滋賀県立美術館(大津市)で企画展「おさんぽ展 空也上 人から谷口ジローまで」が9月20日から開催されます。
「おさんぽ展」は、「散歩」や「歩くこと」をテーマに、重要文化財2点を含む74点の作品を紹介する展覧会です。鎌倉時代の禅僧・虎関師錬の漢詩に見られるそぞろ歩きの喜びや、空也・一遍らの宗教的巡礼、西行や芭蕉の旅、明治以降の画家による日常的な散歩の情景、谷口ジローの漫画『歩くひと』など、多様な歩行の姿を通して、時代や表現を超えた「歩くこと」の意味を探ります。
おさんぽ展 空也上人から谷口ジローまで
会場:滋賀県立美術館 展示室3(大津市瀬田南大萱町1740-1)
会期:2025年9月20日(土)~11月16日(日)
開館時間:9:30~17:00(入場は16:30まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館し、翌火曜日休館)
観覧料:一般1,200円、高校生・大学生800円、小学生・中学生600円
※未就学児無料※障害者手帳等をお持ちの方とその介助者は無料
※企画展のチケットで同時開催の常設展も観覧可
問い合わせ:TEL 077-543-2111
アクセス:JR琵琶湖線「瀬田駅」からバスで約10分、徒歩約5分
無料駐車場あり(びわこ文化公園内)。
展覧会詳細は、滋賀県立美術館公式サイトまで
「散歩」をテーマにしたユニークな展覧会
日本で「散歩」という語が初めて使われたのは、鎌倉時代から南北朝時代の禅僧、虎関師錬こかんしれんの漢詩文集『濟北集さいほくしゅう』だと考えられています。「梅花」「春遊」と題した漢詩で、虎関師錬は、野辺をそぞろ歩きつつ春の訪れを感じる喜びを謳っています。伝馬遠ばえん《高士探梅図》(岡山県立美術館蔵、前期展示)に月夜に梅を探して歩く様子が、浦上玉堂うらかみぎょくどう《幽渓ゆうけい散歩図》(岡山県立美術館蔵、後期展示)に山河の中を歩む様子が描かれるように、虎関師錬が謳ったそぞろ歩きは、絵画の中にも表されてきました。
浦上玉堂《幽渓散歩図》江戸時代 岡山県立美術館蔵(展示期間 10/21-11/16)
明治時代以降、西洋に学んだ画家たちもまた、散歩を様々な方法でモチーフとしました。菊池契月きくちけいげつ《散策》(京都市美術館蔵、前期展示)が描くのは、新緑の森の中を2匹の犬を連れて歩く少女の姿。金島桂華かなしまけいかの《画室の客》(京都市美術館蔵、後期展示)は、女性が犬の散歩の途中で画家を訪ねたひとときを表そうとした意欲作です。また、いつもの散歩の中でふと立ち止まったり、風景が違って見えたりする一瞬をとらえる作品も生まれました。小倉遊亀ゆきは《春日はるひ》(滋賀県立美術館蔵)で、散歩の途中に知り合いと話し込んでしまう穏やかな光景を、漫画家谷口ジローは《歩くひと》(一般財団法人パピエ蔵)で、自らが長年暮らした場所の風景を細やかに描いています。
一方、散歩に類する行為をたどると、そこここを歩くことでは散歩と似ていながら、散歩とは異なる歩行の歴史を見出すこともできます。虎関師錬より前の時代には、空也くうや、一遍いっぺん、一向俊聖いっこうしゅんじょうといった僧侶が、人々の救済を祈って諸国を巡り、その姿はたとえば《空也上人立像》(滋賀・荘厳寺蔵/滋賀県立琵琶湖文化館寄託)のような肖像として表されました。また西行は、武士の身分を捨てて僧侶となり諸国を行脚して、その感興を多くの和歌に残しています(《西行物語絵詞》(国/文化庁保管))。与謝蕪村《松尾芭蕉経行きんひん像》(逸翁美術館蔵)に描かれるのは、経行きんひんという、ただ歩くことに専念し一歩一歩をゆっくりと踏みしめ身心を整える、禅の修行の姿です。
与謝蕪村《松尾芭蕉経行像》江戸時代 逸翁美術館蔵
「おさんぽ展」では、散歩や歩くことをめぐって生まれた、重要文化財2件を含む約70作品を、一部展示替えをしながらご紹介します。
本展の4つの見どころ
散歩という身近なテーマで、時代やジャンルを超えた作品を紹介
日常生活の一コマにある散歩。この展覧会では、時代もジャンルも様々な作品を、散歩という身近なテーマで紹介します。
作品に表された散歩の風景から、どんなところを散歩しているのだろうという興味や、これは散歩なのだろうかという疑問も湧き起こってくるかもしれません。そうした体験は、作品の世界をより親しいものにしてくれるでしょう。様々な作品の間をそぞろ歩くように、「アートさんぽ」をお楽しみください。
菊池契月《散策》 1934年 京都市美術館蔵(展示期間 9/20-10/19)
地域に伝わる貴重な文化財も展示!
本展では、滋賀の地が守り伝えてきた文化財もご紹介します。たとえば重要文化財に指定されている《空也上人立像》は滋賀県近江八幡市の荘厳寺に、滋賀県指定有形文化財の《一向上人像》は米原市の蓮華寺に、《一遍上人像・六字名号》は長浜市の浄信寺に伝わっているものです。空也、一遍、一向は、人々に念仏を勧めて諸国を歩いた遊行の聖としてよく知られているでしょう。人々の救済のために諸国を巡り歩くというのは、本展がテーマとする散歩とは異なる歩行のあり方です。しかしそうした歩く僧侶たちの姿が、人々の信仰を集め、肖像という形で今日まで大切に伝えられてきたことを知っていただきたく、本展ではこれらも展示しました。
重要文化財《空也上人立像》 鎌倉時代 滋賀・荘厳寺蔵(滋賀県立琵琶湖文化館寄託)
『孤独のグルメ』の漫画家 谷口ジローの原画も!
『孤独のグルメ』が幅広く親しまれる漫画家谷口ジロー。谷口は2000年代初めからフランスをはじめ海外でも高い評価を得てきました。その谷口ジローが描いた『歩くひと』は、自宅とアトリエのあった東京清瀬を舞台に、何気ない日常の中の出会いを細やかに描いています。『歩くひと』第3話「町に出かける」から、住宅や畑が混在する風景の中を歩く様子を描いたカラー原画1点、第4話「木のぼり」の全8ページ分の原画8点に加え、谷口自身が撮影し作画の参考資料としたカラー写真を展示します。
谷口ジロー《『歩くひと』第3話「町に出かける」原画》1990年 一般財団法人パピエ蔵 ©PAPIER/Jiro Taniguchi
重要文化財を含む74作品が登場!
展覧会では、26の所蔵者・所蔵機関から出品される、48作家の74作品を、一部展示替えを行いながら紹介。たとえばかつて切手になったことでも人気の高い金島桂華《画室の客》は、後期のみの展示となります。重要文化財2作品、滋賀県指定有形文化財1作品、大阪市指定有形文化財2作品、そして、現在活躍中のアーティストの作品を含め、散歩や歩くことをめぐって生まれた、時代やジャンルも様々な選りすぐりの作品をお楽しみください。
金島桂華《画室の客》 1954年 京都市美術館蔵(展示期間 10/21-11/16)
その他の主な展示作品
カミーユ・ピサロ《ロンドン、ハイドパーク》1890年 東京富士美術館蔵(展示期間 9/20-10/19)
黒田清輝《夕の梨畑》1919年 東京国立博物館蔵
佐伯祐三《下落合風景》1926年 大阪中之島美術館蔵
東郷青児《超現実派の散歩》1929年 SOMPO美術館蔵 ©Sompo Museum of Art,25004
八木一夫《歩行》1957年 京都国立近代美術館蔵
本展は、“散歩”や“歩くこと”をテーマとしたさまざまなアートを集めたユニークな切り口の展覧会。時代やジャンルを越え、のんびりとした日常風景から、異世界のような不思議な光景まで、さまざまな作家が膨らませてきた多彩なイメージを堪能できるでしょう。展示室には、地元ゆかりの重要文化財2点を含む、えりすぐりの74点が日本各地から集結。ぜひ、心ゆくまでアート散歩を楽しんでみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)
