連載
入山章栄の 経営理論でイシューを語ろう
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Aleh Varanishcha/Getty Images
今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。参考にするのは先生の著書『世界標準の経営理論』。ただし、本連載はこの本がなくても平易に読み通せます。
なぜ、世界的なテクノロジー企業は欧州からはあまり輩出されないのでしょうか。入山先生は「一国あたりの人口が少なく、競争環境が激しくないヨーロッパにイノベーションは起きづらいが、そもそも『ヨーロッパにイノベーションは必要なのか』という問いも重要だ」と解説します。
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ヨーロッパからイノベーションが起きない2つの理由
小倉
最近ウォール・ストリート・ジャーナルに「欧州には世界的なテクノロジー企業が存在しない」という記事を読みました。
世界トップ50に入るテクノロジー企業のうち、ヨーロッパの企業はわずか4社で、テクノロジー分野の低成長が欧州経済の停滞の原因にもなっているということです。ヨーロッパは今後、発展していくためにはどういう方法があるのでしょうか。
これはあくまで僕の意見ですが、確かに昔は産業革命の中心地でしたが、最近のヨーロッパからはあまりイノベーションが出ていませんよね。
僕が考えるに、それには理由があって、EU27カ国の人口は約4億5000万人ですが、一国当たりが小さいんですよ。これに対してアメリカの人口は、一国で約3億4000万人でしょう。
ITビジネスは、一気にユーザー数を拡大できるかが重要なポイントです。だからマーケットは大きい方が有利なんです。アメリカはその意味で、人口が3億人超えなので圧倒的に有利です。それに世界共通言語である英語を使っているアメリカで成功すると、世界中に広げられるわけです。
一方、ヨーロッパで一番大きい国はロシア(約1億5000万人)ですが、ロシアはいろいろな意味で例外ですよね。では、ロシアを除いたヨーロッパ諸国の中で一番大きい国はどこかというと、それはドイツで約8000万人しかいない。二位のフランスも約7000万人です。
では、フランスでイノベーションに成功しても、それを簡単にドイツやイタリアに広げられるかというと、非常に難しいのです。まず、歴史的にフランスとドイツなどは仲が悪い。また、言語や文化も、ビジネスの制度も大きく違います。
また、それ以外のヨーロッパの国も言葉や文化がそれぞれ違います。つまり、ヨーロッパは全体でみると4億5000万人の大きいマーケットがありますが、色々な小さな国が集まっていて違いがバラバラだから、イノベーションの源泉となるスケーリングが難しいのです。
もう一つ重要なポイントがあります。
それは、競争の激しさがあまりないことです。イノベーションを目指すと、互いに激しい競争になり、99%は失敗します。
でも、アメリカでは3億4000万人のなかで起業家たちがひたすら激しく競争するのでその競争で勝つときには、世界的に突出したプロダクトやサービスができるわけです。そこで突出して勝ったのが、例えばグーグルとかアマゾン、アップルです。どれも世界的ですよね。
小倉
我々はそれを見て「すごい」って言っていますが、ほとんどの起業家は敗退しているということですよね。
はい。一方、ヨーロッパの競争環境は、一国の人口が数百万人、多くても数千万人なので、まずそもそも国内の競争に厚みがないんです。しかも国によって文化やものの考え方が違うので、国民性が必ずしも激しい競争を求めていないのです。
例えば、デンマークという国はデザイン分野に強みがあって、豊かで、日本よりも1人当たり名目GDPが高い国です。でも、僕が3~4年前に首都のコペンハーゲンに行ったときに、現地の人から「デンマークはデザインなどで優れてはいるが、この国からは、絶対にグーグルは生まれない」と、ふと言われたんですよ。
つまり、デンマークの人たちは、ビジネスで激しい競争をあまりしないで、「みんなでどうにかする」という考え方なんです。例えば、企業で業績が落ちてきたときに、アメリカならまずリストラをしますよね。
それがデンマークだと「みんなの給料をちょっと抑えて我慢して、この人の雇用を守ってあげよう」となるわけです。この国民性は素晴らしいけど、激しい競争やリストラが起きないので、グーグルのような突出したものは生まれにくいわけです。
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日本はドイツとイタリアの両方を持っている
