英首相官邸であるダウニング街10番地の玄関を狙うテレビカメラ(5月14日、写真:AP/アフロ)
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2026年5月15日付)
5月14日、英国政府に閣僚辞任の激震が走る数時間前、財務相のレイチェル・リーブスがダウニング街10番地(首相官邸)前に居並ぶカメラの前に歩み出て、労働党の党首争いは「我が国を混沌に陥れる」恐れがあると警告した。
投資家たちはこの発言を、この日のうちに保健相を辞任したウェス・ストリーティングのように首相の座を狙う政治家への叱責であると同時に、内紛を避けるために債券相場急落をだしに脅す英国政府の新たな試みでもあると解釈した。
このような叱責は、英国の政治家全員が直面している厳しい現実を反映している。債券市場が債務残高の多い主要国への影響力を拡大させており、誰が政権を握ろうと結局は債券市場の奴隷になるという現実だ。
ある労働党幹部は「これは恐らく、債券市場が投票権を手にする初めての党首選になるだろう」とつぶやいた。
債務の負のループ
これは何年も前から英国を縛っている制約だが、キア・スターマーが担う首相の役職――そしてこの国の政治がこれからたどる道――が争われるなかで締めつけが日々強まっている制約だ。
英国債の市場は御しがたく、政府が財政規律から外れると借り入れコストを引き上げて罰する構えを取っている。
フィデリティ・インターナショナルのファンドマネジャー、マイク・リデルは「経済がすでに構造的に弱っているうえに政治が不安定で、ポピュリストが勢いを増しているとなれば、デット・ドゥーム・ループに陥る恐れがある」と指摘する。
このような状況では投資家が債券を売り、債券利回りを押し上げる。すると経済成長が鈍化し、さらにおカネを借りる必要性が高まるという悪循環が生じる。
英国では、かつては最も安全な資金避難先の一つと見なされていた英国債が今では不安になるほどボラティリティー(変動性)が大きくなり、すでにG7(主要7カ国)で最も高い英国政府の借り入れコストをさらに押し上げている。
5月上旬には首相降ろしの動きが盛んになり、労働党の左傾化に対する投資家の懸念が強まるなか、長期金利の指標とされる英国債10年物利回りが5.1%を上回り、世界金融危機後の高水準を更新した。
インフレとイラン戦争をめぐる懸念による債券相場の急落を政治の不確実性が悪化させている格好で、30年物国債利回りも1998年以来の高水準に到達した(価格は下落)。
5月14日にはイングランド北西部メーカーフィールド選挙区のジョシュ・シモンズ下院議員が、グレーター・マンチェスター市長のアンディ・バーナムを国政に復帰させる――ひいては首相にする――道を開くべく議員を辞職すると述べ、労働党の党首交代をめぐる憶測が飛び交った。
翌15日には英国債と英ポンドがそろって下落し、英ポンドは1ポンド=1.34ドルの水準を下回った。
債券市場の影響力が強まっていることから、税制や歳出について英政府が下せる決断の幅は狭くなっている。
保守・労働両党の政権の公約実行にとっては打撃である一方、アンチ・エスタブリッシュメント政治は勢いづいている。
今日の労働党政権は市場の急変動により身動きが取れなくなっているが、投資家は今後、急進的なポピュリスト政党の野心にも歯止めをかける可能性がある。
