シンガポールの南洋理工大学(NTU)は4月7日、同大学のリーコンチアン医科大学(LKCMedicine)の研究者らが衝動的行動を抑制し適切なタイミングまで待つ自己制御を可能にする脳回路を解明したと発表した。研究成果は学術誌Science Advancesに掲載された。

(出典:NTU)

自己制御は、注意欠陥多動性障害(ADHD)や依存症などの神経精神疾患と関連している。これらの状態では、衝動を抑制し行動前に立ち止まることが難しい場合があるとされる。前部島皮質(AIC)、後部頭頂皮質(PPC)、背内側前頭皮質(dmFC)の3領域は、衝動制御に重要と考えられている。

LKCMedicineの神垣司(Tsukasa Kamigaki)助教授らの研究チームは、マウスを用い、報酬前に一定時間待機し舐め行動を抑制する課題を設計した。音で課題開始を知らせ、一定時間後にエアパフで終了を示す仕組みとし、一部の試行では合図を与えず内的な時間感覚に基づいて待機させた。待機中に舐め行動への衝動をどの程度抑制できたかを自己制御の指標とした。

光遺伝学を用いて各脳領域の活動を抑制した結果、dmFCを抑制すると待機時間が短くなり、より衝動的な行動が観察された。一方、AICを抑制すると待機時間が延び、より長く待つ傾向が示された。また、PPCを抑制しても衝動性の増減は見られなかったが、待機行動の一貫性が低下した。これは、PPCが衝動性ではなく時間の経過の把握に関与することを示唆している。

さらに神経活動の解析により、PPCの一部のニューロンは待機時間中に経過時間に応じて順番に活動し、時間の進行に伴う時計の刻みのように機能することが確認された。dmFCとAICは相反する働きをする関係にあり、前者は忍耐を促し、後者は衝動性を調整することが示された。さらに、これらの活動はマウスがどの程度待機するかを予測することが示された。

神垣助教授は「本研究は、待機中の衝動制御において異なる脳領域が補完的に寄与することを明確に示したものです」と述べた。また、本研究に関与していないシンガポールの精神衛生研究所(the Institute of Mental Health)のジミー・リー(Jimmy Lee)准教授は「衝動性の調節に関わる各脳領域の役割を明らかにしたことで、ADHDなどの状態へのより精緻な理解に近づく可能性があります」と指摘した。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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