佐藤さん:バイデン政権においてアメリカはウクライナに多額の経済的支援や軍事支援を行ってきました。それによって間接的にロシアの国力を低下させたいという狙いがあったのは間違いありません。

シマオ:冷戦みたいなことをしていたわけですね。

佐藤さん:ですが、ロシアは直接的な戦闘はもちろん、さまざまな国から経済制裁を受けても、国力が低下しなかった。なぜかと言えば、自国産業の足腰が強いからです。とくに製造業つまり実体経済が強いということが軍事力、国力に大きく関与していることが明確になりました。金融経済が強いだけでは戦争に勝てない。それが、トランプ大統領が実体経済復活にこだわる最大の理由だと見ています。

シマオ:でも、メディアではロシア経済はジリ貧になり、国民生活もひっ迫するという論調でしたが……。

佐藤さん:もちろん当初は経済活動が落ち込みました。ですが、2023年以降、GDPは成長に転じ、伸び続けています。できる限り他国に頼らず、自国内でまかない回していく。その体制がむしろ戦争と経済制裁によって強化されたのです。

シマオ:なるほど。やはり国土が広く資源も豊富なロシアだからこそですね……。

佐藤さん:あとはお金がお金を生み出すような金融経済ではなく、農業から工業までモノづくり、つまり実体経済を中心にした体制を作り上げることに成功していたからでしょう。結局、最終的にはそういう国家が強いというのがウクライナ戦争で明らかになったのです。

シマオ:ということは、今後アメリカはロシアのようになっていく……!?

佐藤さん:その可能性は高いと思います。トランプは本気です。アメリカの産業構造を根本から変えてロシアのように自国で経済を回していける国にしていこうとしている。これまで勢いを誇ってきたGAFAなどは、早晩力を失っていくでしょう。いずれにしても保護貿易の姿勢は簡単に変わるものではありません。

90日間停止の狙いは?

シマオ:貿易の話では、中国やカナダ、ヨーロッパなど一斉にトランプ大統領の政策に反論し、トランプ大統領は90日間の停止を発表しました。NISAをやっている僕からすると、株価が乱高下してハラハラしますよ。こんなにすぐに停止するなら、最初からやらなければよかったのにとも思うんですが……。

佐藤さん:これぞトランプの交渉術と捉えるべきだと思いますよ。もともとトランプはアメリカの不動産王ですが、土地取得の交渉などはまさしく吹っ掛け合いです。例えば、本来2億ドルの土地を3億ドルで売っているとします。それに対し、「5000万ドルなら買う」と交渉を持ちかけ、相手が怒ったら、「それなら8000万ドルなら?」と少しずつ上げていく。すると気づけば、1.5億ドルで売るという話になってしまっている。

シマオ:なるほど……。結局相場の2億ドルよりも5000万ドル安く買えるわけですね。

佐藤さん:トランプはそういうディールのやり方を貿易にも持ち込んでいるわけです。実際、世界中は大混乱に陥り、列をなして交渉のテーブルについているわけですから。

シマオ:な、なるほど。スケールが違いすぎますね……。不安は尽きないのですが、相談の内容である日本の自動車産業はどうなるのでしょう? 現状日本で生産されている3分の1はアメリカへの輸出向けだということですが、大変なダメージになりますよね?

佐藤さん:嘆いていても仕方がありません。やれることは限られていますが、逆に言えば明確でもある。アメリカ国内に工場を作り、アメリカでの生産体制を築くことです。そして、日本やブラジルなどで作った車はアメリカ以外の国に輸出する。それしかありません。

シマオ:やはりそうなるんですね……。でも、せっかくアメリカ工場を作っても関税がまた元に戻ったら無駄になるかもしれないし……。

佐藤さん:それが先ほどのトランプの目的をどう捉えるかで変わってくるわけです。貿易収支の改善ということであれば、比較的早い段階でトランプ関税が解除される可能性もありますが、私は産業構造が転換してアメリカの製造業が復活するまで、この関税は続くと見ています。

シマオ:簡単には解除されるものではないということですね。するとやはりアメリカに工場を作るという結論になると。これから大変な時代になりそうだなぁ……。

トランプ関税が新たな可能性を開く!?

佐藤さん:ですがシマオくん、「塞翁が馬」ということわざがあるでしょう? 状況が変化するとつい悪い側面ばかりに目が行ってしまいますが、若い人にとっては、これはむしろチャンスになるかもしれませんよ。

シマオ:どういうことでしょうか?

佐藤さん:日本の大手メーカーがアメリカに工場を作れば、当然アメリカに赴任する日本人が増えてくる。となると、赴任した人は明らかに年収が上がります。赴任手当がつくし、そもそも物価が高いので賃金ベースが上がりますから。おそらく30代で2000万円くらいになるんじゃないでしょうか。

シマオ:年収は確かに上がるかもですが、それこそ物価が高いですよね?

佐藤さん:住居費などの固定費は高いですが、それに関しては補助が出ます。あと外食始め、さまざまなサービスアメリカはべらぼうに高いのは確かです。ですが自炊するなどできるだけ自活すれば、家賃もないので、かなりのお金を貯蓄に回すことができるはず。年間1000万円近く貯蓄に回して、10年も働けば1億円くらいになります。

シマオ:うわぁー、うらやましい! 40代で1億円の資産かぁ。ずいぶん人生が変わりそう……。

佐藤さん:1億円あれば東京の中心部でも不動産が購入できます。トランプ関税は確かに世界経済にとって不確定要素を増やしていることは事実ですが、アメリカでの生産が広がって赴任が増えることで、豊かに生活できる可能性もまた増えると考えてみてはどうでしょうか?

シマオ:すべては考えようとやり方次第ということですね。

ハイブリット車が周回遅れからいきなり先頭に

シマオ:あと、質問ではEVとハイブリット車についても来ていますね。

佐藤さん:EVはそれこそヨーロッパとアメリカが開発と普及に取り組んできました。それに対してハイブリット車はトヨタをはじめとした日本企業が中心になって開発してきた。ところがトランプが大統領になって早々に、バイデン政権が進めていたEV普及策を廃止検討する大統領令に署名しました。

シマオ:トランプ大統領にハシゴを外された形で、EVは一気に勢いを失う形になりましたね。

佐藤さん:これまではEVこそが世界的な潮流でスタンダードだと目されていましたが、アメリカが抜けたことで一気にグローバルルールから、EUのローカルルールになったというのが実態だと思います。

シマオ:それは前に佐藤さんが言っていた価値観外交からの転換と関係がありますか? つまり環境保護や持続可能性の高い社会という民主党的な価値観から外れていこう、というような……。

佐藤さん:その通りです。EVと内燃機関の最たる違いは部品点数の違いです。内燃機関はEVより部品点数が1万点は多いとされていますから、従来の自動車製造を続けることは、国内製造業を保護することにもつながります。ここにおいても理念より実体経済を重視するという話に戻るわけです。

シマオ:そうなると、棚ぼた式ではありますが、星周りさんがおっしゃるように、日本のハイブリット車が改めて注目を浴びることになりそうですね? 

佐藤さん:そうですね。遅れを取ってトラックを走っていたかに見えた日本のハイブリット車が、気が付いたら先を走っていた選手たちが失格になって先頭に立った。そんな感じに近いかもしれません。

シマオ:なるほど、分かりやすいたとえですね……! 星回りさん、いかがだったでしょうか? 自動車産業は危機に直面していると同時に、おっしゃる通りさまざまなチャンスにもつながっているようです。あまり悲観的にならず、このチャンスをどう生かすか考えていきたいですね。

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