10月27日に、今村恵子特定拠点准教授(井上治久研究室)と河口理紗講師が企画した所員向けのイベント「第1回 CiRA AI DAY」 がCiRA講堂にて開催されました。このイベントは、機械学習やAI(人工知能)を今後研究へ活用していくための情報交換を目的として行われ、約50名が参加しました。5名の研究者および大学院生が登壇し、発表はすべて英語で行われました。

CiRA講堂で発表を聞く参加者

 前半は、「チュートリアルセッション」として3名のCiRAの研究者や学生が登壇し、実際にAIを活用して現在行っている研究や研究成果を発表しました。

 大久保周子助教(高橋和利研究室)は、ヒトiPS細胞で検出される「非標準的(ノンカノニカル)な翻訳」に注目し、AIを使って未知の小さなたんぱく質(マイクロプロテイン)を探索しました。リボソームプロファイリング(翻訳されている領域や量を調べる解析手法)という実験により、ヒトiPS細胞で約4,500種類のマイクロプロテイン候補を発見しました。さらに、AIにより予測されたマイクロプロテインの立体構造を、既知のたんぱく質と比較しました。その結果、マイクロプロテインの中に、特定の機能タンパク質群と似た構造が見つかり、どのような機能をもつか、今後探索していくための手がかりが得られました。

大久保周子助教(高橋和利研究室)

 バン・イギュ大学院生(堀田秋津研究室)は、大量のテキストデータを学習することで自然言語処理ができるAIモデル「LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)」を使って、DNA配列の機能と構造を理解する研究を行っていることを紹介しました。AIを使って長いDNA配列の中に存在する、遺伝子発現に重要な配列を特定することができました。今後AIを活用することで、新しく遺伝子発現制御を効率的に行う配列の設計が可能となれば、将来的に遺伝子工学や遺伝子治療に役立つ可能性があると述べました。

バン・イギュ大学院生(堀田研究室)

 次に、今村恵子特定拠点准教授は、AIによる画像解析を応用した2つの研究を紹介しました。1つ目は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者さんから作製したiPS細胞由来運動ニューロンの画像解析です。ALS患者さんと健常者から作製した運動ニューロン画像をCNN(畳み込みニューラルネットワーク:画像認識や動体検出に用いられる機械学習モデル)で学習させたところ、ALS患者さん群と健常者群を約90%の精度で分類できました。2つ目は、AIを用いた化合物スクリーニングです。「熱拡散方程式(Heat Diffusion Equation)」を利用した機械学習モデルを使うことで、有効な化合物候補を高精度に予測できます。従来の10倍以上のヒット率を達成し、新しい化合物の特徴(ケモタイプ)も複数見出しました。

今村恵子特定拠点准教授(井上研究室)

 後半の「特別講演」では、外部の2名の研究者が講演しました。

 まず矢田祐一郎准教授(名古屋大学大学院医学系研究科)が、「神経変性疾患におけるデータ駆動型疾患進行モデリング」と題し、AIと数理モデルを組み合わせて神経変性疾患の進行を予測する研究を紹介しました。この手法を利用すると、患者さんごとに異なる進行の速さや症状の出方を、データから学習して可視化することができます。ALS患者さんのように進行が人によって大きく異なる病気でも、AIがパターンを見つけ出し、将来の変化を予測できる可能性があります。将来的には、治療によって進行の道筋がどう変わるかをシミュレーションすることにもつながります。

矢田祐一郎准教授(名古屋大学)

 次に、瀬々潤代表取締役社長(株式会社ヒューマノーム研究所)が「研究のパートナーとしてのAI:基盤モデル、生成ツール、ノーコードプラットフォーム」と題して講演しました。まず初めに、AIに膨大な細胞の遺伝子発現パターンを学習させ、医薬品などが細胞に及ぼす影響を効率的に予測する「基盤モデル:CellScribe」を開発したことを紹介しました。また、個人情報を守りながら研究者が安全にAIを使える「ローカルAI」を開発したほか、専門知識がなくてもAIを使えるようにする「ノーコードAIツール」は、企業だけでなく中高大学生にも配布され活用されているそうです。

瀬々潤代表取締役社長(株式会社ヒューマノーム研究所)

 今回のイベントは、参加者にとってAIを研究に効率的に活用する様々な利点を知る機会となりました。今後、研究者がAIと協調して研究を進めていくことで、生命科学分野がさらに発展していくことが期待されます。