憲法改正の前に「日本人による真の東京裁判」を実施せよ

改憲論議の前に知っておきたい「ドイツ基本法」と「日本国憲法」の制定経緯の違い

木俣 正剛

木俣 正剛
元「週刊文春」・月刊「文藝春秋」編集長

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2026.5.18(月)

日本国憲法の公布原本(写真:共同通信社)

 世界の主要国で唯一「憲法改正」を行っていなかった日本も、とうとう憲法改正に向けて、一歩を踏み出しました。しかし、その手続きには様々な課題があることを前回の記事で指摘しました。国民の意見や、識者の大局観のある意見を聞かず、政治家による政治家のための憲法改正になりかねない仕組みなのです。護憲・改憲という入り口での論争ばかりしていた国会議員たちは、そんな危うい改正システムであることに気付いていません。

 拙速な改正の前に、日本人が自ら戦争を総括する「新・東京裁判」が必要ではないか——。それが私の考えなのですが、同じ敗戦国としてよく引き合いに出されるドイツの憲法(基本法)では、戦争の総括がどのように反映されているのか。日本国憲法と比較した上で、自民党改憲案の「内容」について考えてみます。

前回から読む

【東京裁判から80年】憲法改正の前に日本人による「新・東京裁判」を、自ら敗戦の総括せずに未来は創れない

改憲派も護憲派も「虚構」だと主張した福田恆存

 私は、拙速な憲法改正の前に、国民的行事として「日本人の日本人による日本人のための東京裁判」を開く必要があると考えています。その「新・東京裁判」を考える上で、連合国がナチス・ドイツの指導者たちを裁いたニュルンベルク裁判がドイツ基本法(正式名はドイツ連邦共和国基本法)制定に与えた影響と、東京裁判が日本国憲法に与えた影響を比較することは欠かせません。両国が起こした戦争の惨禍に対して、どのように向き合っているかを比べる上で大前提となるからです。

 ただ、このドイツと日本の戦犯裁判と憲法の関係を論じ始めると、必ず日本の国論が分裂し、前に進まない歴史がありました。

 まず改憲派は次のように主張します。

 日本はナチスドイツのように、ヒトラーの思想により、計画的な虐殺や侵略をしたわけではない。西欧列強の侵略から、数少なく独立を守った国が、アジアから植民地を解放するために起こった戦争であり、結果的にアジアに独立をもたらしたではないか、と過去を肯定的にとらえ、米国に押しつけられた憲法だから、改正して自主独立憲法を持つべきだという主張になります。

 一方、護憲派はこう言います。

 大日本帝国の戦争はアジア解放と叫びつつも、実質は侵略戦争そのものであり、多くのアジア諸国の国民が死傷し、財産を失わせた。二度と戦争をしないと誓うことは、アジア各国からの信頼を得るために重要なことであり、絶対に憲法9条をなくすべきではない……

 昭和50年前後に大学生だった私たちの学生時代は、常にこの二つの議論の堂々めぐりであり、学生運動だけでなく、国会の左右対立の軸でもありました。

 が、この二つの論理は、双方虚構だと、主張していた思想家もいました。昭和を代表する評論家であり、保守派の重鎮・福田恆存氏です。

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