2025年6月10日 午前7時30分

 【論説】戦後の復興期に建てられた福井県内のモダニズム建築が徐々に姿を消している。老朽化や再開発などによる建て替えは避けられないが、記録が十分保存されないまま取り壊されるのは問題だ。モダニズム建築は地域の文化水準や社会情勢を反映した「都市の歴史」であり、アーカイブ(保存記録)を急がなければならない。

 モダニズム建築は1920年代ごろ登場、装飾を排した機能的、合理的な設計思想が特徴だ。建築資材には鉄やガラス、コンクリートが使われる。日本では戦後、役所や学校、病院、市民ホールなどの公共施設をはじめ広く採用されてきた。ただ、文化的な価値が認められにくく、アーカイブが遅れている。

 空襲、大地震を経験した福井県は、丈夫で火に強い鉄筋コンクリートで建てられた福井神社など寺院建築も多い。モダニズム建築は戦後復興に大きな役割を果たした、都市づくりの歩みを伝える文化資源といえる。

 欧米では戦後のモダニズム建築にも文化的価値を認め、組織的にアーカイブに取り組む動きが広がっている。1988年に設立された国際学術団体「DOCOMOMO(ドコモモ)」は世界各地に支部を置き、活動する。2000年に日本にも支部が発足し、名建築を選定しているが、記録・保存に結びつかないケースも多い。国立近現代建築資料館や一部の大学などがアーカイブに取り組んでいるが、十分とはいえない。

 福井県においても老朽化などで戦後のモダニズム建築物が取り壊され、設計事務所の廃業で図面などが処分されている。建て替えのため取り壊された福井県繊協ビル、今夏に完全に更地化される福井市文化会館はその代表格といえる。東京文化会館をモチーフに1968年に建設された福井市文化会館は当時としては北陸随一のホールを備え、福井の文化レベルの高さを伝える施設だった。ただ、記録が十分に整理されないまま解体された。

 福井工大工学部建築土木工学科の市川秀和教授は「このままでは福井にモダニズム建築があった記録がなくなる。福井の建築史に空白期間が生まれることになる」と警鐘を鳴らす。

 アーカイブは街の歴史となる戦後建築を記録し、共有可能な形にするのが目的だ。対象となるのは建物の図面や写真、スケッチ、映像、関係者のインタビューなど幅広く、県民の理解に加え、国や自治体、大学、建設業界の連携が欠かせない。街の歴史を継承する意識の醸成と仕組みの構築を急ぐ必要がある。

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