直近5年間で81%という株価下落に直面するワールプールは、AI時代にあえぐ伝統的製造業の典型例と言えるでしょう。
第1四半期の売上高、利益ともに市場予想を大きく下回り、通期の1株当たり利益(EPS)見通しを半分に引き下げ、債務削減を優先して株主配当を停止する方針を発表した同社の株価は同日12%安で引け、その後も歯止めがかからず、5月11日までに25%下落を記録。2011年の安値水準まで落ち込んで推移しています。
ワールプール(Whirlpool)の2011年以降の株価推移。Joe Ciolli; Business Insider
ワールプールの置かれた状況は悲劇的です。あらゆる環境から恩恵を受けるのとちょうど正反対で、同社を取り囲むすべてのマクロ的な影響がネガティブに働いていると言っても過言ではありません。
大まかに言って、次のような悪材料が挙げられます。

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イラン戦争
足元で続く決算発表シーズンでは、多くの経営者たちが自社の業績に対する戦争の影響は軽微だと強調しています。ところが、ビッツァー氏は説明会でそれらと正反対の見方を語りました。
消費者心理が過去最低水準まで落ち込んだのはイラン戦争が原因であると明言し、その状況を示すチャートをアナリスト向けプレゼン資料にも大々的に掲載したのです。
米国北東部を襲った猛烈な寒波(記録的な大雪と低温で各州に緊急事態宣言が発令されたことは記憶に新しい)の影響もあって、「景気後退レベルの業界縮小」に巻き込まれたとビッツァー氏は説明。米国の家電需要が第1四半期に7.4%減少、とりわけ3月の需要減少幅は10%に達したことを(チャートを使って)強調しました。
ワールプールが決算説明会で使ったチャート。米国の家電需要は第1四半期に過去の景気後退並みの減退を記録。Whirlpool First-Quarter 2026 Earnings Review歴史的な住宅市場の停滞
住宅価格および住宅ローン金利は高止まりが続き、在庫は低水準にとどまったまま。通常時なら住宅を売却する可能性のある人々もそのような環境下では身動きが取れず、売却を見合わせている状況です。
そうした複合的な事情から、米国の住宅販売件数は近年低迷が続いており、その当然の帰結として、ワールプールのような家電メーカーから新たな製品を購入する機会は減少しています。
ワールプール製品を購入した消費者も、同社にとって利幅の厚いハイエンドモデルは敬遠する傾向にあり、イラン戦争の影響と相まって、消費者の節約志向が可視化されてきているようです。
米オハイオ州内で操業するワールプール(Whirlpool)の工場。USA TODAY Network via Reuters Connect関税
これは本当に皮肉な話としか言いようがありません。
米国に拠点を置く大企業のほとんどは関税を望んでいません。海外での事業規模が大きく、関税は障壁でしかないからです。ところがワールプールの立場は正反対。同社は製品の80%を米国市場向けに生産しており、トランプ政権が(主に中国を念頭に)輸入家電を対象とした関税は追い風になるはずでした。
ところが、今年2月下旬に最高裁がトランプ関税を無効と判断したことで、国内市場で優位性を確保できると考えたワールプールの期待は脆くも打ち砕かれました。

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家電業界の価格設定
米国の家電業界に固有の問題として、ビッツァー氏は「業界の不合理な価格設定」に対する不満を口にしています。競合他社は価格を過剰に引き下げて販売しているというのが同氏の主張です。
ただ、ワールプールはすでに値上げを実施し、競合他社もそれに追随する動きを見せており、業績不振の理由(言い訳?)としては長続きしないものかもしれません。
AIの普及状況
AIツールの急速な発展はソフトウェア企業の株価下落や業界全体の終末論を引き起こしていますが、家電業界にはその影響が及んでおらず、大多数の消費者にとってAI機能付きの家電製品はいまだに「必要不可欠」の存在にはなっていません。したがって(AIを搭載した)ハイエンド製品への需要も伸び悩んでいるようです。
そんなわけで、ワールプールは起死回生の一手を切実に必要としている状況です。しかし、残念ながらその糸口を見出すには至っていません。
そして、それはワールプールだけの問題ではなく、AIトレードの蚊帳の外にいる企業(の株価)がここしばらく四苦八苦してきた厳しい市場の状況を如実に示してもいるのです。

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注目すべきこの動き
クラウドフレア(Cloudflare)の株価推移。Joe Ciolli; Business Insider
上のチャートは、ネットワーク関連大手クラウドフレア(Cloudflare)の先週の株価推移を示しています。
同社は5月7日に第1四半期(1〜3月)決算を発表。売上高は前年同期比34%増の6億3980万ドル、調整後営業利益が同31%増の7310万ドルと堅調な業績を報告したものの、第2四半期(4〜6月)の売上高見通しが6億6400万〜6億6500万ドルと市場予想に届きませんでした。
また、同社は「AIファーストの事業モデルへの進化を加速させる」ことを目的に、従業員総数の約20%、1100人以上を対象とする人員削減計画を併せて発表しましたが、投資家には好材料と受け止められず、結果として株価は終値ベースで24%という上場以来最大の下落幅を記録しています。
人員削減の理由としてAIを挙げる企業が後を絶ちませんが、2月下旬に従業員総数の40%、4000人超をレイオフした決済大手ブロック(Block)のように、人員削減が究極のコスト削減策との評価を受ける場合もあれば、今回のクラウドフレアのように業績見通しに対するネガティブな評価を加速させる場合もあるわけです。

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投資初心者のためのポートフォリオ構築ワークショップ
「ファースト・トレード・インデックス」構成5銘柄の先週の値動き。Joe Ciolli; Business Insider
ビジネスインサイダー米国編集部は、このニュースレターの配信開始以前から、5銘柄で構成する均等加重(全ての銘柄を同一割合で保有する)バスケット「ファースト・トレード・インデックス」を運用しています。
読者から寄せられたご意見を参考に、毎週必ず一つ銘柄を除外し、新たな銘柄を加えるリバランス(調整)を行うルールです。
本日時点のポートフォリオは、アルファベット(Alphabet)、アップル(Apple)、エヌビディア(Nvidia)、JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)、それに先週加えたばかりのマクドナルド(McDonald’s)という顔ぶれになっています。
結論から言うと、ファースト・トレード・インデックスの先週の運用成績は2%上昇とプラスを記録したものの、S&P500種株価指数の2.3%上昇に若干劣後しました。
全体の足を引っ張ったのは、決算発表後の株価上昇を期待して新たに組み入れたものの、3.8%下落という結果に終わったマクドナルドでした。JPモルガンも3.3%下落し、マグニフィセント・セブンに名を連ねる3銘柄の好調が相殺された形。
特にエヌビディアは前々週の5%安から一転、8.5%上昇と力強い反発を見せています。
さて、明日のリバランスは悩みどころです。半導体セクターは先週10%超の上昇を記録しましたが、私たちはこの大波に乗るべきかどうか……ぜひご意見ください。
※本記事はBusiness Insiderが毎日お届けする有料会員向けニュースレター「Cutting Edge(カッティングエッジ)」からの一部転載です。
