【StraightTalk】国際安全保障の専門家が警鐘、イランの通行料構想が金融・通信・軍事にもたらすもう一つの地政学リスク

長野 光

長野 光
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2026.5.22(金)

中東・アフリカ 安全保障

ホルムズ海峡を通る海底ケーブルも新たな火種になりつつある(写真:ロイター/アフロ)

 5月9日、イラン軍統合指揮本部ハタム・アルアンビアのエブラヒム・ゾルファガリ報道官は、ホルムズ海峡を通る海底通信ケーブルについて、運営会社に通行料を課す考えをXに投稿した。同日、革命防衛隊に近いとされるファルス通信も、海底ケーブルに許可制や通行料を導入する構想を報じた。

 ホルムズ海峡の海底ケーブルは、イランにとってどのような交渉カードになるのか。この海域のケーブルが損傷・破壊された場合、どのような被害が想定されるのか。ノルウェーを拠点に国際貿易のリスク管理を専門とするLeidra社の地政学・セキュリティ部門責任者メレディス・プリムローズ・ジョーンズ氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──イラン側は、ホルムズ海峡を通る海底通信ケーブルの運営会社に対し、通行料を課す構想を示し始めています。現状をどう見ていますか。

メレディス・プリムローズ・ジョーンズ氏(以下、ジョーンズ):今回の米・イスラエルとイランの軍事衝突では、海上交通そのものが交渉材料になる戦略の多面性に驚かされます。ホルムズ海峡では、封鎖や限定的な通航再開が繰り返され、これまでにも数多くの攻撃がありました。重要インフラ、船舶、石油タンカーなどが標的となり、イラン船籍の貨物船も米国による海上封鎖のなかで拿捕されました。

 一方で、海底にも数多くの重要な通信インフラが敷設されています。イラン政府は、海底ケーブルの使用料、つまり通信事業者に対する通行料を徴収する構想を示し始めました。この案は、「ホルムズ海峡にある複数の海底ケーブルは、中東経済にとって重要でありながら脆弱でもある」とイラン側が警告した後に出てきたものです。実際に通行料の徴収が始まれば、通信事業者にも影響が及びます。

 かつて重要インフラと言えば、石油パイプライン、港湾、送電網などを指しました。しかし現在では、データインフラも国家安全保障と経済安全保障にとって、それらと同じほど重要な存在になっています。

 多くの海底ケーブルは、同じ海底ルート上に束ねられ、少数の海上交通の要衝に集中しています。世界中の海底には何百本もの海底ケーブルが敷設されていますが、そのうち特に重要な6本から12本ほどが中東を通っています。紅海、バブ・エル・マンデブ海峡、スエズ運河、ホルムズ海峡といった狭い海上航路は、デジタルインフラにとっても弱点になっているのです。

 これらのケーブルの多くは、アジア、中東、ヨーロッパを結んでいます。2024年には、紅海で起きた海底ケーブルの損傷により、ヨーロッパ、アジア、中東を結ぶインターネットトラフィックの最大25%が影響を受けたと報じられました。

 イランの通信網の多くは、北部の国境を越える陸路で接続されているため、イラン自身はホルムズ海峡の海底ケーブルに大きく依存していません。強く依存しているのは、アジアの国々や、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、バーレーン、クウェート、オマーン、サウジアラビアといった湾岸諸国です。ごく一部、アメリカに関係する通信もこのエリアを通っていますが、アメリカはホルムズ海峡周辺の海底ケーブルにほとんど依存していません。

──実際にイランが通行料の徴収を始めた場合、どのような展開が予想されますか。

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