2017年)、「カナリア」(Foam写真美術館、アムステルダム、2013年)、「螺旋海岸」(せんだいメディアテーク、2012–13年)など。

沖縄県出身の山城知佳子。宮城県出身の志賀理江子。奇しくも、近代以降に破局的な災厄を経験してきた土地にゆかりをもつアーティスト同士です。彼女たちが向き合ってきたのは、「社会の周縁」や「言葉にならない感情や記憶」。その二人が、沖縄と東北という異なる「周縁」の土地に刻まれた死者の声や忘れられた記憶を、それぞれ映像と写真によって語りはじめるとき、そこには深い共鳴が生まれることでしょう。山城の映像インスタレーションと志賀の写真空間がどのように響き合うのか。その静かで力強い対話の行方を、ぜひ見届けてみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)

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